第384話 再会・1

 ゆっくりと、だが足音を少してながらセラたちは歩き出す。

 足音を発てているのはわざとだ。

 相手にこちらの存在を伝え、どのような行動をとるかを確認している。

 もちろんリスクはあるが、それでもすぐに対処出来るように準備をしている。

 結界魔法もその一つだし、クリスも精霊魔法をいつでも使えるように魔法を待機させている。セラが目立つように注目する一方、ヒカリとルリカは少し下がって気配を消している。

 灯りの少ない薄暗い通路の死角を上手く利用した動きだ。


「大丈夫なのか?」


 とナオトは心配するが、そもそも相手の力量次第では、普通に行動してもこちらの存在には気付くだろう。

 だから心配するだけ無駄なのだ。


「来るさ!」


 その時セラが短い声を発した。

 それが合図だったかのようにナイフが飛来した。

 セラはそれを避けて、ナイフは無視した。

 セラの力量なら打ち落とすことは可能なのだろうが、その分隙が出来る。

 それならナイフの軌道上には誰もいないことが分かっているなら、回避して次の攻撃に対処した方がいいという判断なのだろう。実際ナイフは俺たちに当ることなく後方に逸れていった。

 そして予想通り、投擲での襲撃ののち、今度は時間差で魔法と弓矢が飛んできた。

 セラは矢を無視し、魔法に向けて素早く手斧を投じた。

 手斧は魔法と衝突する間際に爆発し、その魔法を無効化した。俺が渡していた、爆発が付与されていた手斧の効果だ。

 またその爆発の衝撃で、矢も吹き飛んだ。

 驚きの声が聞こえ、続けて悲鳴に似た声が上がった。

 その時既にルリカとヒカリが気配を消して近付いていて、襲撃を掛けたからだ。

 金属音と鈍い音が鳴り響き、俺たちも警戒しながら先へと進んだが、到着した頃には既に勝負はついていた。

 倒れた人たちは皆お揃いの鎧を着ている。


「見たことある人たちですか?」


 俺の問い掛けに、ナオトは顔を覗いたが知らないと首を振った。

 その騎士たちは気絶し、一応ヒカリの短剣で麻痺状態にしてあるが、しっかりと拘束した。ロープではなく、俺が錬金術で作成した拘束具だ。

 手を後ろに回して拘束し、忘れず足も拘束する。

 これで仮に目を覚まして麻痺の効果が切れても、自由に動くことは出来ないだろう。


「主、口も塞がないと駄目」


 と思っていたら、ヒカリから注意を受けた。

 なるほど、口が自由なら魔法を使うことが出来る。ヒカリが猿轡さるぐつわで手際よく口を塞いでいった。


「なあ、彼女一体何者だ?」


 その様子にナオトは戦々恐々としている。

 間者スパイはこんなことも学ぶのかと、俺もちょっと驚いていたのは内緒だ。

 倒した騎士はとりあえず確認した部屋に転がすと、その後も警戒しながら一部屋一部屋確認して進んだ。

 部屋の数は多くなかったからたいした手間ではなかったが、埃の積もった使われていないベッドが並んでいるだけで、特に誰かがいるということはなかった。


「なら先に進むしかないか」


 目の前には、地下へと続く階段がある。


「待って!」


 セラたちが階段に近付いた時、クリスが声を上げて止めた。


「どうしたのクリス?」

「うん、なんか良くない感じがするの」


 クリスの言葉に俺は魔力察知を使うが、不安定な揺らぎのようなものは感じるが、それが何かまでは分からない。

 ただこの先が重要な場所なら、罠の一つもあってもおかしくない。

 ヒカリとルリカが床や壁をチェックし、俺たちは二人の邪魔が入らないように背後と階段先を警戒した。

 すると廊下を走る足音が聞こえてきた。

 それは徐々に大きくなっていく。

 どうやらこちらに近付いて来ているようだ。

 複数の足音が響き、まるで無警戒に近付いてくるように感じる。

 罠か? 先ほど俺たちが使った手を相手も使っているのかもしれない。

 通路の薄暗さから視界は悪いが、暗視スキルのある俺には関係ない。

 それにこれだけ接近されれば、範囲が狭くてなっている気配察知でも捉えることが出来た。


「そこまで!」


 俺が警告の言葉を発したら、相手は驚いたように足を止めた。

 どうやら誰かがいるとは思っていなかったようだ。

 ちなみに俺が警告の言葉を発したのは、その中の何人かの顔を何処かで見たような気がしたからだ。

 あとは獣人が同行していたこともあって、関係者だと思ったというのもある。

 こちらの声で相手もやっと俺たちのことに気付いたようだ。

 速度を緩めてこちらに近付いてきて、あと一歩で間合いに入るというところで足を止めた。

 改めて見れば、対峙した人たちは顔や服に血の跡がある。

 ただ自分たちが負傷したというよりも、どうやら返り血のようだ。

 その量から、かなり激しい戦闘をしていたことがうかがえる。

 もしかして無警戒で走ってきたのは、自分たちの力量に自信があったからなのか?

 俺がその様子を観察していたら、不意にその中の一人が声を発した。


「もしかして……ソラなのか?」


 と言う言葉を。


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