第374話 王都攻略・2(獣王視点)

 宙に浮く魔人の数は二〇人近くいる。

 まだ外を歩く人がいないからいいが、警護をしている者は混乱している。

 仕方ない。魔人というのは一人いるだけで災厄が訪れたと言われるレベルなのだから。ま、強さには個人差があるって話だけど。

 警鐘が鳴り響き続いているな。


「どういうことだ? あれは人類の敵だぞ!」


 アルゴが掴み掛かってきたからそれを躱して、逆に腕を捻って拘束した。

 今のはなかなかいい動きだった。


「魔人が人類の敵? 何故そう言い切れる」

「魔王の手先だから当たり前だ!」


 その認識はある意味正しい。それが一般常識として言い伝えられているから。

 だが真実を知るというよりも、独自で調べた結果。魔人の言葉を裏付ける真実が色々と浮かびあがってきた。


「別に共闘しろとは言わない。ただ向こうの邪魔はしなければいい。お前たちはお前たちの目的を果たせ。助けたいんだろ?」

「…………」


 俺の言葉にアルゴは目的を思い出したようだ。

 それでも割り切れない何かがあるのかもしれない。

 確か魔人は王都の近くで、多くの騎士と冒険者を殺したという話だった。もしかしたらその中に知り合いがいたのかもしれない。

 やがて魔人たちは一斉に魔法を放ち防壁を攻撃し始めた。

 空を飛べるのだからそのまま防壁を飛び越えればいいと思うが、そう単純なものではないそうだ。

 簡単に話を聞いただけだから詳しい仕組みは分からないが、とにかく王城を中心に魔人の行動を阻害する結界が張られているということだ。

 それは王城に近付くほど強くなるそうで、本来ならその範囲は城塞都市のその先の黒い森まで効果ある。

 ただ、今この時は、その効果が弱まっているとのことだ。

 もっとも今空を飛んでいるだけでかなり力を消耗しているはずだから、王城襲撃はしばらく俺たちが主導するような形になるだろう。

 これはあくまで中央区画に侵入するための演出だ。

 そして魔人出現と魔人による襲撃は、間違いなく王国の兵士に混乱をもたらした。

 俺たちの潜入部隊は難なく防壁の内部に入ることが出来、扉を内側から開くことに成功した。

 少し離れたここにもその喧噪が聞こえてきたから、激しくやりあっていたのだろう。

 実際その音を聞きつけて、王都の住民たちもさすがに目を覚ましたようだ。

 もっとも魔人たちが目立っているから、俺たちに気付く者はそれほどいないだろう。気付いたところで、一般人の彼らが動くこともないだろうし。


「いくぞ」


 俺の言葉に物陰から姿を現した一行は、無駄な動きをしないで開け放たれた門を目指す。

 途中気付いた兵士もいたが、こちらまで手が回らないみたいだ。

 むしろ隙を作ったことで昏倒させられている。


「殺したのか?」

「いや、出来るだけ殺さないように言ってある。危ない時は躊躇するなと言ってあるがな」

「そ、そうなのか?」

「意外か?」

「ああ」


 確かに敵に情けをかけることは、こちらを危険に晒すことになりかねない。

 それでもこれは驚くことにギードからの依頼だったりもする。

 そのための魔法が付与された武器も提供してきた。

 狙いが何処にあるかは謎だが、俺が想像出来ない何かがあるんだろう。

 あれこれ考えるのは好きじゃない。

 だからフィーゲルやリュリュに怒られるわけだが、考えるのは得意な奴がすればいい。

 やっぱり俺はこの拳で、目の前にいる敵を倒す方が性に合っている。

 俺が門を通り抜けると、早速その敵が襲い掛かってきた。

 ただその動きは遅い。単純に弱いのだ。

 これなら力が弱っているといってもギードたちの敵じゃないように思える。

 ただ向こうは兵士の注意を惹くのに重点を置いているから、やっぱりこれは俺たちの仕事だ。うん、仕方ない。手応えがないのは残念だが。


「エンドさん、終わったっすよ!」

「よし、一〇人は防壁の上に登って哨戒に立て。ここに二〇人が残って門を死守しろ。一応魔人から守っているように見せかけるのも忘れるな!」


 本当の目的は外から人を入れないことだ。

 もっともこの国の貴族と冒険者の関係から、率先して冒険者が救助に来ることはないと思う。

 それでも警備兵や騎士の詰め所が外にあるから、そいつらの足止め要員は必要だ。

 あとは貴族が私兵をどれだけ連れているかだ。

 国の命令で黒い森に兵を率いて向かった貴族もいるし、もともと王都に不在の者もいる。それでも全くいないということはない。貴族本人がいなくても屋敷を任された代行はいる。

 ただ王国の貴族は好んで王都に住んで、領地の方に代官を派遣して治めている感じだから、うちと比べると王都にいる貴族は多いか。


「貴様ら何者だ!」


 早速数人の警備兵っぽいのが来た。

 そして危険意識が低い。

 俺は口よりも先に手を出して黙らせる。

 先頭の仲間が攻撃されてすぐに構えようとしたが、残念ながら遅い。

 瞬く間に制圧すれば、拘束班にあとを任せて一路王城を目指す。

 たださすがにそのまま乗り込むことは出来なかった。

 腐っても位の高い貴族に雇われているだけあるということか?

 不意を討つように襲い掛かってくれば、俺たちの行く手を阻むように兵を配置するだけでなく、背後にも回り込ませている。

 優秀な指揮官であり、兵の練度も高いみたいだ。


「何処かで見た顔だと思ったら貴様。Aランク冒険者のアルゴか? 何故貴様が……」


 と思ったが、そうでもなかった。

 相手の力量を見る力が不足しているのか、敵を前にして油断し過ぎだ。

 俺はアルゴに注意を向けた一瞬の隙で間合いを詰めると、鳩尾に強烈な一撃を食らわした。


「獣の分際で……」


 上質な装備のようで、軽装なのに防御力が高いようだ。

 俺は追撃の一撃をさらに食らわせると、転倒したところを思いっきり踏みつけた。

 やっと黙ったか。


「遅いっす」


 リーダーが倒されて動揺したところを、リュリュたちが次々と倒していく。

 殺していないが、流血者が多く出て、さらには呻き声がそこかしこから聞こえてくる。

 ま、獣なんて言われれば怒るのも無理はない。


「リュリュその辺にしておけ」


 特にリュリュは頭に血がのぼっているのか、情け容赦なく攻撃したようだ。

 相手の顔が恐怖に歪んでいるぞ。


「……分かったっす」


 ただ悪いことだけじゃなかった。

 他にも駆け付けてきた者たちがいたが、彼らは早々に降参を申し出てきた。

 無駄な抵抗をしなければ攻撃しないと言ったのも大きいが、きっと凄惨な現場を目撃して敵わないと判断したんだろう。

 雇われている者としてそれはどうかと思ったが、素直に従うなら手を出すことはしない。

 武装解除と拘束はさせてもらうがな。


「ここから先は時間との勝負だ。敵は殺すつもりで倒していくぞ」


 俺の言葉にリュリュたちは静かに頷き、アルゴたちは緊張した面持ちで頷くのだった。

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