第398話 王都攻防戦・1

 ギードの予想通り。城塞都市は陥落した。

 その報を受けた王都に住まう住人たちは動揺したが、獣王の宣言により落ち着きを取り戻した。自らがラス獣王国の獣王エンドを名乗ったのが大きかっただろう。

 それと王都防衛に冒険者の多くが参加するというのも影響していた。

 たぶん王都民の多くも、それほど騎士に良い感情を持っていなかったというのもあるかもしれない。聞けば普通の騎士は問題ないが、貴族出身の騎士が結構悪名を轟かせていたみたいだ。


「それでエンド様。どう戦うんですか?」

「もちろん正面からぶっ飛ばすんだよ!」


 獣人の側近らしき者からの質問にエンドが堂々と答えた。

 獣人勢は盛り上がるが、冒険者ギルドから来たギルドマスターたちは頭を抱えている。あ、リュリュも額に手を当てて天を仰いでいる。


「馬鹿なことを言ってないで真面目にやれ。そして正面から突っ込むなら貴様一人で行け。それで小童、何か策はあるのか?」


 ギードが辛辣な言葉を吐いて、リュリュに意見を求めている。

 俺としてはそんな言葉がギードから出たことに驚きだよ。

 考えが表情に出ていたのか、ギードは心外だと言ってきた。


「そうっすね。とりあえず王都の防壁を利用して魔物を迎え撃つっす。正攻法で面白味もないなんて意見は却下っす。防壁自体はかなり頑丈っすから、それで十分戦えるっすよ。魔法が得意なエルフ様もいますし、最初に遠距離からの魔法攻撃。あとは掃討戦で終わりっす」

「うむ、本当にそれで大丈夫なのか?」


 ギルドマスターが代表して質問している。


「問題ないっす。ギード様たちも参戦してくれるんすよね?」

「ああ、ここを滅ぼすとあとの楽しみがなくなるしな」


 ギードの笑みは、きっと邪悪な笑みに見えているのだろう。

 ギルドマスターたちの顔が引き攣っている。

 冒険者ギルドとしては、魔人による被害を受けているから警戒するのは仕方がないのかもしれない。

 ただギードとしては王都をどうにかしようという意図ではなくて、拘束した王や貴族たちのことを指して言っていると思う。

 やがて配置決めが行われて、俺たちは準備を始めた。

 俺たちの仲間で参加するのは、俺にヒカリ、クリスにセラの四人に決まった。

 ルリカはモリガンの、ナオトはミハルの付き添いで残ることになった。

 ちなみにカリナも本調子じゃないから待機することになった。


「セラ姉、主のことお願い」

「任せるさ。ヒカリちゃんもクリスのこと頼むさ」


 今回ヒカリにはクリスの護衛として城壁の方に残ってもらっている。

 少し大柄の魔物が多いということで、短剣では相性が悪そうだというのもある。


「あ、アルゴさんもこっちなのか?」


 俺たちが掃討部隊の方に向かえば、そこにはエンドと一緒にいるアルゴの姿があった。


「それとえーと、獣王様もこっちで?」

「は、は、は。エンドで結構だ。それよりソラ少年もこっちなのか? それとそちらのお嬢さんも」


 獣王は不敵に笑うが、一応この掃討戦の責任者だと思うが、まさか本当に最前線に来るとは思っていなかったから驚きだ。

 いや、本人は本気でも、さすがにリュリュが止めると思ってたんだよ。


「ふむ、これはお手並み拝見だな。終わったら是非戦ってみたいものだ」


 大声で笑いながら行ってしまった。

 本当に自由人というか、嵐のような人だな。


「あ~、それでアルゴさんに聞きたいことがあったんだけど、今いいかな?」

「ん? 何か俺に用でもあるのか?」

「えっと、アルゴさんが一目惚れしたってエルフは、モリガンさんなのかどうか聞いておきたくて」

「……間違いなく、彼女が、そうだな」


 ここに来る前に一度顔を出してきたらしい。

 俺たちとちょうど入れ違いだったのか。


「それでどうするつもりなのさ?」


 あ、セラが聞きにくいことをズバリと聞いた。

 セラも育ての親のことだから気になるのかな?

 けどそれだと意味が伝わらないと思うぞ。


「えっと、どうとは?」


 アルゴが戸惑いながら聞いてきて、セラは今度は俺の方を見てきた。

 転移関係が絡んでいるから、話していいのか迷ったのかもしれない。


「この戦いが終わったら、一時的に体を休める場所に移動する予定なんだ。これはクリスたちの希望でもあるかな。だから別れることになると思うけど、付いて来るのかどうかをセラは知りたいのだと思う」

「……付いて行けるのか?」

「そこはクリスたち次第かな? あ、あとギードの許可も必要かな」


 行くのは最果ての町だしな。そこで療養して体力が戻ったら共和国に行くというかもしれないけど。

 けどエリスもそうだけど、これからどうするのかな?

 これは最果ての町に住んでいる人たちにも言えることだけど。


「ま、その話はここを無事生き残れたらにしようか。もうそれほど時間がないだろうし、集中しないと命を落とすことだってあるからよ」


 迷うアルゴに代わり、ギルフォードがそんな言葉を返してきた。

 確かにそうかもしれない。

 俺はMAPを表示させて確認すると、結構な数の魔物が表示された。

 そして思っている以上に魔物の進攻が早い。

 結界を破壊してから、王たちを断罪したり、モリガンの隷属の仮面を外したりと、色々なことをしていたから予想以上に時間がかかったのもあるのかもしれない。

 やがて地平線に土煙が上がるのが見えてきた。地響きも聞こえてきた。

 ざわついていた一団は静まり返り、皆一様に向かいくる魔物の方に視線を向けたのだった。

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