第377話 王都へ・1

 翌日の朝。食事を終えたところで相談した。

 今食堂にいるのは魔王城から一緒に移動してきた一〇人に、スイレンとウィンザだ。


「それで話って何なの?」


 ルリカからの問いに、一度ウィンザの方を見てから魔人たちが今しようとしていることを説明した。

 それを聞いたシュンが騒ぎ立てたが、


「お静かに! です」


 というコトリの言葉に従って黙ったまま席に座った。

 奴隷契約をするとあんなことも出来るのかと思ったが、何処か引っ込み思案なコトリがはっきりと命令したことの方に驚いた。

 当のコトリは注目されてアタフタとして頬を赤らめて俯いてしまったが。

 シュンが騒ぎ立てたのは、聖女ミハルが王城で療養中だからのようだ。


「ソラはどうしたいと思っているんですか?」

「俺は……間に合うかは分からないが、可能なら手伝いたいと思う。それに上手くいけば、ヒカリのように無理やり働かされてる者たちを解放出来るかもしれないから」


 クリスの言葉に俺は思っていることを話した。

 どんな策があるか分からないが、結界が弱まっているとはいえ魔人たちが心配だということもあった。

 何故なら結界は魔人にとってそれだけ厄介なものだというイメージがあるからだ。あのイグニスでさえ、王都に近付かないように行動していたのだから。

 魔人たちと長く過ごしていたエリスもそのことは知っていたようで、ウィンザの方を心配そうに見ている。


「あとは、王都にエルフがいるかもしれないっていう噂のこともあるから」

「ミアのことはどうするんだい?」

「それはこれが終わった後かな……またダンジョンに潜ることになるから、色々と準備も必要になると思うし」


 エリクサー関係のことは既に話している。竜王国のダンジョンにその手掛かりがあるということと共に。


「私もギードたちのことは心配です。ただ……その……」


 エリスは一緒にいけないと言う。

 魔王なんてやっていたけど、荒事になると足を引っ張ると思うということだった。

 それを聞いてナオトたちは驚いているが、俺はなんとなく分かった。

 魔王になってから魔王城からは一歩も外に出られなかったという話だ。戦闘経験がそもそもないのだろう。


「行くのは俺とヒカリ……ルリカたちはどうする?」


 ヒカリには実は昨夜相談していた。

 話を聞いたヒカリは「任せて」と二つ返事だった。心なしかやる気に満ちていたようにも見える。


「……私たちも行くよ。クリスだって気になるでしょう?」


 ルリカの言葉にクリスも頷いている。

 そうか。クリスは分かるが、ルリカやセラだって育ての親となっていたのはエルフのモリガンだ。ならエルフが捕まっていると聞いて助けたいと思ったに違いない。


「だけどどうするのさ。今から向かって間に合うのかい?」


 セラのその疑問ももっともだ。

 ただこれに関しても問題は解決している。


「それは俺たちに任せてくれ。翁に許可はもらっている。ただギードの方にも連絡を入れてもらったが、既に決行日は決まっているらしい」

「それは間に合うのか?」

「ギリギリだな。準備が出来次第出発するつもりだけど。場所は街から離れたところになるがそれは構わないな?」


 街中で目立たない場所があれば一番だが、そうもいかないだろう。


「それではスイレンさん。連絡を入れると思うので、彼らとの橋渡しをお願いします」


 ウィンザはその後、呼びに来た魔人たちと共に最果ての町から飛び立って行った。

 どうやら通信用の魔道具を途中で受け取って、そのままエレージア王国の方に飛んでいくようだ。

 戦闘を避けるため、王国と帝国の派遣した者たちのいない空白地帯を飛んでいくようだ。その確認もしていたみたいだ。


「王都に行くんだろ? それに、僕も連れてってくれないか?」


 ウィンザが出て行った後に、シュンが改めて言ってきた。

 その真剣な表情に、どう答えるか迷う。

 コトリと再会してから、どんなことをしていたかは良く聞いていた。その中でシュンがミハルのことを気にしているようなことは聞いている。

 だから自分の手で助けたいという思いはよく分かる。俺だってそれが仲間の誰かだったら、俺だってシュンと同じことを言うと思う。

 ただ心配ごともある。まず第一は暴走しないかということ。コトリを連れて行けばそれを防ぐことは出来るかもしれないが、果たして彼女を連れて行っていいかという点がある。

 他にはこれは俺がそうだったことだが、対人戦が出来るかということ。

 状況次第では相手を殺すことだってあるが、コトリたちは対人戦の訓練はしたことはあるが、本気の殺し合いをしたことはないと言う。それが王国の騎士だとなると、その中には顔見知りだっているかもしれない。

 その反面利点も確かにある。それは王城の内部を知っているということ。立ち入り禁止の場所も多く行動をある程度制限されていたというが、それでも知っているというのは大きい。

 だから俺は問い掛けた。


「君は……君たちは、人を殺す覚悟があるか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る