第387話 罠・2

「くそう、動きが良くなってるぞ」


 誰かのぼやき声が聞こえた。

 確かに相対する影の動きが、先ほどよりも良くなっている。


「後衛陣は下がれ、だが前衛は退かずに影をひきつけろ。彼の方に影を流すな」


 アルゴの指示でナオトの方に流れそうになる影の前に回り込む。

 魔法陣に近付く敵を排除しようとするのか、ナオトたちは一度足を止めて、アルゴの指示で位置取りを確認する。

 そして魔法陣への道が確保出来たら一気に駆け抜ける。

 それに反応して動く影は俺たちで妨害する。

 躱しながら影にダメージを当てて動きを阻害するが、決して倒しきらないように注意する。

 先ほどの戦いを参考に考えれば、影を何体か倒しても良さそうだが、影の動きが良くなったことから条件の変更があるかもしれない。

 だからダメージを与えるに留めて、再生の間影の動きが鈍る習性を利用して時間を稼ぐ。

 その間にナオトは一気に駆け抜け魔法陣の前で一度立ち止まると、スキルを発動させて一気に剣を振り下ろした。

 ナオトの剣が魔法陣にぶつかる瞬間。それをまるで防ごうとするように、黒い靄のようなものが現れナオトの剣を押しとどめた。

 ナオトの動きが一瞬止まったようだったが、力を込めたのかナオトの持つ剣の輝きがさらに強くなった。

 その時だった。影がまるでその光に引き寄せられるように、俺たちを無視してナオトの方に動き出した。

 もはやこちらが足止めのために攻撃を仕掛けても、お構いなしにただただナオトの方を目指す。

 完全にナオトを脅威と見なして排除しようとしているのか?

 

「一時撤退だ」

「もう少し防いでくれ。何か分かりそうなんだ」


 護衛の言葉に、ナオトが叫び返した。

 そしてナオトが何かのスキル名を言葉にした時、通路が眩い光に包まれた。

 その光はまるでそのものに物理的な力があるように、ナオトに近付く影を弾き飛ばしていく。


「お、おい」


 それを見ていた誰もが驚いたと同時に、影が消滅していくのを見て顔を青ざめさせた。

 影が消えたらまたあれが起こる。

 誰もが最悪のことを想像する中全ての影が光に呑み込まれるように消えて……何も起こらなかった。


「彼女たちを救出してくれ!」


 ナオトの叫びに身構えていた俺たちは、彼の言葉に従って動き出した。

 牢屋の扉を破壊し、彼女たちが拘束している鎖を調べた。

 魔力的なものを感じたが、破壊して大丈夫だというギルフォードの言葉を信じて鎖を破壊すると、エルフたちを救出して離脱した。


「救出したぞ」


 護衛の言葉にナオトは顔を真っ青にして答えた。


「なら貴方も離れてくれ」

「お前はどうする?」

「今スキルを解除すると、どうなるか分からない。だから出来るだけ離れるように皆に言ってくれ」


 ナオトがこちらをチラリと見た。目が合って狙いが分かった。


「クリス。悪いが階段のところまで離れたらライトの魔法で通路を照らしてくれ」


 俺はそれだけ伝えるとナオトに近付いた。


「結構無茶な作戦を考えますね」

「……咄嗟に思い付いただけさ。それに離れる手段をソラを持ってるのを知ってたからな」


 転移で一気に離れる方法か。


「あと、出来れば早くして欲しい。結構辛い」


 確かに徐々にだが、ナオトの剣から発される光が弱っている。

 そして合図であるライトが、遠く離れた通路の先から見えた。

 俺はナオトの肩を掴むと、ライトを目印に一気に飛んだ。

 突然俺たちが現れて、アルゴたちは驚きの声を上げた。

 俺も力加減を間違えて思わずクリスと衝突しそうになった。ギリギリセーフだったけど。

 その後後方で、大きな破砕音がした。それと同時に、弱いが小さな揺れのようなものも感じた。


「とりあえず治療はあとだ。ここから離れるぞ」


 アルゴの言葉に皆が頷いた。

 とりあえずナオトにはマナポーションと活力ポーションを渡した。

 ナオトのスキルがMPとSPのどちらを使っていたかが分からなかったからだ。

 最初は嫌そうにしていたが、最後は諦めて飲んだ。

 飲んだ瞬間驚きの表情を浮かべて、


「嘘だ。なんだこの味は……」


 と呟いていた。

 そう言えば忘れていたが、この世界のポーションはあまり美味くなかった。回復薬に味を求めるのはどうかと思うが、まさに良薬は口に苦しだったからな。

 その後階段を上り切り、二人の容態を確認した。

 消耗しているようだったが、命に別状はなさそうだった。


「この仮面どうすればいいんだ?」


 アルゴたちが仮面に手を伸ばそうとしたから、慌てて止めた。

 怪訝そうにするアルゴたちに、これが何であるかを説明した。


「なんてことしやがるんだ」


 と皆怒りを露わにした。


「それじゃどうすればいいんだ?」

「無理に解除すると何が起こるか分からないから……とりあえず拘束しておこう」

「お前、そんな酷いことするのか!」


 アルゴは反対するが、操られてこちらに攻撃されても困る。

 そうなった時、簡単に制圧出来ればいいが、無理だと逆に彼女を傷付けかねない。


「そう、だな。分かった。それで隷属の仮面だったか? どうすればそれから解放されるんだ?」

「俺たちも良く分からないんだよ。とりあえず俺たちはまだ救いたい人がいるし、その後に知ってそうな奴を探すつもりだ」


 ミアがいたら救うことが出来たかもしれないけど。隷属の仮面をしていたカエデを解放したという話だし。


「知ってそうな奴?」


 アルゴの問い掛けに、


「この国の王様を、ね」


 と俺は答えた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る