第396話 王都・4

 全ての罪の告白が終了し、王が奴隷になったことが宣言された。

 今王都がどうなっているか分からないが、混乱していることは確かだ。

 王城のある場所は貴族街に囲まれていて一般市民の暮らす場所と離れているから、今どうなっているかが分からない。

 国のトップである王が……王子や王女も次々と拘束され、王都に滞在していた貴族連中も一時確保されている。

 彼らがどうなるかは、罪の深さによって与える罰を変えるようだ。


「問題は他の街の貴族っすね。これを機に独立をするのか、それとも国を立て直すのに協力するのか……」


 交渉に向かうが、どうなるかは予想が出来ないみたいだ。

 中継都市フェシスは比較的獣王国に近いから、まだ理解されるかもしれないが、問題は南門都市エピカだそうだ。


「それにおいらたちはこの国を支配したいとも思っていないっすからね。いっそギードさんたちで治めてくれた方が楽でいいっすよ」


 その発言にはギードが顔を顰めていたが、魔人が受け入れられるには時間がかかるだろう。

 あの王様の告白で、魔人は魔王の手先というよりも悪事を企む王国の暴走を阻止するために働いていたという立位置に収まっている。

 特に今回はエルフを始めとした過去別の世界から迷い込んだ人を救うために、獣王の力を借りたという筋書きが作られていた。

 実際問題。魔人の被害に合った国は主に王国と帝国で、他の国では聖王国でミアを殺そうとした事件以外では、特に大きな活動をしていなかったみたいだ。

 まあ、異世界人を秘密裏に襲撃して殺していた過去はあるみたいだが……。

 道具として一生こき使われ続けるなら、死も一つの救いになるかもしれないけど。やはり当事者としては思うところがあったりする。


「いっそ魔王様に治めてもらってもいいかもしれないな」


 なんて冗談なのか本気なのか分からない言葉をギードが言った時は、クリスが本気で止めていた。

 その後アルゴたちと合流し、ギルフォードがギルドに走って事情を説明しに行った。

 今回の件でギルドはどう動くか気になったが、国への干渉はしないとのことで、傍観を決め込むだろうとのことだ。

 ただ今回は街の混乱を防ぐためにも、一肌脱いでくれるだろうとは言っていた。


「それに混乱を沈める方法がないわけじゃない」


 ギードが言うには、これから未曾有の危機に王都は襲われるらしい。


「また何か企んでるのか?」

「企みとは違うが、王都が魔物の襲撃に遭うだろうからな」


 その発言には、拘束されている王侯貴族の面々が震えあがっていた。


「何でまたそんなことに?」

「結界が消えたからだ。結界は城塞都市の向こう側……黒い森の外周部まで範囲に入ってた。そのお陰で力がない者たちでも魔物の進行を食い止めることが出来ていた。今はそれがないから苦労しているだろうよ」


 そしてギードの見立てでは、城塞都市は突破され、魔物は王都に攻めてくるだろうとのことだ。


「以前アドニスが聖都を攻撃するのにスタンピードを起こしたが、それと似たような感じで誘導したのか?」

「王国に関しては特に手を加えてはいないな。ある意味今までの行いが、それを引き起こすといったところだ」

「それじゃそれをおいらたちが防衛すればいいってことっすか?」


 それまで話を黙って聞いてきたリュリュが尋ねてきた。


「その通りだ。出来るだろう?」

「も、もちろんだとも! 力の見せどころだな!」


 獣王はちょっと腰が引けているが、暴れられるということでやる気には満ちている。ギードと話す時はどうも緊張するようだ。


「ま、俺たちも参戦するし。大事には至らないだろう」


 ギードたちが参戦するのは、魔人にとっても魔物は敵であることを認識させるためのようだ。

 魔人は魔物を操るや、魔人の手先だみたいな噂もあったような気がするし、それを払拭するためだろう。


「あとはクリスにも出来れば参加してもらった方がいいだろう」


 エルフの力を見せつけるのに良い舞台だと言う。


「けど精霊魔法とか強すぎないか? 逆に警戒されると思うが……」

「そんなことはないさ。そもそもSランク冒険者なんてのは、人間やめたような変人が多いんだからな。ま、俺の敵じゃねえけどな」


 それを言われるとそうかもしれないと頷くしかないのか?

 ただアルゴたちは「分かる」と頷いている。


「クリスはそれでいいのか?」

「はい、私は大丈夫です。それにこの街には私も思い出があります。この街の人たちを救えるなら力を使うことに戸惑いはありません」


 クリス本人が納得しているなら構わないか。ルリカとセラも特に止めようとしていないし。


「話はまとまったな。なら魔物がここに到着するまでまだ時間があるだろう。それまでにやることをやっておいた方がいい」


 俺が首を傾げていると、ギードが呆れて言ってきた。


「隷属の仮面の解除方法を聞くんじゃないのか? エンドの奴に頼めば聞き出せるだろう?」


 現在王を始めとしたその多くの奴隷の主が、獣王になっている。

 だからリッチエンドに頼めば、モリガンを始めとした、ヒカリと同じ特殊部隊にも付けられた隷属の仮面の解除方法が分かるかもしれない。

 俺たちはそのことを伝えると、早速リッチエンドが王を連れて来て命令を下した。

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