第393話 王城・2
素朴な疑問が一つある。
が、まずその前に俺が見たことを報告するとしよう。
上へ上へと階段を上っているわけだが、上に行くほど戦闘の激しさが伝わってくる。
鎧を破壊され項垂れる者。顔面が酷いことになっていて、尚且つその場に捨てられたように放置された者。柱に繋がれて、俺たちのことを目にした瞬間気絶した者。
それはどんな戦場(語れるほど多くは経験してないが)よりも酷いありさまだったと思う。
ただ共通しているのは、皆、例の拘束具を手足にしていることか?
どれだけ用意してあったんだ?
ここに来るまで、少なくとも倒された騎士とかの数は三〇〇はくだらないと思うのに。
ま、それが俺が思った疑問だ。まあ、気にしないでくれ。ちょっと現実から目を逸らしたかっただけだ。
そしてその元凶、もといそれを起こしたリーダーの男が今目の前にいる。
リッチエンドと名乗っているから間違いないだろう。アルゴから聞いた名前と一致する。
【名前「エンド」 職業「獣王」 Lv「101」 種族「獣人」 状態「——」】
ただ実際鑑定した結果がこれだ。
獣王か……ルリカとクリスは以前見たようなことを話していたような気がするが、当人なのかな? いや、職業でしっかり獣王ってなっているから、代替わりしてなければ本人で間違いないだろう。
無茶をするという話は有名とのことだが、生憎と俺は聞いたことがない。獣王国には行ったことがなかったからな。
「ほう、これは強そうな者が何人もいるな! 俺と一手手合わせをしないか!」
にこやかに笑ったリッチエンドの頭をどつき飛ばす容赦のない幼女がいる。
彼女がアルゴの言っていたツッコミ担当、もといお目付け役のリュリュだろう。機嫌が悪いと容赦ないという話だが、今は物凄く機嫌が悪そうというか、なんか疲れている。
二人を見比べて、きっと振り回されているんだろうなと思った。口にはしないけど。下手に口にして飛び火したらたまらない。愚痴とか延々と語られたら困る。
「そのペンダントをしてるってことは協力者さんでいいっすよね? それとその髪と瞳の色……どっちすか?」
俺はミハルとナオトが召喚されたもので、ヒカリはこちらの世界で生まれた人間だと伝えた。
何故か不思議と、自然と口にしていた。
そして外見から事情を察したことに驚いた。
「そうっすか。それとエルフ様もいるとは驚きっすね」
ここでもエルフ様なのか。獣人国全体がエルフに敬意を持っているのかと思ったが、獣王の態度は変わらないから違うのだろう。
俺はリュリュと少し情報交換した。
リッチエンドが話したそうだったが、リュリュが話すのを許さなかった。
本当に獣王なのか?
その落ち込み具合に心揺さぶられたが、
「甘やかすとつけ上がるっす。そのままでいいっす」
というリュリュの言葉に声を掛けるのをやめた。
「なるほど……エルフ様をそんなことに使うとは許せねえっすね。貴方と貴女、既に救助に向かった者がいるかもですが、一応行ってくださいっす。何かあったら大事っすから」
「ふむ、それでリュリュよ。そろそろ話してもいいか?」
「黙るっす」
「いや、だが……」
「まずはやることやるっすよ。戦いたいならきりきり働いて後で頼めばいいっす」
「う、うむ。そうだな。それで作戦はさっき話してた通りで問題ないな?」
「問題ないっす。とにかく悪者感を……いや、いつも通りでいいっす。下手に演技したらむしろそっちのが不自然になるっすから」
リュリュの説明によると、この王国の悪事を断罪するとのことだ。
あの扉の向こうは玉座の間になっていて、王と残った騎士が立てこもっているとのことだ。
玉座の間って、王族専用の脱出路がありそうなイメージがあるが、リュリュは大丈夫だと言っていた。
その大丈夫は脱出路がないから大丈夫なのか、既に脱出路の対策が出来ているから大丈夫なのかがリュリュの言葉からは分からなかった。
「ということなので、皆さんは少し待機してもらっていいっすか? 出番が……あったら呼ばせてもらうっす」
「ふむ、俺に任せておけば問題なかろう」
自信満々なリッチエンドに、リュリュは頭を抱えている。
「ほう、それは楽しみだな」
その時新たに合流した者がいた。
それを見たリッチエンドは背筋を伸ばして姿勢を正した。
「ソラもいたのか。結界を壊したのはお前か? お陰で全力を出せるようになった」
清々しい笑顔でギードが笑った。
「それで屑共は中にいるのか? 攻めてないのは抵抗が激しいからか?」
「違うっす。この際っすから、ここの王族を断罪する用意をしてたっす」
「ほう、獣王国の噂の才女か。考えがあるなら俺の方では手出ししないようにしよう」
「ありがたいっす。おいらたちも王国には恨みつらみは多いっす。この機会に徹底的にやるっすよ」
ギードと話すリュリュを、なんかリッチエンドはオロオロと見ているな。
「ソラたちもそれでいいのか? お前たちも恨みがあるだろう?」
「……俺はそれほどでもないかな? ナオトさんはどうなんだ?」
「俺もいいよ。あの姿を見るとな……」
ヒートアップするリュリュを見ての感想のようだ。かなり怒り心頭といった感じだ。
そして俺たちは待機することになり、リッチエンドたちは扉を派手に破壊し、玉座に雪崩れ込んで行った。
しばらく激しい戦闘音が響いていたが、やがて静まると声が聞こえてきた。
その声は、離れているのにもかかわらず、はっきりとした音を俺の耳に届けた。
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