第385話 再会・2
改めて俺の名を呼んだ男を見た。
確かに見覚えがある、ような気がするが思い出せない。こう、出そうで出ないもどかしさがあったが、冷静になって鑑定すればいいことを思い出した。
どうやら俺も、知らず知らずのうちに緊張していて冷静さを失っていた様だ。
それは仕方ないかもしれない。ここは俺にとって始まりの場所で、良い思い出のない場所なのだから。
【名前「アルゴ」 職業「冒険者」 種族「人間」 Lv「61」 状態「——」】
俺はそれを見て思い出した。
「ナンパ男!」
そう、王都の冒険者ギルドに行った時に、常に受付嬢をナンパしていた人だ。
俺の叫び声に、アルゴはがっくりしていた。
獣人以外の人たちは、それを見て笑っている。
ああ、知っている。思い出した。ギルドでご飯を奢ってくれた人たちだ。賭けに勝ったからってことだったけど。
「やっぱりソラか? お前生きていたのか? それに……ルリカの嬢ちゃんもいるじゃないか」
アルゴは懐かしそうにこちらを見て来て、その視線が突然止まった。
「えっ」
と言葉を残したまま固まったまま動かない。
その様子にこちらも困惑した。
それは向こうの仲間も同じ様だった。
やがて一歩二歩と動き出したアルゴが、こちらに……クリスの方に向かって近付いて来る。
心なしかアルゴの体が震えているように見える。
そしてクリスの間近まで迫った時に、セラがクリスを守るようにその前に立ち塞がった。
セラからしたら知らない男だから警戒するのは仕方ない。
正面からセラに睨まれたアルゴはそこで我に返り、
「クリス……の嬢ちゃんか?」
と呟いた。
クリスはその言葉にコクリと頷いた。
そうか。今のクリスの外見は髪も瞳の色も違う。髪型もツインテールからストレートにしている。特に耳の形はエルフ特有の尖ったものに変化していている。
「エルフ、だったのか?」
との問いにも、クリスは素直に頷いた。力を十二分に使うためもあって、変身は解いているから、誤魔化しようもない。
それを聞いたアルゴの仲間たちも近付いてきた。
そして懐かしそうにルリカに声を掛けて、クリスの容貌に驚いている。
その後俺が生きていたことに驚き質問攻めになった。
俺はどうしようか迷ったが、アルゴたちが獣人たちと協力して行動していることを聞いて、正直に話すことにした。
もちろん異世界人であることは伏せてだけど。
一応王国から命を狙われているという真実を混ぜながら、王国の魔の手から逃げるために死んだことにしたということを手短に話した。
「そうか、大変だったんだな。それで何でここにいるんだ?」
「ここへはこちらのナオトさんの仲間を救出するための、以前エルフを見掛けたという話を聞いたから、それの確認をしにきたんだ」
俺の言葉にアルゴたちは驚いていた。
ちなみにアルゴたちのリッチエンドからアルゴの探し人が王城に捕らわれているという話を聞いて、協力しているそうだ。
何でもアルゴが一目惚れした相手だとの暴露もあったが、それを聞いたルリカとクリスの目は冷ややかだった。
少なくとも、俺が思わず一歩離れるほどの圧を感じた。
ちなみに現在ルリカに代わって、アルゴの仲間のギルフォードが罠がないかを調べている。かつてはダンジョンの罠のことごとくを見つけて解除したというほどの腕の持ち主とのことだ。
そんな人が王国に留まっていたのは、アルゴのためとのことだ。それは彼だけでなく、他の仲間たちも同様だと言う。
「とりあえず罠の解除は終わったがどうする?」
無言の圧力に晒されて汗だくになっていたアルゴが、その声に救いを求めて、
「さ、先に進まないか?」
と声を絞り出した。
極度の緊張のためか、声が掠れていたな。
とにかくそれには触れずに進むことにした。
今下手にそのことに触れると、何かの拍子に標的がこちらに移りかねない。世の中には触れてはいけないことがあるのだ。
俺たちはアルゴたちを加え、やがて階段を下りていった。
灯りの一切ない階段は、完全な闇に包まれている。
それでも灯りを点けずに進んだのは、的になるのを警戒したからだ。
アルゴたちが暗闇を見通すことが出来る魔道具を所持していたこともその理由だ。
階段はいくつもの踊り場を経由してさらに下へと伸びていく。踊り場には罠があり、その都度ギルフォードが解除していった。一応ルリカとヒカリが見学していたが、その手際に驚きを隠せないでいた。
そんな階段もついに終着点に到着した。
さらに濃い闇が前方に広がり、ここで暗視のスキルが効かなくなった。
それは魔道具を装備した者たちも同じようで、結局ライトの灯りで照らすことになった。
照らされた先には牢屋が並んでいた。
各部屋には壁から伸びた鎖があり、捕らえた者に自由を与えないような構造になっている。
さらには異臭がたちこめているから気分が悪くなる。
本来なら風魔法で臭いを拡散させるところだが、風の逃げ道のないこの場では意味がない。
俺たちはその臭いを我慢しながら注意深く進む。
一歩先に進むごとに、セラの顔が歪む。それは他の獣人もそのようだ。嗅覚が人間よりも強いから余計に辛そうだ。
やがて牢屋の並ぶその通路にも突き当りが見えてきた。
その間、牢屋はもぬけの殻で誰もいなかった。
しかし突き当りに近付くにつれて人の気配を確かに感じた。
そしてその気配通りに、突き当りにあった左右の部屋には、それぞれ一人ずつ人が中にいた。一人は隷属の仮面をした女性で、もう一人も女の人だった。
その二人が何者であるかは、その尖った耳が教えてくれていた。
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