第395話 断罪・2

 聞くに堪えないとはこれのことを言うのか?

 泣き叫び声と時々殴打の音が聞こえてくる。

 もしかして玉座の間で起きたことは、現在進行形で外にも聞こえるようになっているのか?

 ギードに尋ねたら、悪そうな笑みを浮かべ言った。


「ああ、魔道具を使ってあそこでの会話は王都中に伝わっているだろうな。助かりたいがためにペラペラと喋るとか、馬鹿な奴だ。いっそ自決でもすれば、まだこの国は助かったかもしれないのにな」


 この世界ならではだよな。暴力を使用した尋問は。向こうの世界だったら無効になる案件だ。

 だからなのかナオトもミハルも顔を引き攣らせている。

 逆にルリカたちは何とも感じていないみたいだ。

 クリスは……怒っているのか? ギュッと杖を握り、感情を押し殺そうとしているように見える。

 確かに王の告白には、エルフを使った人体実験のようなことがあった。

 その豊富な魔力を利用して、様々なことが行われていたみたいだ。

 酷い時には強い種を誕生させるために、非道な行為も行われていた。

 ただその中には、俺たち異世界人の話は一切なかった。

 違うな、正確には異世界人が絡んだ内容のものは一切喋っていない。

 例えばエルフを異世界から人を召喚するための生贄にしたことなどなどだ。


「これからどうなるんだ?」

「……さあな。人間の国がどうなるかなんて俺が分かるわけがない。新しい指導者が誕生するのか、それとも国として終わるか……その辺りはエンド……には無理か。獣王国の宰相たちが何か考えているんじゃないか?」

「さっき言ってた国家同士の話し合いってやつか?」

「ああ、人間以外の種族にとっては、少しは生きやすい世の中になるだろうな」


 そうなのか? 人間至上主義の王国が仮に滅んだとしても、この国に根付いたものがそう簡単に消えるとは思えない。

 確かに一般の人たちはそこまで獣人とかを嫌っていなかったようだけど、そもそも王国内で獣人を見たことがなかったからな。

 嫌な思いをする国に、わざわざ足を踏み入れるようなことをしなかったんだと思うが。

 それが解除されて交流が始まれば、また変わるということをギードは言いたいのかもしれないな。


「けど人間至上主義なら帝国の方が酷いから、そこまで大きくは変わらないんじゃないのか?」


 むしろ人間至上主義を掲げる者は帝国に移り住んで、さらに苛烈になりそうだ。


「ああ、それなら大丈夫だろう。むしろ帝国の方が悲惨な道を辿るかもしれないな」


 何だその意味深な言葉は。イグニスがまた何か暗躍でもしているのか?

 そんなことを考えていたら、いつの間にか声が止まっていた。

 これで終わりか? と思っていたら、獣人の人が俺たちを呼びに来た。

 主にナオトに華々しく登場してくれと言っていた。

 そして俺たちは、ナオトの部下的な位置で同行してくれとのことだ。

 シチュエーションとしては、王たちを助けにきた勇者の登場といったところらしい。そこまでする必要があるのかと思ったが、一度希望を持たせて、その後また突き落とすというのが、リュリュの考えた作戦のようだ。

 ま、俺はただ付いて行くだけだからいいけど。誰か分からないように、ナオト以外はローブを被って欲しいと言われたし。

 そのナオトは顔を引き攣らせているけど。

 リュリュに出番があるかもと言われていたけど、悪事をある程度吐き出していたから大丈夫だと思っていたのかもしれない。

 実際俺としても、十分な悪事の証明になっていると思ったが、まだまだ足りないみたいだ。


「ナオトさん頑張ってください」

「……他人事だと思って……」


 実際他人事ですから。俺に振られたら、きっと演技系のスキルをポイントを使って習得したね。

 ま、とりあえず「助けにきた!」的な感じで登場すればいいって話だったし、後はその時の王の返し次第で、次に何を言うかをリュリュがサインで教えてくれるって話だったから。


「その次の言葉を言うのが困るんだが?」


 割かし本気で困っている。ミハルもナオトに声を掛けているが、何もしないミハルの方が緊張しているようにも見える。

 大丈夫。俺たちは立っているだけでいいんだから。後は合図がきたら、フードを外して素顔を晒すのが仕事だ。

 そして第二幕が始まった。

 結果はまあ、さらに王が悪事を吐き出した。

 魔王を倒すために異世界から人を呼び出したこと。

 それを呼ぶためにエルフを犠牲にしたこと。

 だがそれは世界を守るために、仕方なくしたと言い訳を述べたこと。

 だが俺やミハル。ヒカリを見て、魔王を討伐した異世界人を利用……その血を使った戦士を量産して、王国中心の世界を作ろうとしたことまで、最後は告白していた。

 遺跡で話は聞いていたが、やはりヒカリは、過去の異世界人たちを先祖に持つ子だったようだ。


「では、罰を与えよう。貴様らには奴隷となり、その罪を償ってもらおうじゃないか」


 そこにギードが登場し、隷属魔法を使用してその場にいた者たちを奴隷にした。

 ギードの登場で何人かが気絶したのは、まあ、仕方ないことかもしれない。魔人って、一般の人には恐怖の対象でしかないしな。

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