第394話 断罪・1(リュリュ視点)

「この獣風情が、こんなことをしてただで済むと思っているのか!」


 目の前で吠えているのがこの国の頂点に立つ男っすか。

 見たところ何の力も持たない、ただ威張っているだけのおっさんに見えるっす。

 エンド様が軽く殴っただけで死にそうっすが……興奮して殴らないようにして欲しいっすね。


「ただで済むかどうかはお前次第だな? 貴様らこそ、エルフを始めとした多くの者を犠牲にして随分酷いことをしているじゃねえか? それを世間が知ったら……どうなるだろうなあ?」


 おお、なんかしっかり言い切ったす。

 けど減点が二点あるっす。そのどや顔とエルフ様をエルフと呼び捨てにしたところっす。

 おいらの小言はあまり効かないっすから、これは姉上にチクるっす。

 ん? エンド様。そこで身震いするのはさらに減点の対象になるっすよ。


「ふん、何だその言い掛かりは? むしろ貴様らが我が国に侵攻した理由で断罪されるのが先だ! 帝国が黙っていると思うなよ獣風情が! それに今頃私が解き放った精鋭部隊が、世界の敵魔王を討伐している頃だ。感謝するの貴様らの方だ! 無能な獣どものために、どれだけ私が苦労していると思っている!」


 よくもまああんな嘘をべらべらと並べられるものっすね。

 あの男の才能なのか、それもともこの国の王たるものは全てああなのか、判断に困るっすね。


「ほう、精鋭部隊ねえ? 弱者しかいないこの国で、そんな者がいるとは到底思えねえな。何処かから呼び出したなんて言わねえよな?」


 エンド様の攻撃が効いているっす。

 一瞬顔を歪めたのをバッチリ見たっす。

 けど面の皮が厚いようですぐに戻ったっすけど。

 そこは素直に褒めてもいいかもっすね。

 いや、褒めるというよりも、エンド様も少し見習ってほしいっす。考えが顔にすぐ出るから、バレるんすよ。


「何を戯言を! そんな嘘が通用すると思っているのか!」

「嘘ねえ? 例えば城の地下に監禁していたエルフ。あれは何だったんだろうな?」


 エンド様、チラチラこっちを見ないで欲しいっす。

 ちょっと挙動不審になっているっす。


「あとはそうだな……同じく地下に閉じ込められていた黒髪の少女とか? た・し・か、魔王を倒す聖剣が納められているってところだったか?」


 あ、少し動揺の色が見えるっす。

 明らかに顔色が悪くなったっす。

 ここで畳み掛けるっす。

 どうしたっすか!

 ……あ、もしかして言うことを忘れたとか? あの尻尾の頼りない動きを見るとその可能性が高いっす。

 ! ピンと伸びたっす。あの反応はきっと思い出したに違いないっす。


「それとも、もっと詳しく説明した方がいいかねえ」


 ……思い出していなかったす。

 けどその言い回し、こっちは全て知ってるぜ! みたいな感じだからいいかもっす。上手く誤魔化せるかもしれないっす。

 ただ誤魔化せなかった場合のためにも、さっき少年から聞いた地下の状況を思い出すっす。おいら確か、三回もエンド様に説明したっすよ?


「……そうか……ならやはり生かしておけんな。そもそも、ここまでした貴様らを生かしておこうとは最初から思ってなかったがな!」


 おっさんの言葉と共に天井から人が降ってきたっす。

 黒装束に身を包んだ者たちっす。

 追い詰められていたのは演技だったすね。

 逆転の一手を用意していたんすね。

 エンド様。この展開にホッとしないで欲しいっす。


「やれ! 獣どもを始末し、協力者どもを始末せよ!」


 手を高々と掲げてドヤ顔っす。

 きっと自分で決まった! と心の中で思ってるっす。

 けど残念っす。彼らは動かないっす。

 あ、命令が下ったのに動かないのにおっさんも困惑してるっす。

 おっさんの周りにいる者たちも困惑してるっす。

 やはり王に近しい人間たちは、事情を知っている者が多そうっすね。

 一人……三人ほど状況についていけない者がいるみたいっすけど。もしかしてこの国の闇を知らないのかもしれないっすね。

 一応後で尋問は必要っす。あれが演技かもしれないっすからね。


「どうした! 何故我の命令を聞かない!」


 黒装束の者たちは皆仮面をしているっすからね。

 隷属の仮面……確かそんな名前だったっす。

 人の自由を奪い、命令を聞くだけの人形にするっす。

 奴隷契約よりも効果が高く逆らえなくするほか、実力以上の力を発揮させるという効果もあるって聞いたっす。

 エンド様は素直に関心してたっすけど、それは常に暴走状態で戦っているのと同じっす。

 酷使すれば体は駄目になるっす。


「この人形どもが! なんのために貴様らを飼育してると思ってる!」


 おっさんの罵る声が耳障りっすね。

 聞くに堪えない言葉をこのままだと永遠に吐き出しそうっす。


「無駄だ。その者たちは貴様ご自慢の人形ではないからな」


 エンド様が片手を上げれば、黒装束の者たちは仮面を外していく。

 あの仮面は隷属の仮面に似せて作られた偽物っす。

 そして元々待機していた者たちは、先に手を回して無力化してるっす。

 秘密の通路を作るから、こういうことになるっす。

 それを見た王のおっさんは、一歩後ろに下がったっす。

 確実にダメージは入ってるっす。

 エンド様、ここでボコボコに……心を折るために折檻っすよ。

 追い詰めれば、さらに口が軽くなると思うっすからね。



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