第402話 再会・8

 最果ての町に戻ってきたが、様子が少し変だった。

 この時間なら子供たちの騒がしい声が聞こえてきそうなのに、それが聞こえてこない。

 気配察知を使えば、人の気配はある。

 俺たちが部屋を出ると、ちょうどスイレンがこちらに来るところだった。


「おかえりなさい。無事戻って来てくれて良かったです」


 通信で報告はしたはずだが、やはりしっかり顔を見ると安心するようだ。

 スイレンの視線がモリガン、カリナ、ミハルの順に向けられ、最後にアルゴたちを見て首を傾げていた。


「あ~、彼らは例の冒険者の人たちです」


 俺が言うと、それだけで納得したようだ。


「それより何かあったんですか? いつもより静かですが」


 俺が尋ねたら、


「そうですね。説明するので一度食堂まで移動しましょう」


 と、踵を返して歩き出したからその後に続く。

 食堂に行くと、そこにはいつも騒がしい子供たちが静かに座っていた。

 時間的にまだご飯の時間ではないから、違和感を覚える。

 俺たちの姿を認めて顔を綻ばせたが、普通なら声を掛けに近付いて来るのにそれがなかった。


「少し事情を説明します。皆は部屋に戻って静かにしていなさい」


 スイレンの言葉に、皆静かに頷き食堂を出て行った。子供たちの後に続き、スイレン以外の大人も出て行く。

 確かにこの人数だと、食堂が狭くなってしまうから仕方ないのかもしれない。


「あの、お姉ちゃんたちはどうしたんですか?」

「今は外にいます。シュンとカエデ。コトリちゃんも一緒です」


 スイレンが席に着くように促したタイミングで、外に出ていた一人がお茶を持って戻ってきた。


「まず、今エリス様たちがいないのは、緊急事態が起こっているからです。もっともイグニスさんたちもいるので今のところ被害はないのですが、魔物が町の方に攻めてきているので、一応の処置として子供たちには外で遊ばないように言ってあるのです」

「確かここには結界のようなものがありませんでしたか?」


 俺の言葉に、スイレンは困ったような表情を浮かべて説明してくれた。


「はい、そのはずなのですが……イグニスさんによれば魔王城の機能が停止したからではないかとのことでした。あとは魔王という存在が完全にいなくなったから、のようなことも話していましたけど、私には難しすぎて分かりませんでした」


 それだけ聞くと、最早この最果ての町は外敵から守るためのものが完全に消失したということになる。

 もっとも今は一時的なことで、黒い森全体が人間の侵攻やらで変に刺激されているため、森の中で生活していた魔物が活性化しているのではと言っていたという。


「それじゃお姉ちゃんは外ですか!」


 クリスが慌てて立ち上がったその時、エリスとシュンたちが部屋に入ってきた。


「お、お姉ちゃん!」


 クリスはほっとしたようだったが、エリスはこちらを一度見ると、涙を浮かべながら近付いて来てそっとモリガンに抱き着いた。


「お婆様ご無事で……」

「ふふ、エリスも無事で良かったわねえ。しかもこんなに大きくなって……クリスたちのこともそうだったけど、時の流れを感じますねえ。それと良く頑張りましたね」


 モリガンのその言葉に、エリスは堰を切って泣き出した。

 きっと色々な想いがエリスの中にあったのだろう。クリスたちも……そして何故かアルゴも泣き出した。ギルフォードたちがアルゴを慰めている。

 一方こちらからはミハルが駆け出し、シュンがそれを両手を広げて構えて嬉しそうな表情を浮かべていたが、それは華麗にスルーされてカエデの胸に飛び込んで行った。

 うん、見なかったことにしよう。

 ナオトが笑いを堪えながらシュンを慰めていたけど。


「騒がしくなってしまいましたね。良かったら部屋でゆっくり話し合うといいですよ」

「ですがその……外では皆が……」


 スイレンの言葉にエリスは頷きかけたが、どうやら外のことが気になるようだ。

 もしかして魔物がまだ押し寄せているのだろうか?


「なーに、それなら俺たちが代わりに行って来るさ。なっ!」


 それを見たアルゴが名乗りを上げた。

 きっと良い所を見せたいんだな。

 ギルフォードたちはやれやれといった感じだったが、口では「仕方ねえな」と言っている。


「なら俺も外に行くよ。アルゴさんたちだけじゃ勝手が分からないだろう? クリスたちは残って少しゆっくりするといい」


 ナオトもこちらに来そうだったから手で制して残るように促した。

 俺は正直残っても特に思い入れがあるわけでもないしな。

 俺はヒカリとアルゴたちと一緒に外に出ると、気配察知と魔力察知をしようした。

 ちょうど町を囲むように人が配置され、何人かが町の近くにいる魔物を倒しにいっているみたいだ。

 きっと町に被害を出さないために、離れた場所で戦っているのだろう。

 俺たちが一番魔力の強い者のところにいけば、そこにいたのはイグニスだった。

 他には町の大人たちも装備を固めて立っている。


「戻ったのか?」


 俺が頷くと状況を教えてくれた。

 やはり町を囲う結界が消えて、魔物が町に流れてきているそうだ。

 俺はアルゴたちのことを皆に紹介した。

 エレージア王国の王城に乗り込み、エルフを救った話をすれば、皆感動したようで簡単に受け入れていた。

 その警戒のなさが逆に心配になるが、スイレンが一度会ったなら大丈夫のようなことを獣人のヒルルクは言っていた。

 逆にヒルルクを見たアルゴたちは緊張していたが、もしかして獣王と同じ狼の獣人だからか?


「主、肉を狩る?」


 そんな中ヒカリは平常運転のようだったから、頭を一つ撫でるとヒルルクと一緒に魔物のいる方に足を向けた。




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