第392話 再会・5

 何度かヒールとリカバリーを繰り返した結果。ミハルの状態から衰弱の文字は消えた。

 ただ依然として意識は戻らない。安定した呼吸を繰り返しているから、いずれ目を覚ますと思うが……。

 問題はこのまま意識が戻るのを待つかどうかだ。

 気配察知で反応を捉えることが出来るようになって分かったことだが、城の上の方には数多くの反応がある。

 MAPを表示させて見れば、戦っていたのか、重なっていた反応の一つが弾かれやがて動かなくなった。

 ただ反応が消えてないところを見ると、死んではいないようだ。

 王国の人間がそんな配慮をするとは思えないから、たぶん獣人たちが王国の騎士でも倒したのだろう。


「このまま連れて移動という訳にはいかないよな」

「一度アルゴさんたちのところに戻って合流しますか?」


 俺の呟きにクリスが反応して聞いてきた。

 それが一番無難な選択かな?

 ただその場合、ナオトと別れる必要があるが。


「何故だ? 俺も戦うぞ?」

「けど知らないところに一人残すのも心配だろ? 特に目覚めた時に知らない人が傍にいたら、ミハルが混乱すると思うし」

「……それは、あり得るな」

「とりあえず一度向こうに戻ったら? それで相談すればいいし」


 迷う俺たちをルリカがバッサリ。


「主、これはどうする?」


 ヒカリの言うこれとは倒した輩たちのことだろう。

 拘束してあるから自分たちで逃げることは出来ないと思うが……。


「足を折れば動けなくなる、よ?」


 その過激発言にナオトの顔が青ざめている。

 ヒカリは結構容赦ないからな。確かに効果的な案だと思うけど。


「いっそあそこに放り込めばいいと思うさ。ソラなら扉の鍵ぐらい作れるだろうさ」

「……その案でいくか」


 きっとセラのは親切心からの進言じゃないな。きっと一人一人足を折るのが面倒だったに違いない。

 あの中に閉じ込めるのも運ぶのは苦労するんだけど。

 そこは俺とナオト、セラの三人で頑張った。黒装束は割かし丁寧に運んだけど、魔法使いはかなりぞんざいに扱った。

 特にセラは足を持って引きずって、近付いたら放り投げていた。確かに急いでいたから仕方ない。きっと急いでいたから、ああしたんだと思う。


「それじゃ行くさ」


 俺とナオトは無言で頷くことしか出来なかった。

 ちなみにナオトがミハルを背負っていくことになった。

 やっぱり対人戦をするなら俺の方が慣れているからな。他意はない。本当だよ?

 そして悩んだ俺たちは何だったんだという感じで、途中でミハルの目が覚めた。

 最初自分の置かれた状況が理解出来ずに戸惑っていたが、俺と目が合うと驚きの表情を浮かべて慌てだした。

 暴れると落ちるよ?

 ミハルはおろしてもらい自分の足で立つと、改めてそこにいる面々を順に見た。


「あ、あの……これはどういう状況ですか?」


 ナオトに尋ねるのは正しい判断だ。


「少し長くなるがいいか?」


 上のことも気になるが、説明しておいた方がいいだろう。

 MAP上だから詳しい状況は分からないが、獣人たちが劣勢という感じには見えないし、仮に劣勢でも、こちらに近付く強い反応があるから大丈夫だろう。

 あの反応は間違いなくギードだ。むしろやり過ぎないかの方が心配だ。

 最果ての町の子供たちにも、「無鉄砲だからな~、ギードの兄ちゃんは」とか言われてたからな。

 ナオトの話を黙って聞いていたミハルは、大層お冠のようだ。

 ただ性格なのだろう。感情を爆発しているというよりも、静かに怒っているといった感じだ。


「そう言えばミハルさんの職業は聖女と聞きました。ミハルさんなら隷属の仮面を解除出来るんじゃないですか?」


 話が終わったのを見て、クリスが尋ねた。

 するとミハルは困った顔をして、ナオトも乾いた笑いを上げた。


「あ~、なんというかミハルはな……」


 ナオトがチラリとミハルの方を見れば、皆の視線がミハルに注がれた。

 ミハルは恥ずかしいのか下を向いて俯いてしまった。

 それを見たナオトが代わりに説明してくれた。

 ミハルは聖女に相応しく、強い神聖魔法を使いこなす。ただ、覚えている神聖魔法は戦闘よりのものが多く、ヒール以外の回復系の魔法は殆ど使えないそうだ。また使えても効果が低いらしい。


「そうなると解除は無理か……」

「ごめんなさい」

「謝らなくてもいいさ。人には得手不得手があるわけだしさ」


 逆にミアは攻撃系の魔法が苦手で、補助よりの魔法が得意だったぐらいだしな。

 それに異世界人は魔王を倒すことを宿命としていた。女神であるエリザベートがそれに相応しいように、覚える能力を操作していた可能性だってある。


「それでミハルはどうする? アルゴたちのいる方で待機するか?」

「……足手まといになるかもだけど……連れて行ってほしいです。私ももう一度、あの人たちのことを見てみたい。それとどうなるかを見届けたい」


 確かに無理やり呼ばれた者の一人として、どのような結果が起きるか見て置きたい


 もうすぐあの王と対峙することになるのかもしれない。

 俺たちは王がいると思われる上を目指して、階段を駆け上がっていった。

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