エルド共和国編2

第403話 移住計画・1

 魔物の討伐から戻って来ると、早速今後のことを話し合うことになった。

 先を急ぎたい思いはあるが、イグニスやスイレンたちにはお世話になっているため、やはり放っておくことが出来ない。

 それに移動するなら転移を使える俺は確かに役に立つが、問題は二千人近くいる住人が何処で暮らすかだと思う。あとは俺の転移も一度に一緒に移動出来る人数に制限があるため、何度も行き来すると時間がかかる。

 ただ行き先に関しては、話し合いを始めてほどなくして決まった。


「エルド共和国ならある程度融通が利くけどねえ」


 元々多種族が共同で生活しているため、モリガンの意見が受け入れられた。

 特にスイレンが賛成したのが大きかったみたいだけど。

 それにそこを拠点として、移住するのはその後の人たち次第になるし、まずは安全の確保が優先されるみたいだ。


「お婆ちゃん大丈夫なの?」

「おばあ、そんなこといっていいの?」


 クリスとルリカは心配しているようだったけど、モリガンは不敵に笑っていた。

 そう言えばモリガンの残したペンダントは印籠のような効果があった。それを考えると、モリガンの融通が利く発言は信頼出来るのかもしれない。

 それが決まると俺は転移に必要な魔道具を作製。またMPが減るが仕方ない。

 今回もウィンザが運んでくれるそうだ。

 なんか最果ての町に戻って来てすぐに行くとか大変だと思ったが、それなりに強いウィンザでなくては単身行動させられないというのがイグニスの言葉だ。

 その言葉の真意は分からないけど、ウィンザが誇らしげだから詳しくは聞くのはやめておいた方がいいだろう。

 実際一日半後にウィンザから連絡があった。

 その間俺たちは交代で町の防衛の手伝いをしていた。


「それで最初に行くメンバーは誰にするんだ?」


 俺の問いに、いつものパーティーメンバーにモリガンとエリス、アルゴたちとナオトたちメンバーが行くことになった。カリナはこちらに残るようだ。


「それじゃ行くぞ」


 俺の周囲に人が集まり、転移を発動。行き先の光景が脳裏に浮かび、同時に周囲にいる人たちの体が仄かに光る。あくまで俺にはそう見えるというだけで、傍から見ると特に変わらないそうだ。

 次に念じれば、一瞬で移動が完了する。


「ウィンザはこれからどうするだ?」

「一応護衛としてこのまま同行することになっている」

「その姿だと目立つぞ?」


 この国の魔人に対する認識も他の国と変わらないと思う。さすがにその角と羽は目立つ。


「大丈夫だ。これがあるからな」


 そう言ってウィンザは拳大のものを取り出すと、それに魔力を流し出した。

 するとウィンザの見た目は変化していく。

 角と羽が消え、何処から見ても普通の人だ。


「なあ、もしかして普通に魔人は町に潜り込んでいるなんてこともあったのか?」

「その可能性は否定出来ないな」


 アルゴたちが顔を真っ青にして震えている。


「誰もが使えるものではないよ。魔力もそうだが、使い手を選ぶ魔道具だから。中には普通に人に変身出来る者たちもいるけどね。ただ王国ではあの結界があったから無理かな? 今なら可能だけど」


 ウィンザの説明を受けてアルゴたちはホッと一息吐いているが、それは他の場所なら問題なく潜入出来るということか。

 実際アドニスは枢機卿になって何年も潜入していたわけだしな。


「話し合いはあとにして、とりあえず町に行くかねえ」


 モリガンの言葉に、アルゴが元気な声を出している。

 ただ緊張しているのか、声が上擦っている。

 最果ての町でもそうだったが、アルゴは王都の冒険者ギルドでナンパしていた姿が嘘のように、積極性がなくなっていた。モリガンと対峙するだけで緊張するのか、挙動不審になる。

 それを見ていたギルフォードたちは、呆れた表情を浮かべていたが、それを見たシュンやナオトとアルゴは仲良くなっていた。

 何度か三人で真剣な表情をして話し合う姿を目撃したほどだ。

 モリガンの足取りはしっかりしていて、真っ直ぐナハルの方へと向かっている。

 最初は街道から離れた位置にいたから、まずは街道に戻った。

 ただキョロキョロと周囲を見回し、懐かしそうにしている。

 なんかその姿が、ナハルに初めて来た時に見たクリスとルリカの姿に重なった。


「主、どうしたの?」

「いや、何でもないよ」


 俺はヒカリに答えながら、何気なく他の面々に視線を向ける。

 さすがというか、アルゴやルリカたち冒険者組は、何気なく会話しながら歩いているが周囲への警戒を怠っていない。やはり体に染みついているんだろう。


「……なんか立派になっているねえ」

「お婆それはそうよ。何年経ってると思ってるの。私たちだって戻った時はちょっと驚いたんだから」


 モリガンの思わず零した言葉に、ルリカが答えている。


「それもそうかねえ」

「けど皆驚くかもしれませんね。お婆ちゃんもいるし、お姉ちゃんもいるから」

「きっと驚くさ」


 クリスとセラが嬉しそうに言う。

 ちなみにクリス以外の二人は、耳を髪の毛で隠した状態で歩いている。

 モリガンはまだ本調子じゃないため変身の魔法が使えず、エリスはそもそも使えないそうだ。


「けど結構人がいるのかねえ?」


 モリガンの言葉通り、ナハルの町に到着すると、そこには列が出来ている。

 皆町に入る順番を待っているようだ。

 俺たちはその最後列に並ぶと、順番を待ちながら周囲の声へと耳を傾けたのだった。

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