第383話 王城・1

「こっちが俺たちが生活していたところだ」


 ナオトの先導で進む城の中は、驚くほど静かだった。

 入口周辺は戦いの破壊の跡が残っていたが、それ以外はひっそりとしている。ここまで来るのに、不思議と誰とも会っていない。

 城を落とすのに王を狙うなら、やはりいる可能性のある玉座を目指すのが普通だ。

 うろ覚えの記憶になるが、玉座は城の上層にあったはずだ。あの時は騎士に連れられて、いくつもの階段を下っていったような気がする。


「普段なら身の回りの世話をしてた人たちが、ここにいたんだが……」


 部屋の中を覗いてももぬけの殻だ。騒ぎを聞きつけて避難したに違いない。

 聖女……ミハルが使っていた部屋を見たがやはり人の気配がない。


「確かミハルはダンジョンからの帰りに襲撃を受けてから治療を受けてたんだよな?   それが何処なのか分からないか?」


 俺の言葉にナオトは腕を組んで考え始めた。

 俺のMAPが使えれば良かったが、ここに来ても調子が悪い。気配察知もいつもの十分の一ぐらいの範囲しか感じることが出来ない。

 ただ補助系のスキルや魔法は何処か妨害されている感じだが、その全てが使い難くなっている訳じゃない。実際アイテムボックスは影響を受けてないし、ミスリルの剣に魔力を流すこともいつも通りに行える。


「あの時は治療のためと言って、シュンも居場所を教えてもらえなかったって話だ。危ない状態だから面会出来ないって言われてな。そうなると俺たちが足を踏み入れたことがない場所か……」

「分からないなら知っている人に話を聞きに行くか……先に聖剣があった場所に行ってみたらどうかな?」


 悩む俺たちに、ルリカが提案してきた。

 確かに悩んで足を止めるよりも行動していた方がいいか?


「……そう、だな。確かに聖剣が安置されてた場所周辺は出入りが厳しい場所だった。そこにいる可能性もあるかもしれない。確か反対側に行ったことがない通路があるんだ。確かあの時……」


 国王はその通路の先を見た時に、まるで汚物でも見るような目だったと、ナオトは言った。

 やがてナオトは「行ってみるか」と呟き、俺たちが頷くと急ぎ足で歩き出した。

 ここで駆け出さないのは、いい意味で冷静な証拠だと思う。

 考えなしで走っていたら、待ち伏せされていた時のリスクは高いし、突然の遭遇戦でその身を危険に晒すことだって考えられる。

 なんて格好いいこと言っているが、ただ単に俺が弱気になっているからなのかもしれない。

 普段ならMAPや気配察知などを使って、奇襲されない環境を作っていた。

 それが今上手いこと出来ないから、不安なのだ。

 ヒカリやルリカを見ればいつもと変わった様子がない。


「主、どうしたの?」


 見ていたらヒカリが首を傾げて聞いてきた。

 だから俺は正直に今の思いを伝えた。


「こっちに来てから気配とか上手く掴めないんだ。それで不安になってな」

「……大丈夫。主は守る」

「ありがとうな」


 俺は礼を言い、シールドの重ね掛けを皆にした。

 今俺に出来ることはこれぐらいだ。

 注意して歩くが、そもそも人が本当にいないのか、ただ単にスキルが不調なのかの判断が付かない。

 それに無理に気配察知を使うと、歩いていても気のせいか疲れてくる。

 それには並列思考を使っているからという理由もあるかもしれない。

 実際複数使えば、ゆっくりだがSPが消費されるから。


「大丈夫?」


 クリスにも心配されてしまった。

 やがて俺たちは一つの扉を抜けて、今度は螺旋階段を下りて下に下へと進んで行った。

 気のせいか、一歩下に行くごとに寒気のようなものを感じる。

 嫌な感じだ。

 クリスもそうなのか、ブルリと体を震わせている。

 しかしナオトは平気な顔だ。

 まるで我が庭とでも言いたげに、軽快に進んで行く。

 やがて一番下まで到着すると、道が二つに別れていた。

 右手に進めば聖剣が安置されていた場所があると言う。


「どうする? 先に聖剣のあった場所に行くか? それとも向こうに行くか?」


 ナオトの視線は左側の通路に注がれている。


「一つ確認だけど。聖剣が安置されてた場所にはナオトさんしか入れないのかな?」

「あの国王の口ぶりからだと、勇者か王家の血を引くものしか無理だって話だな。実際、良く国王と一緒にいた魔法使いみたいな奴も、中には入ってこなかったし」


 本当は入れるが、嘘の情報を与えるためにそうした可能性もあるよな?


「待って!」


 その時、ルリカが鋭い言葉を発した。

 ヒカリも左側の通路の奥を見て警戒している?


「誰かいるみたい……」


 俺には分からなかったが、二人の様子から誰かがいることは感じた。

 俺たちも二人に倣いいつでも戦えるように武器を構える。


「どうする? 行くか待つか……」


 先ほどまで先頭に立っていたナオトが下がってきた。

 その声からは緊張していることが伝わってきた。

 ナオトと代わるようにセラが前に出て、ヒカリとルリカがそれに並ぶ。

 俺はクリスを守るように彼女の横に立ち、その反対側にナオトが移動した。

 背後からの襲撃を警戒しながら、ゆっくりと俺たちは移動する。左側の通路に歩を向けて。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る