第378話 王都へ・2
俺の言葉を受けた三人はそれぞれ反応した。
シュンは一度目を閉じると、手元に視線を落として拳をギュッと握っている。
カエデは息を呑み、誰かに助けを求めるように視線を彷徨わせている。
ナオトは一瞬顔を顰めたが、笑みを浮かべた胡散臭い表情になった。
「俺は最初は無理だった。今は……必要なら人を殺すことを躊躇わない。それが出来ないと危険だってことを理解した上で聞くけど。それでも王都に一緒に行きたいと思うか?」
シュンとカエデの顔色は悪い。それが普通の反応だと思う。
一方ナオトは俺の言葉を聞くと、笑みを消してジッと一点を見詰めている。
「ぼ、僕はそれでも行きたい」
「足手まといになって、俺たちが危険な状況になるかもしれないと思っても?」
自分で言ってて可笑しくなる。まるで昔の自分を見ているみたいだ。
実際シュンたちの強さがどれぐらいかは分からないが、話を聞く限り騎士数人と戦っても圧倒的な力で無力化することは出来るんじゃないかとは思う。
ただ力の差がどんなにあっても、意志の力はそれを逆転する力を持っているという考えがある。特に殺し合いにおいては、一瞬の戸惑いで命を落とす場合だってある。
きっと盗賊討伐を一緒した騎士のリチャードなんかは、今の俺と同じようなことを感じていたかもしれない。
俺たちに選択肢がなかったとはいえ悪いことをした。今度会ったら何か差し入れをしよう。
「シュン、やめておけ。ソラだったな。行くのは俺一人で十分だ。たぶん、俺が一番城の内部にも詳しいだろうしな」
「黒崎君……」
「カエデ先輩大丈夫ですよ。無理なら彼らの後ろに隠れてますから」
その答えもどうかと思うが、カエデはそれを聞いてむしろ安心した表情を浮かべた。
確か同じ会社に勤める先輩後輩だって話しだし、きっと二人だけの通じるものがあるんだろう。
詳しくナオトに話を聞けば、聖剣を設置していた場所など、本来なら足を踏み入れることが出来ない場所にも行ったことがあるらしい。
それを聞いたシュンは悔しそうにしていたが、結局残ることになった。
なら後は準備を色々とする必要がある。
最初にしたことはナオトの装備を準備すること。魔王城を襲撃した時の装備は、イグニスの闘いで最早使い物にならないほどボロボロだ。これはナオトだけでなく、シュンとカエデにも言えることだけど。本当に容赦ないよな。
装備に関しては、最果ての町にある雑貨屋で一通り揃えることが出来た。
黒い森で狩りをするから、武器防具は意外と充実していた。強い魔物の素材を使っているというのもある。
その後は対人戦の訓練。一応王都で騎士団とやっていたそうだが、実際に戦うと弱かった。一緒に行って大丈夫かと思うほど本当に弱い。
高レベルの者らしく動きは確かに速いけど、対人戦にとことん慣れていない。
「そんな素直な動きじゃ、その辺の子供だって倒せないよ」
ルリカが今相手をしているのはシュンだ。
模擬刀とはいえ、結構な勢いで打ちつけられている。あれは痛いんだよな。
その姿に、鍛練所に初めて連れていかれた時の記憶が蘇る。自分の身を守るために必要だったとはいえ、かなり厳しかったんだよな。遠巻きに嫉妬の視線を送ってきていた冒険者たちが、終わった時には慰めの言葉を送ってきたのは良い思い出だ。
ちなみにその辺の子供とは最果ての町の子供たちを指している。
危険な場所で生活をしているからなのか、ヒカリよりも少し年齢の低い子でも戦うことが出来る。一番の理由はギードが遊び半分で鍛えたためらしいけど。
「人は見掛けによらないものだな」
ナオトは腰を下ろしてルリカの姿を追っている。
ナオトの言葉はその厳しい指導のことを指しているんだろうな。俺も最初はまさかあそこまで厳しい鍛練になるとは思ってなかったし。
「けど魔物と人だと全然違うな。騎士と訓練したことはあったけど、それはこっちに来て最初の頃だけだったからな。あとは……俺たちに自信をつけさせるために手加減してたんだろうな」
「対人戦に慣れた奴相手じゃ仕方ないよ。俺だってヒカリと最初戦った時なんて、スキルがなければ間違いなく負けてたから」
そのヒカリはカエデと今戦っている。その近くにはコトリがダウンしているが、精霊魔法士だから体力がないんだろう。そう思うことにした。
「スキルか……確かウォーキングだったか? けどそれ以外にもスキルを持ってたなら追い出されることなかったんじゃないか?」
「後から覚えたスキルだからね」
実際最初にステータスパネルを見た時は、歩いてレベルが上がるなんて表示はなかった。
あの鑑定の出来る魔道具に触れた後に突然表示が変わったが、何か言う前に城から追い出されたからな。
「それじゃもう一戦してくるとするか。せめて身を守れるぐらいにはなっておきたいからな」
ナオトはそう言うと、肩で息をするシュンと代わった。
その後も代わる代わる戦い、模擬戦はスイレンが呼びに来るまで続いた。
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