第381話 王都・2

 中央区域への入口の門周辺は、異様な雰囲気に包まれていた。

 確か両開きに広がる門だったと思うが、現在右側の門は破壊されていて、壊れた門がちょうど立て掛けられたように横になっている。

 それが上手い具合にバリケードになっているようで、入口が塞がれている。そのせいで門に阻まれていて向こう側が見えない。


「視界が開けていたら転移で飛ぶことが出来たんだけどな」


 俺は改めて門に集まる人たちを眺めた。

 門の手前と防壁の上に魔人たちが立ち、それに対峙しているのが獣人たちだ。その獣人たちの後方に、王都の警備隊の制服に身を包んだ者たちが遠巻きに立っている。

 その構図だけを見ると魔人がまるで守っているように見えるが、これは余計な人を中に入れないための処置みたいだ。

 獣人が先頭に立って対峙しているのは、警備隊が魔人たちに襲い掛からないように壁になっているのかな? 魔人も余裕そうには見えるが、結界の影響を受けているはずだし、無駄な戦闘を防ぐためだろう。

 それに実際に門の防衛をしている魔人の数は、聞いていた人数よりも少ないし、見える範囲にギードの姿もない。


「ソラどうするの?」


 クリスの言葉に皆の視線が俺に集中する。


「高所に移動して視界を確保して、転移で直接乗り込むのが一番だと思うが……」


 正面から強行突破すると魔人と戦う必要がある。

 そうなると下手に混乱を招き、今の拮抗した状態が崩れる可能性がある。それは避けたいところだ。

 けど周囲を見回しても、近場に良さそうな建物がない。

 せめてあの扉が立っていないで倒れていれば違っただろうが……どんな偶然であんな形になったのだろうか。


「主、転移の魔道具貸して」

「どうするんだ?」

「中に潜入する。私一人なら楽勝」


 自信満々に言い切るヒカリに魔道具を手渡した。

 この中では一番ヒカリが王都について詳しいし、任せるのが一番か。一応ヒカリにシールドをかけておく。


「主、合図を送るからそしたら来て」


 ヒカリが音もなく消える。

 MAPで見る限り、目立たないように大きな通りを避けて移動している。

 そこでふと気付いた。王都の中心地が、防壁の内側のMAPが空白になっていることに。これはダンジョンの階層またぎと同じ?

 そうなると視界が確保出来ていても転移が出来ないかもしれない?

 違う、転移の魔道具があっても飛ぶことが出来ない可能性も出てくる?

 試したことがないがどうなのだろうか?

 

「一人で大丈夫なのか?」


 ナオトたちにもヒカリのことは話してある。カエデなんて最初その話を聞いた時に、泣いていたほどだ。ギュッと抱き付かれたヒカリはちょっと迷惑そうにしていたけど。

 それでもやっぱり見た目からナオトは心配なようだ。俺たちの世界でいうと、ヒカリはまだ小学生だしな。模擬戦でその実力は十分理解したと思うが……。

 それよりも俺は転移が使えない可能性のことの方が気になっていてそれどころじゃなかった。

 このままだとヒカリが孤立する可能性がある。

 追うべきかと思ったその時MAP上でヒカリの動きが止まり、次の瞬間防壁の向こう側へと消えてしまった。

 もうこれは今転移を発動させて確認すべきだと思った。

 俺が転移を発動すると、選択肢が出て来た。

 一応ヒカリの持つ魔道具の反応を捉えたが、安定しない。これはヒカリが動いているからなのか、それとも結界が何か影響しているのかが判断出来ない。

 それでも今動いているということは、もしかして何かに追われている? それとも転移に適したところまで移動しているのか?


「合図があったらすぐに飛ぶから、準備をしておいてくれ。それともしかしたら敵と戦うことになるかもだから、戦いの準備を」


 ヒカリが敵と対峙している可能性だってある。

 俺の言葉を聞いた皆が武器を手にしたその時、爆発音とともに閃光が走った。

 ヒカリは……止まっている!


「飛ぶぞ!」


 転移を発動したがやっぱり安定しない。

 それでも分かる。飛ぶことが可能だと。スキルが不思議と教えてくれる。

 視界が変化し、無事飛ぶことは出来た。

 すぐそこにはヒカリが立っているが、その手にはミスリルの短剣が握られている。

 そしてヒカリの視線の先、いや、その周囲には囲むように獣人たちが立っていた。

 獣人たちは突然現れた俺たちに驚きの表情を浮かべたが、すぐに構えを変えた。腰を低くしていつでも動けるような、そんな構えに。

 俺もすぐに構えを取ろうとして膝から崩れた。魔力が一気に体から抜けていくような感覚に襲われた。

 そんな俺に驚いたルリカたちだったが、すぐに俺を守るような立ち位置に移動してくれた。

 俺は大きく息を吸い込むとまずは立ち上がった。まだ膝に力が入らないが、弱点だと思われるのは避けたい。

 そんな俺の覚悟は、獣人たちのとった突然の行動によってある意味無駄に終わった。

 それは俺だけでなく、仲間たちも驚きと困惑の表情を浮かべて、目の前の……突然跪いた獣人たちを見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る