第382話 王都・3

 困惑する俺たちの前で、一人の獣人が立ち上がり頭を下げて言ってきた。


「これはエルフ様。敵対行動をとり申し訳ありません!」


 その言葉に跪いていた他の獣人たちも立ち上がり一斉に頭を下げた。

 言われたクリスは助けを求めるようにルリカやセラを見ていた。

 どうもクリスには心当たりがないようだが、


「獣王国を回っていた時に何かあったとか?」


 と尋ねてみたが、多少の交流はあったが、目の前の獣人には見覚えがないと言う。

 ルリカも分からないと首を捻っている。


「申し訳ありません。我が部族が以前エルフの方に助けてもらったことがありまして……もちろん私の生まれる前のことですが、代々敬意を払うようにと語り継がれています。それにそのペンダント。関係者の方ですよね?」

「……ええ、ここには仲間を助けに来ました」

「そうですか。そちらのお嬢さんが突然現れて驚いて、ペンダントをしていたのを見て声を掛けようとしたのですが、見事に翻弄されてしまいました」


 ヒカリに声を掛けようとしたが、ヒカリは捕まえにきたと思って逃げたそうだ。


「それで何でまたあのような手段で侵入したのですか?」

「あ~、入口は魔人が塞いでいたし、王都の警備隊の姿も見えたから、普通の手段じゃ中に入れないと思ったんだよ」

「そうでしたか。しかし我々としてはこのような方法で侵入されると、防ぎようがありません。今皆さんが突然現れたのは、魔法なのですか?」

「これはスキルですよ。少なくともが使っているのを他では見たことはありませんよ」


 魔人たちは普通に使ってたけど。


「それよりも現状の説明をお願いしてもいいか?」


 急ぎたいところだが、中がどうなっているのかを把握しておいた方が良さそうだ。

 俺は彼らから詳しい話を聞いた。

 現在王都のこの区域は、既に制圧が終わっているそうだ。騎士団や警備隊の抵抗はあったが、


「我らの敵ではありませんでしたな。むしろ弱くて拍子抜けです」


 と不完全燃焼だと愚痴をこぼされた。

 もしかして獣人って好戦的な人が多いのかな?


「それで現在、一部の者を残して王城の方を襲撃しています。敵の数は不明ですが、エンドさんを始めとした精鋭部隊と、一部の魔人の方々が手を組んでの侵攻です。城が落ちるのは時間の問題でしょう」


 その自信は何処からくるのか? そのエンドという人を筆頭に、強者が揃っているのかな?

 それと確かに魔人は格段の強さを持つと恐れられているし、実際に強いが、結界のせいでその実力を十二分には発揮できないはず。

 もしかしたらそのことを知らないのかもしれない。


「分かった。実は俺たちは城に捕らえられている仲間を救出しに来たんだ。それで……行ってもいいか?」

「分かりました。私たちはここから動けません。魔人の方々に認められるほどです。大丈夫だと思いますが、どうかお気をつけて!」


 俺たちが王城に向けて駆け出すと、先ほど話していた獣人のグループの中から一人がついてきた。


「他のグループの人に会った時の、説明要員だと思ってください」


 とのことだった。

 実際王城に到着するまで、幾つかの獣人たちのグループを遭遇し、その都度説明をしてくれたからか、かなりの時間短縮が出来たと思う。


「それではお気をつけて!」


 王城の門まで到着したところでその獣人とは別れた。

 改めて門を見るが、激しい抵抗があったのか破壊の跡が酷い。

 門は破壊され、それを支えていたであろう壁は砕かれ、その破片のが飛び散っている。中にはその大きな破片に押し潰された死体も見て取れる。


「ミサイルでも直撃したような跡だな」


 ナオトが半ば呆れたように言った。

 確かにテレビでこのような光景は見たことがある。爆撃された建物が半壊した映像やら、平和な国では考えられない凄惨な光景を目にして、あれが本当に現実なのだろうかと思ったことがあった。

 けどこの世界では、それこそ魔法という力で人の手で簡単にこのような破壊をすることが可能だ。それこそ強い上位の魔物なら、その体だけで破壊することが出来てしまうのかもしれない。


「行こう」


 門をくぐれば、本来なら綺麗に整えられていた庭や、石像などの調度品などを見ることが出来たのだろうが、ここにも破壊の跡がくっきり見える。

 砕けた石像の近くには鎧を着た者が倒れているが、既に事切れているようだ。

 中には原型のない肉片も散らばっていて、それを見たナオトが口を押さえている。


「へ、平気なのか?」


 とナオトに聞かれたから、


「それなりに見てきたから」


 と答えたら信じられない者を見る目で見られた。

 俺の場合は人というよりも魔物の死体を多く見たりしてきたから、それもあって見慣れてしまったんだと思う。特に人型の魔物は人間と差異がないし、感覚が麻痺しているのかもしれない。

 ただ一点だけ、それでも魔物と人とでは殺すまでの覚悟が全然違った。

 もしかしてそれは、本能的なものだったのかもしれない。

 俺たちのいた世界では、人を殺すということは犯罪であり、忌避すべきことだったから。


「それじゃナオトさん。案内をお願いします」


 俺たちはナオトの連れられて、まずはナオトたちがお城の中に与えられた部屋を目指して進むのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る