第397話 再会・6
それは実にあっさりとしたものだった。
特別な儀式があるわけでもなく呪文があるわけでもない。
ただ王が隷属の仮面に触れ、一言言えば解除された。
「下手なことをするな。命令通りのことをしろ」
とリッチエンドは王に命令していたが、首元に剣を突き付けられていたら変なことはしないだろう。
脂汗を流して顔面蒼白になっていたが、それを可哀想とは思わなかった。
たぶんここにいた者の殆どが同情なんてしていないだろう。していたのはたぶんこれから先、同じ目に合うだろう王国側の人間だけか。
隷属の仮面から解放された人は、その反動か意識を失いベッドの方に運ばれた。もともと意識が怪しい人が多かったし、とりあえず休息は必要そうだ。
仮面が外れたモリガンも同様で、頬がこけて青白かった。健康的な状態ではないことは一目で分かるほどだ。
クリスたち幼馴染とカリナが付き添い、まだ調子が戻っていないミハルも万が一のことに備えて一緒に待機している。教会の人にも来てもらえるか既に手配していると言っていた。
またアルゴの想い人がモリガンだったようで、顔を真っ赤にして硬直していた。
仲間たちの声掛けにも反応がないようだが、再起動するまで放っておいていいだろう。
「で、あれはどうやって飼いならしていた?」
リッチエンドが異世界人の血を引く集団を指して王に尋ねた。
「もっと言い方があるっす」
とリュリュに注意されていたけど。
これは王だけでなく、あの魔法使いや、黒装束に身を包んだ者たちが命令を聞くようにどう教育してきたかを話し出した。
それを聞いたリュリュは頭を抱えていたが、その時に使用した精神に影響を及ぼすという薬品の原料などを聞き出し、その治療法を探していくと言っていた。
これは一朝一夕で出来るものではないようで、時間をかけてやる必要があると言っていた。特に個人差があるため、それを見極めてからその人に合った方法を探していくとも言っていた。
ヒカリはジッとリュリュたちの言葉に耳を傾けながら、連れて行かれる人たちの姿を見ていた。
「気になるのか?」
「……分からない。けど私みたいに過ごせるようになればいいと思う」
「そっか……」
「うん。楽しいこと見付けられるといい」
ヒカリにとって楽しいことか……。過酷な旅になってるけど、それでも楽しいと思ってくれているなら俺としても嬉しいな。
「それでエンド。こいつらにはどんな罰を下すんだ?」
一通り聞き取りが終わると、ギードが尋ねていた。
それは気になるが、リッチエンドが決めるのか?
聞かれたリッチエンドも狼狽えて困っているように見える。チラチラとリュリュの方に視線を送っているがガン無視だ。
この場にいる皆の……俺や魔人、獣人、果ては王国の関係者の視線がリッチエンドに集中する。
やがてリッチエンドは意を決して口を開いたようだ。
「うむ、穴を掘ってそれを埋めるという作業なんてどうだ? 最高の罰だと思うぞ!」
リッチエンドは自信満々に言い切った。
俺は何と答えたらいいか迷い、ギードたち魔人は反応に困っている。一方一部の獣人たちは笑いを堪えていて、王国の人間は戸惑っている。
「……何でそう思ったんだ?」
皆の言葉を代弁するかのようにギードが尋ねた。
「……一番辛かった罰だから、な……」
リッチエンドが絞り出すような声で答えた。
なんか遠い所を見て、その目が死んでいる。
それで察した。これはきっとリッチエンドが実際に体験した中で一番辛かったものだと。
けどそれを提案するのもどうかと思うが……この場にいる殆どの人間がそう思ったに違いないが、誰も突っ込むことはしなかった。
それほど今のリッチエンドの姿は、哀愁漂い下手に声を掛けることが出来ない雰囲気に包まれていた。
「とりあえず生産的な罰をあとで考えるとするっす。とりあえず牢に入れる者と入れない者を分けていくっす」
何とも言えない空気はリュリュがテキパキと指示を出すことでどうにか払拭された。
王族はそれぞれの部屋に見張りをつけて監禁され、魔法使いたちは魔法が使えなくなるという拘束具を嵌められ牢屋に。騎士たちも素行が悪かった者たちを中心に牢屋に押し込まれていった。
その際魔人と獣人の一部が見張りにつき、足りないのは冒険者に依頼を出して頼んでいた。橋渡しとしてアルゴたちが活躍したのはいうまでもない。
その後俺たちはモリガンが休んでいる部屋に向かった。
なんか戦闘以上に疲れた。
部屋に行くと、モリガンは一度目覚めたけどまた眠ってしまったようだ。
意識がまだはっきりしていなかったが、クリスたちを見て安堵していたという。
涙の跡が残っているから、泣いて喜んだのかもしれない。それはクリスたちにも言えそうだ。
「それでどうなったの?」
ルリカが尋ねてきたら、
「狼の人が哀れだった」
とヒカリが素直に答えた。
いや、それじゃ分からないからね?
俺はひとまずクリスたちが退出してからのことを順を追って話した。
「そう、ですか……」
話を聞き終わったカリナは複雑そうな顔で頷いた。
「それでこれからどうする? 魔物の進行を防いだあとのことだけど。ミハルは最果ての町に移動させるために一度行くと思うが、モリガンさんとカリナさんも一度そっちに移動するのか?」
「……はい。私はそれでお願いします。ここにはいたくありませんから」
なら一度転移で戻って、それから竜王国を目指すか。
本音としては歩いて行きたいところだけど、それだと時間がかかり過ぎるからな。
ギードに相談して転移の目印となる魔道具を竜王国に持っていってもらうのが最適かな?
これは戦闘終了後にお願いしよう。
また魔道具を作製すると、MPが減ってしまうからな。
あ、けどアルゴはどうすればいいんだ? そっちも終わったら聞いてみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます