第379話 王都へ・3

 ウィンザが最果ての町を出発して三日経ち、スイレンが連絡を受けた。

 明日の朝にエレージア王国の王都に到着出来そうだと言う。

 ただ既にギードたちの作戦も動いていて、明日の朝早くから王国への襲撃を始めるそうだ。

 ギードたちだけなら問題なかったが、獣人の助っ人と、城塞都市の様子から明日の早朝がことを起こすのに都合が良いみたいで計画の変更が出来なかったとのことだ。

 俺は部屋に戻ると再度アイテムボックス内のアイテムの確認を行った。

 まずはフルポーションをはじめとした各種回復薬。これは俺だけでなく、皆に渡したアイテム袋の中にもそれぞれ入っている。

 そういえばアイテム袋を渡した時に、ナオトたちも驚いていた。確かに珍しい物が一人一つに分け与えられたら驚くのかもしれない。

 回復薬は十分に入っている。これは最果ての町の人たちが薬草をたくさん集めてくれたからだ。もちろん町の分の回復薬もしっかり渡してある。

 次はミスリルの剣。エリザベートとの戦いで破損したが、これは錬金術でしっかり作り直してある。魔力の伝導率も変わらず良い。

 他にも投擲用のナイフや、拳銃の確認も行い、忘れ物がないことは確認できた。


「なら最後にあれを作って終わりか」


 それは転移の目印となる魔道具。

 既に一つはウィンザが持っていっているが、もう一つ創って最果ての町にすぐに戻れるようにしようと思っている。

 王都で無事色々なことを済ませることが出来た場合、仮にそのままエレージア王国から竜王国を目指すとしても、一度ナオトをこちらに送る必要がある。

 時間のことを考えれば竜王国まで魔人の誰かに飛んでもらえば早く到着することが出来るが、ミアの件は完全にこちらの事情によるものだから頼みにくい。もちろん頼めば快く受けてくれると思うけど。

 それとは別に、一度エーファ魔導国家のマジョリカに寄りたいというのもあるんだよな。この辺りは無事用事が済んだら一度話し合う必要があるか。


「それじゃ創るか」


 俺はスキルを発動して魔道具を作り出した。

 ベッドの上にそれを置いて転移を発動しようとすれば、転移の選択肢が二つに増えている。成功だ。

 これがあれば町と町、国と国の移動がかなり楽になる。楽になるが、ウォーキングのレベル上げに支障が出るのが困りものか。

 俺は改めてステータスパネルを呼び出して確認すると、気になるところがあった。


名前「藤宮そら」 職業「魔導士」 種族「異世界人」 レベルなし


HP1090/1090 MP1040/1040(+200) SP1090/1090


筋力…1080(+0)   体力…1080(+0) 素早…1080(+0)

魔力…1080(+200) 器用…1080(+0) 幸運…1080(+0)


スキル「ウォーキングLv108」

効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1習得)」

経験値カウンター 683749/1000000


 MPが50減っている。

 試しに魔道具を破壊したら数値が1090/1090に戻った。


「主、何してる?」


 突然声を掛けられて驚いた。

 いつの間に部屋に入ってきたんだ?


「何度もドアをノックした。けど返事なかった」


 プクッと可愛らしくヒカリが頬を膨らませて言ってきた。

 どうやらかなり集中してたようだ。全く気付かなかった。


「ごめん、ごめん。転移用の魔道具を作ってたんだよ」

「転移?」

「ああ、ヒカリに戻ってくるための目印って渡しただろ? あれを複数作れないか試してたんだよ」

「複数?」

「そう、複数だ。それを置いておけばいつでも移動出来るようになるんだが……」

「それは便利。けど何か問題あるの?」

「まあな。一つ作るごとにMPを……魔力の量が減るみたいなんだ。だから作れば作るほど魔力をたくさん消費する魔法が使えなくなるかもしれないんだ」


 一つ創るごとに50減っていくのか、それとも三つめはさらに増えるのかも確認したい。

 あとはこれを俺は壊すことが出来るが、耐久力の確認も必要だ。


「少しヒカリにも手伝ってもらっていいか?」

「うん、任せる!」


 ならまずは一つ、二つと魔道具を作る。

 MPを確認したが、どうやら一つにつきMPの最大値が50減っていくようだ。

 次にこれを距離が離れていても壊せるかを試したが、俺が破壊するには魔道具に触った状態じゃないと駄目なようだ。

 次にヒカリに攻撃してもらい壊せるか確認したが、魔力を籠めたミスリルの短剣でやっと破壊出来る感じだった。かなりの強度だ。


「主、これ硬い」


 とはヒカリの言葉だ。


「なあヒカリ。もう奴隷の証である首輪がないんだから、別に主って呼ばなくてもいいんだぞ?」


 それよりも気になったことを尋ねた。


「……主じゃ、駄目?」


 可愛く言われてもここは心を鬼にして頷いた。

 いや、コトリは前のヒカリを知っているからまだいいんだが、ナオトたち、特にカエデから向けられる視線が気になる。

 確かに事情を知らないと、小さな子に主と呼ばせている輩と映るだろうし。


「……分かった。けどミア姉が目を覚ましたら言い方を変える」


 それは早くミアを助けてくれという、ヒカリなりのエールだと思うことにしよう。


「分かった。ただそのためにも、ヒカリも助けてくれな」

「うん」


 そして翌日。俺は戻ってきた。エレージア王国の王都に。

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