第388話 再会・3

 俺の言葉に、


「それなら大丈夫かもな」


 とアルゴは言ってきた。


「だってリッチエンドの旦那が懲らしめにいったから」


 とはギルフォードの言葉だ。

 何でも馬鹿強く、アルゴたちの知るSランク冒険者でもあれは相手にならないと絶賛していた。

 仮面の人はとりあえず後ろ手に縛って手の自由を奪えばいいのか?


「クリス、精霊魔法を使えなくするにはどうすればいいんだ?」

「魔法は熟練者だと口にしなくても使えるから防ぎようがないかもしれません」


 なら防ぎようがないのか?


「ならこの拘束具を使わせてもらう。これは魔法の使用を制限出来るって代物らしいからな」

「らしいから?」

「リュリュって嬢ちゃんから預かったんだ。必要になるかもってな」


 アルゴはそう言うと、それをギルフォードと話しながら仮面の人に使用している。

 王国を襲撃している獣人たちは、かなり王国の事情に詳しいみたいだ。イグニスたちが情報を提供しているからな?

 クリスは何かあった時のためなのか、その様子を近くで待機してジッと見ていた。


「ソラ、少し手を貸してもらっていい」


 ルリカは現在もう一人のエルフの様子を見ている。

 一応フルポーションを渡してあるからそれを使ってもらっているが、何かあったのだろうか?


「ポーションが効かなかったのか?」

「……顔色は良くなったと思うんだけど。あまり改善されたようには見えないの」


 確かにルリカの言う通り、悪くはなってないが良くもなってないように見える。


【名前「カリナ」 職業「魔術士」 Lv「42」 種族「エルフ」 状態「衰弱・呪縛」】


 呪縛?  呪いと同じようなものか?

 とにかく分からないが、リカバリーで治るか試してみるか。


「リカバリー」


 俺が唱えると、エルフの体が光に包まれて状態から呪縛が消えた。

 それと同時に、そのエルフ……カリナが反応を示した。

 閉じられていた目が開き、ぼんやりと宙を見ているように見えた。まるで寝惚けているみたいだ。

 やがてその視線が近くにいたルリカへ、そして俺へと移り、何か声を出そうとして咳き込んだ。

 俺がルリカに水を渡すと、ルリカはカリナの背中を支えながら上半身を起こすと、背中をさすりながらゆっくりとそれを飲ませた。

 本当ならカリナ自身で飲めれば良かったのだが、体を動かすのもつらそうだったからだ。


「ありがとう」


 やがて水を飲み落ち着いたのか、俺たちが何者かを聞いてきた。


「俺たちは……この国と敵対する者なのか?」

「ソラ、それじゃこの人も困ると思うよ。私たちはこの国……エレージア王国に掴まっている仲間を助けに来たの」

「そう、なんだ……けど私たち以外はもう……」


 カリナの瞳からは涙がこぼれ落ちた。

 その言葉の先を聞くのが怖かったが、何となくだが何と言おうとしたか想像出来てしまった。

 異世界召喚をするには大量の魔力が必要だと言った。

 それにあそこにあった牢屋。二人しかいなかったが、部屋はたくさんあった。

 そこには何人も捕まった人たちがいたはずだ。


「そうだ。あの方は無事? 最後まで私を元気付けてくれてたモリガン様は!」


 その名前を聞いて、ルリカの動きが止まった。

 クリスが、そしてセラが、こちらを見た。

 カリナはその異様な様子に、身を震わせた。

 二人が、静かにこちらに歩いてきた。

 その表情は、感情が抜け落ちたようで無表情だった。


「……詳しく、話してください」


 クリスの絞り出すような声に、カリナは恐る恐る頷いた。

 それは有無を言わせない迫力があって、俺も思わず一歩下がりそうになった。


「どれぐらい前だったかな。私たちはある広間に集められたの。そこには魔法陣があった。多くの魔法使いのような人たちに囲まれて、彼らは何事か呪文のようなものを唱えていたの」


 カリナはそこまで言って一度言葉を切った。

 そこから先を言うのを恐れでもするように。


「無理なら言わなくていい。クリスたちも、今はそっとしておいてやろう」


 カリナは目を覚ましたばかりだ。

 クリスたちの気持ちもある程度分かるが、無理に負担を掛けるとカリナの方が潰れてしまいそうな気がした。

 俺の言葉にクリスは……迷ったあとにコクリと頷いた。

 それを見たルリカとセラも、力を抜くように一息吐いた。

 だけどカリナは、そんなクリスを見て驚き口を開いた。


「エルフ? もしかして、クリスちゃん?」


 その言葉に、今度はクリスが驚きの表情を浮かべた。

 それはクリスだけでなく、ルリカもセラも、そして俺も同様だった。

 クリスの知り合い? と思ったがそれは違ったようだ。


「そっか……貴女がそうなのね……」


 カリナは一度目を閉じると、意を決したのか続きを静かに話し出した。

 一〇人いた同族が、魔法陣の上で一人、また一人と息絶え、最後にカリナともう一人……モリガンだけが残ったことを。

 その後も酷い仕打ちを受けたが、モリガンに励まされて頑張ったことを。

 そして……仮面をつけられて何処かに連れて行かれて、次に戻ってきた時は、カリナのことも忘れて、まるで人形にでもなってしまったかのように、何の反応も示さなくなってしまったことを。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る