第380話 王都・1
朝食を済ませてしばらく待っていたら、スイレンに連絡が入った。
ウィンザが王都近くの人のいないところに無事到着出来たそうだ。
ただ既に作戦は実行されているらしく、王都はかなり混乱しているという話だ。
俺たちは倉庫の一室に集まった。
外だと子供たちが寄ってくるかもしれないというので、ここから転移することになった。
またここには転移の目印となる魔道具をスイレンに頼んで置かせてもらっている。王都の件が一段落したらここに戻って来られるようにだ。
「気を付けてね」
「ナオトさん、ミハルさんのことを頼みます」
「いいですか。ヒカリちゃんの言うことを良く聞くように、ですよ」
ナオトがカエデにシュン、コトリから声を掛けられていれば、
「無理はしないでね。ルリカにセラ、クリスのことをどうかお願いね」
とエリスが心配そうにしている。
クリスはそれが恥ずかしいのか顔を真っ赤にして俯いてしまっている。
「それじゃ行くよ」
言わないといつまでも続きそうだったため、俺は皆に声を掛けて留守番組に離れてもらう。
転移をする人は指定出来るため近くにいても一緒に飛ぶことはないが、まだ慣れていないから万が一の事故を防ぐためだ。
俺が転移を発動しようとすれば、まずは何処に向けて飛ぶかの選択肢が出た。
選ぶのは遠く離れたエレージア王国の王都近くだ。飛ぶ地点の光景が頭の中に浮かび、周囲にウィンザと数人の魔人がいることが確認出来た。
こんなことは初めてだったが、魔道具を複数作ったからかもしれない。
他には転移する人たちの確認。俺が指定すると頭の上に指定したという印が表示される。
俺は問題ないことを最終確認したらスキルを発動した。
すると一瞬で移動が完了。目の前にはウィンザがいて、その後方には懐かしい光景が広がっていた。
「戻って来たのか……」
ナオトの呟きに、「また戻ってきた」と心の中で頷いた。
「聞いていると思うが獣人たちが暴れている。だが奴らは味方だ」
俺はウィンザから魔道具を受け取ると、それとは別にペンダントを受け取った。
「それを首に掛けて見えるようにしておけ。それがあれば攻撃されることはまずないだろう、とのことだ」
ギードと一緒に行動している魔人から受け取ったアイテムだそうだ。
俺たちはそれぞれペンダントを装着すると、ウィンザたちと別れて街道を通って王都を目指した。
MAPで確認すれば、ここは王都から東側のようで、この街道を王都の反対側に向かって進めば帝国領に入るようだ。
「懐かしいなぁ」
とはルリカの呟きだ。
初めて王国に来る時に通ってきた道だそうだ。
街道を辿って近付けば、異様な雰囲気に包まれていることが分かった。
街の出入り口には本来複数の門番が立っていて人の出入りを見守っているのに、今日は一人しかいない。
しかも街の外ではなく、内側に注意が向けられているせいか俺たちが接近しても全く気付かなかった。
「中に入ってもいいか?」
そう問い掛けると飛び上がって驚いていた。
「い、今は中に入らない方がいいと思うが……」
門番は大通りの先にある城のある方を向いて説明を始めた。
それは魔人による王都襲撃。ただ貴族たちの住まう中央区域が攻撃されているだけで、一般人たちの住む区域は被害はないとのことだ。
そのため巻き込まれるのを恐れた中央区域近くに住む王都民たちは外周部に避難して、冒険者ギルドや宿屋。教会などの大きな建物に身を寄せているとのことだ。
ウィンザからの連絡で混乱しているという話だったが、拍子抜けするほど王都の街は静まり返っている。
「街の外への避難や魔人の討伐はしないのか?」
「はは、無理無理。あの魔人だぞ? 騎士様ならともかく俺たち警備兵なんか相手にならないさ。それに冒険者たちも傍観を決めたみたいだしな。一応警戒はしているらしいが、こちらから攻撃を仕掛けようとは考えてないみたいだ」
高ランク冒険者の多くが黒い森に派遣されたため、今王都に残っているのは低ランク冒険者が殆どのため、下手に攻撃しても被害が出るだけだと判断したようだ。
門番の数が一人だったのは、住民の避難のために人手を取られたためらしい。
「だから今中に入るのは危険だ。別の町に行くために寄っただけなら、そのまま素通りした方がいいと思うがどうする?」
そう尋ねてきた門番に対して、補給をしたいからと嘘をついて中に入った。
緊急事態でも忘れず身分証の確認をしてきたから、ヒカリの分の入場料を支払って中に入った。
「一段落したらヒカリの身分証も作らないとだな」
レイラからもらった身分証があるが、残念ながら登録を済ませてないからまだ使えない。
俺たちは街の中に入ると、大通りを避けて進む。
お城へ行くには中央区域に入るための唯一の門を通らないといけないから、まずはそこを目指さないといけない。
俺は歩きながらMAPを呼び出すと、門周辺の人の配置を確認するのだった。
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