第399話 王都攻防戦・2

 妙な緊張感に包まれる中。それが起こった。

 魔物の群れの最前列より少し後ろ側に強い魔力を感じたと思ったら、それが渦を巻いて外に広がっていき魔物を巻き上げていった。

 巻き上がられた魔物はその渦……竜巻の中で切り裂かれて血を撒き散らすため、やがてその竜巻は真っ赤に染まり血の雨を降らせた。

 その光景を正面から見ていた俺たちの方が、ある意味恐怖したのかもしれない。

 風魔法のトルネードに似ているが、威力は段違いだ。クリスの精霊魔法だろう。

 ただし魔法を撃たれた魔物の足は未だ止まらない。

 このままの勢いで激突したら、さすがにこちらもただでは済まない。

 だから次に他の魔法使いたちが使ったのは前列の魔物の足を止める魔法。主に土魔法を中心としたウォール系を使い、倒すことよりも足を鈍らせることに重点が置かれた。

 これはいわゆる最前列の足を止めて、後続と激突させることを狙っている。

 それで魔物が板挟みになって倒れればよし。ただし一番の狙いは勢いを殺すこと。

 ゴブリンやウルフが突進してきても脅威にはならないが、大柄の魔物の突進は盾士でも止められるかは分からないのだから。


「突撃だ!」


 そして獣王の号令のもと近接部隊の突撃が始まった。

 魔法使いによる魔法攻撃が止まったタイミングを見て命令したようだ。

 俺もそれに従い、駆け出す一向についていく。さすがに一人歩いていくわけにはいかないからしっかり走る。

 ただ魔物に接近してからは足を緩めて、歩きながら攻撃を行う。

 魔力の籠ったミスリルの剣の切れ味は格別で、分厚い肉板をしているオークジェネラルやオーガを紙切れのように斬り裂いていく。

 それには一緒に行動していたアルゴたちも驚いていたが、俺よりも衝撃を与えたのはセラだろう。

 左右の手に一本ずつ持った斧を駆使して魔物を斬るというよりも潰すような感じで葬っていく。

 俺と違って肉片が飛び散ったり、即死しなかったりで魔物が断末魔をあげるものだから、ある意味そちらの方が凄惨な感じを受けただろう。

 実際一緒に戦っている冒険者の方が震えあがっているぐらいだ。

 それを見て楽し気にしているのは獣王ぐらいだな。むしろ称賛しているよ。余裕あるな本当。

 やがて銅鑼の合図が戦場に響き渡った。

 これは後退しろという合図で、魔法使いの次弾の用意が出来たという意味だ。

 俺たちは出来るだけ魔物から距離を取るように後退する。

 そしてそれを待っていたように魔法使いたちの魔法が炸裂する。

 既に魔物の勢いは止まっているから、今度は威力重視の魔法が次々と撃ちこまれて行く。

 そこには魔人の魔法使い部隊もいるから、その威力で地面は削り取られてクレーターのようなものも出来ている。


「あんなのと本気で戦ったら、命がいくつあっても足りないよな……」


 アルゴたちの意見はもっともだ。

 ただこの威力は、多くの魔法使いによる攻撃だからそう映るのかもしれない。と思いたい。

 実際一番最初に放たれたクリスの魔法の一撃の威力には、誰もが度肝を抜かれただろうし。


「さあ、最後の仕上げだ。いくぞ!」


 魔法の嵐が止み、死屍累々と魔物が横たわる中、俺たちはこの戦いを終わらせるために生き残った魔物の掃討に取り掛かる。

 もっともこの頃になると、ある程度の知能のある魔物は撤退をしていった。

 さすがに全力で逃げる魔物に追い付ける者は多くないから、中には逃げ延びたものもいるが深追いはしないみたいだ。

 果たして逃げた魔物は人間に対する恐怖が刻まれたのか、それとも恨みが募ったのか……それは分からない。

 ただ言えることは魔物の進行は防がれ、王都には何の被害も出なかったことか。

 ま、死体の処理とクレーターと化した地面の整備やらで後片付けは大変そうだが、命を失うことに比べたら大したことないよね。

 実際王都側からは魔物撃退の報告を受けたのか、民衆たちの上げる歓声が聞こえてくる。


「とにかく何事もなく終わって良かったな」


 戦いの中で重傷者は出たみたいだが、死者は出ていないみたいだ。

 王都の教会関係者が尽力してくれたらしい。これはミハルがお願いしたため、すんなり話が通って協力してくれたとのことだ。

 ひとまず戦った者たちは一部を残し王都に戻り、残ったものはギルド職員の護衛という形でその場に残るみたいだ。

 とりあえず死体をそのままにすると駄目になるから、運び出すみたいだ。主にアイテム袋に収納してだけど。


「ソラも参加してきたらどうなのさ」


 セラに言われて悩む。確かに俺も手伝えば多くの魔物の死体を保管することが出来るけど……。


「とりあえずヒカリと交代してもらってきていいか? あと俺は獣王と交渉してくる」


 死体の回収をした場合報酬をもらえるかということと、ヒカリを呼んだのは確保したい魔物の肉の意見を聞きたかったからだ。

 俺としては魔石の方が重要だから他はなくてもいいと思うけど、それを口に出すとヒカリが悲しむからな。

 その後俺は獣王と交渉し、ヒカリと一緒に魔物の死体を回収した。選ぶというよりも、状態の良い魔物の死体を回収したといった方がいいかもしれない。

 結局俺が皆の待つ王城に戻ったのは、寝静まった夜遅くだった。

 明日は朝起きたら冒険者ギルドにアイテムボックスに回収したものを置きに行かないとだな……。

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