第391話 再会・4
「ここがそうなんですか?」
ルリカの問いに、ナオトが頷いた。
目の前には円柱があり、その一部に扉のようなものがついている。
ナオトが取っ手に手を掛けてそれを開けると、中央の床に白い装束に身を包んだ一人の女性? が横たわっていた。
俺が人物鑑定をしようとしたら、スキルがまるで何かに弾かれたように失敗した。
ただここから見る限り、特徴的な黒い髪の毛が見えるからあれがミハルである可能性は高いのか?
「ここは王族と勇者以外は入れないって話だったんだがな……」
ナオトはそう言うが、ここにいる可能性を考えてここに連れてきたということは、王の言葉を最早信じていないのかもしれない。
そしてナオトが中に入ろうとした時、何かに弾かれたように一歩、二歩と後退した。
「今のは?」
俺の問い掛けにナオトは無言のまま答えない。
代わりに恐る恐るといった感じでゆっくりと手を伸ばし、円柱のちょうど内側に入る境界線の辺りでその手が止まった。
「壁? これ以上進めない。無理に進もうとすると……」
ナオトの手が弾かれた。痛くないのか?
「はっ、お前たちにはそこに入ることは出来ない。そこは王族のみ入れる神聖な場所だ! お前らのような下賤な者が入れる訳がない!」
例の偉い魔法使いがこれみよがしに叫んだ。
イラっとくるな。誰もがそう思ったに違いない。
それを代弁するようにヒカリが短剣の柄で殴打した。
容赦のないヒカリの行動に戦慄を覚えたが、心の中では拍手喝采を送った。
「どうすれば入れる。言う」
鼻が潰れたその魔法使いは、手を拘束されているから鼻を抑えることも出来ず、一度口を開こうと仕掛けて閉じた。
何か反抗的な言葉を発しようとしたのかもしれない。
ヒカリが素早く短剣を持つ手を振りかざしたことで、危機感を覚えたのかもしれない。
一度、二度と息を吸い、ゆっくりとはっきりと、丁寧な口調で話し出した。
「私には無理です。方法もその、王しか知りません。本当です! 本当に知りません‼ 信じて下さい」
話を聞いていたヒカリが途中でピクリと体を震わせたら、最後は必死に、懇願するように叫んでいた。
ヒカリ恐ろしい子だ。
いや、元々そのような教育を受けていても不思議じゃないからそうでもないのか?
「主どうする?」
トコトコと戻ってきたヒカリがコテンと首を傾げた。
ちょっと腰が引けそうになったのは仕方ない。
あの魔法使いなんて見る影もない。というか気絶してないか?
俺は一度魔力察知を使い円柱を調べる。
強い魔力を感じる。それどころか、ここを中心に魔力が放たれているような気がする。
ここがこの城の、王都を守るための結界の要みたいな場所なのか?
詳しく聞こうと気絶した魔法使いを起こしたが、とにかく話を聞くのに時間がかかった。
水魔法で強制的に起こしたまでは良かったが、錯乱したように騒ぎ出したから。
ヒカリを見た瞬間のあの魔法使いの恐怖に歪んだ顔は、きっと俺は一生忘れないことだろう。
最終的に闇魔法で催眠状態にして心を落ち着かせて、どうにか話を聞けた。
その魔法使いによると、ここは王都を中心に展開している結界の心臓部と言える場所で、以前は聖剣で結界を維持していたが、それをナオトに渡したため、今は聖女であるミハルを代替品として活用しているそうだ。
ただ弱ったミハルには聖剣ほどの力はないみたいだとも言っていた。
ナオトに聖剣を渡した後に、治療と称してここに隔離していたとも告白した。
「何てことしやがる……」
ナオトはギュッと拳を握りしめ、ミハルのいる円柱を睨んだ。
王をここに連れて来て解除する必要があるのか? と思いながら、もう一度円柱を魔力察知を使いながら観察する。
集中して良く視ると、魔力の起点……要? のような場所が何カ所かあった。
あれを破壊すればこの結界を壊すことが出来るのか?
俺はクリスに、結界を破壊した場合何が起こるかを尋ねてみた。
クリスが言うのは魔力的な結界を破壊しても、建物が崩壊することはないという話だった。
試しに催眠状態の魔法使いにも聞いてみたが、何か声高に語り出した。
催眠状態じゃなかったら、どんな感じだったのかと思わず気になったぐらいの語り口だ。
まあ、それは置いといて、魔法使いも結界を破壊しても建物が倒壊することはないと言っていた。
そんな簡単に壊れるなら、怖くて住むことなど出来なくなるという。
とにかくその話を信じて、結界を破壊するための準備をする。
まずは取り出したのは拳銃。結界内の要となっている部分を破壊するなら、これが一番有効的だろう。
次にしたことは複製で竜の牙の作成と、それを弾丸へ作り変える作業。
神殺しの弾丸。女神すら葬り去ったものだ。これで壊せなければ素直に王を連れて来るしかない。
俺は狙いを定めて、一発二発と重要個所を破壊していく。
そしてその全てを破壊し終わると、魔力の流れが変わった。
今まで靄のかかったようだったものが霧散してなくなった。
試しに気配察知を使えば、何処に人がいるかをはっきり感じ取ることが出来た。
試しに円柱の入口に手を伸ばせば、内側への境界線にも普通に入ることが出来た。
それを見たナオトは駆け出し、ミハルの元に向かう。
俺たちもすぐに後に続き、円柱の中に入った。
床に横たわるミハルは、まるで眠っているようだ。ただ良く見れば顔も白く、血が通っていないようにも見える。
【名前「ミハル」 職業「聖女」 Lv「63」 種族「異世界人」 状態「衰弱」】
とりあえずヒールとリカバリーをして、ここから運ぶことになった。
はい、ナオトさん任せましたよ。
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