第376話 次の目的地
転移の先は最果ての町の入口だった。
慣れない人たち……というかヒカリとエリス以外の面々は突然周囲の光景が切り替わり驚いていた。転移の説明は簡単にしたが、やはり実際に体験するとこうなるか。
エリスは空間の精霊がいるから分かるが、ヒカリは本当に動じない。
ウィンザを先頭に町の中に入ると、やはり町の子供たちが何事かと集まってきた。
中にはコトリを揶揄う子供もいて、顔を真っ赤にして怒っている。
「コトリは変わったのね」
カエデがそれを見て驚くと同時に、嬉しそうに微笑んでいる。
なんかコトリを見詰めるその視線が母親のそれに見えるのは気のせいだろうか?
そのままスイレンの住まう家まで移動し挨拶とこれからの話をした。
スイレンはエリスを一目見て涙を流すと、優しく抱きしめていた。
ちなみにシュンとナオトの二人はそんなスイレンに見惚れていた。
見た目はエリスとクリスを少し大人にしたような容姿なのだが、その少しの差が二人には何処か響いたようだ。
そんな二人をカエデは呆れた様子で眺めていて、その視線に気付いたナオトが慌てていた。
その日は皆で揃って食事をし、休むことになった。
女性陣は大きな部屋に集まって寝る様で、シュンとナオトは二人部屋に。俺は一人で一室を占領して寝ることになった。いや、二人と同室になっても気まずいし、何を話していいか分からない。相手もきっとそうだろう。
俺はベッドに寝転がりながら竜王の最後の言葉を思い出す。
エリクサーの材料となる聖樹の実が竜王の城にあったダンジョンの、さらに下の階層に行けば手に入るという話だ。
なら俺が次に行くのはそこ一択なのだが、今ギードたちが王国を攻めようとしているのを聞いて迷っている。
「そう言えば、ギードの姿を見掛けないが黒い森の方で戦ってるのか?」
それはウィンザとの何気ない会話から始まった。
戦闘狂っぽいギードが、勇者との戦闘(既に一回戦ったみたいだが)の場にいないのも気になった。それにエリザベートが降臨するとイグニスたちは知っていたのだから、戦力的にもギードを配置していないのが気になったのだ。
もちろん黒い森での撃退も重要任務だと思うが、それ以上に魔王を守ることが最重要だと考えてもおかしくない。
「あ~、ギードは別任務の指揮を任せられているんだ」
「別任務?」
「ああ、エレージア王国の王都を攻める任務だ」
ウィンザは何でもないことのように言ったが、その言葉に違和感を覚えた。
それが何かを考えた時に、今戦力を分けて攻める必要があったのかという疑問が思い浮かんだ。
「今、王国の方の結界が弱まってるからなんだと思う。一応協力者もいるって話しだし、この際潰そうと思っているんじゃないかな。後はある噂を聞いたからだと思う」
顔に出ていたのだろうか?
ウィンザが理由を話してくれた。
しかし結界か……。
「何だって今結界が弱まってるって分かるんだ?」
「聖剣がこっちにあったからじゃないか? あれは結界の要として本来使用されているって翁が言ってたし」
「けど翁が聖剣を改造? してただろ。それなら無理に今行く必要もなかったんじゃないのか?」
なんか聖剣の属性を変化させていた気がする。
「あとは戦力の問題なんじゃないかな? 今王国と帝国は多くの騎士や冒険者を黒い森に派遣している。その分首都の守りが手薄になるというのが翁やイグニスたちの考えみたいだ。あとは結界の力が弱まっているとはいえ、俺たちも全力は出せないから、人数が減っている時に攻めたいと言ってたな」
それはそれで危険だと思ったが、何か策があるそうだ。
俺たちの時もそうだが、裏で何か暗躍しているんだろうな。
俺がそう言うと、
「イグニスはな~」
と苦笑していた。
それと今回はギードも一緒になって作戦を考えていたから、少し不安だとも言っていた。
「しかし王都か……」
正直迷っている。
異世界召喚した責任を取ってもらうとか、仕返ししたいという感情は不思議なことに実はあまりなかったりする。
厳しい世界ではあるが、召喚されなかったら出会うことがなかった人たちもいるし、召喚されたことで出来たこともある。
あと気になるのはヒカリたちのことだ。
俺がエリザベートを追っていった時、ヒカリが暴走したことを聞いた。
今は落ち着いているが、まだ何かしらの洗脳などの術がヒカリに残っているのかもしれない。それならそれを解除する方法を王国の王様か誰かが知っているのかもしれない。
同郷の彼らのこともそうだ。特にシュンの症状がコトリたちの話を聞く限り酷いみたいだ。
何かの拍子にヒカリのように暴走されると、それはそれで厄介だ。
イグニスは圧倒していたが、ダンジョンでドラゴンを倒すだけの強者であることに変わりはない。
「一人では決められないか……」
明日皆に相談してみるか。
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