第373話 王都攻略・1(獣王視点)
警鐘が鳴り響いた。
俺は素早く起き上がると部屋を出た。
既に準備は出来ている。
数日前から、徐々に城塞都市に派遣されていた者たちが、王都の方に戻ってきていたからだ。
さすがに大人数が一気に離脱すると目立つから、まだ向こうに残っている者もいるが仕方ない。優先順位として精鋭が先にこちらに戻ってこれるように調整したが。
部屋を出ると、隣でも扉の開閉音が聞こえた。
見れば装備を整えたリュリュが立っていた。
「準備は万端っす」
「やる気があるのはいいが、まずは状況の確認だ。それと兵の配置だな」
俺は苦笑し、少し力が入り過ぎているリュリュに力を抜くように言った。
能力は認めるが、やはりまだまだ子供だ。初めての実戦ではないが、やはり圧倒的に経験が少ない。
もっともこんな経験がある者の方が少ないわけだが。
俺たちが階段を下りて食堂に行くと、宿の主人や女将さんが寝間着のまま顔を出してきた。
「少し様子を見に行ってくる。避難場所があるようなら一応避難した方がいいかもしれない」
俺の言葉に主人がコクコクと頷いた。
宿を出れば警鐘のせいか、普段なら寝静まっている時間帯なのに街の中がざわついているように感じた。
魔人の目撃情報は、既にこの街にも伝わっている。
そのため元々警戒していたのだろう。
ここ最近の王都は商人たちが近隣の町に避難するように脱出するため、人の流れも来た当初と比べると減っていた。
昔からこの地に居を構えている者は、さすがに他の町へ移動する者は極わずかだが。
避難したところでそちらで生活出来なければ、結局路頭に迷うわけだしな。
王都にいた貴族たちも街を後にする者の姿が目撃されたが、その数は意外なほど少ない。
忠誠心が高いのか、それとも王都が攻められるとは思っていないのか……。
人数が多いと攻めるのが手間になるかもだが、果たして俺たちが行動を起こした時に、それを防ぐよう動く気概のある者はどれぐらいいるか。
「エンド、始まったのか?」
少し物思いに耽っていたら、アルゴたち面々が音も無く近付いてきた。
今俺たちは王都の貴族の住まう中央区画と、一般人の生活する区画の境目である防壁の近くにいる。
もちろん裏道に身を潜め、目立たないようにしている。
そして俺の視線の先には、中央区画に入るための門がある。
門の左右にはそれぞれ一人ずつ門兵が立っているが、防壁の向こう側には詰所があってそこに数十人の兵士が控えているという話だ。
ちなみに門は分厚い鉄で作られていて、魔法に対する防御力も高いそうだ。
それは門だけでなく、防壁も同じように作られている。
防壁の高さは外壁に比べれば低いが、それでも優に一〇メートルは越えている。
近くの建物を利用して乗り移るには、道幅が広いためそれも不可能だ。
「エンドさんなら飛び越えれそうっすね」
リュリュは無茶を言う。
ま、高さだけなら可能かもしれないが、防壁の上には歩哨が立っていて警戒しているから、どっちにしろ見つかる。
だが見つかる前提で攻撃を仕掛ければ攻め落とすのはそれ程難しくない気がする。
もちろん相手の防衛戦力にもよるが、ヒートの調査によるとそれほど有能な人間がいないとの報告を受けている。
「ま、今は息を潜めて待とう。もうすぐ日が昇るから、その前には動きがあるはずだ」
俺は夜明け前には姿を現すという話を随分前に聞いた。
随分前というか、俺にこの作戦を提案してきた日だから、既に何十日……百何日前か?
改めて考えると覚えているのか? と不安になるが、代案も考えているから大丈夫だ、と思いたい。
そもそも王都は結界で守られているから、自分たちは動きが鈍くなるからということで、俺たちに要請がきたわけだ。
俺たちというか、正確には俺だけど。
あれはさかのぼること……何日前だ? とにかく黒い森の視察に向かい、ちょっと一人で抜け出した時のことだ。
俺はそこで強者に会った。
彼らはイグニスとギードと名乗った。
その特徴的な外見から彼らが人類の敵魔人であることはすぐに分かったが、不思議と嫌悪感を感じることはなかった。
ただ純粋に、噂の強さを知りたいと思い勝負を挑んだ。
最初驚いたようだったが、ギードは俺の挑戦を嬉々として受けてくれた。
結果は完膚なきまでの敗北。獣王を決めるための武闘大会で敵なしだった俺は、赤子のように……とまではいかなかったが、それでも手も足も出なかった。
圧倒的な強者。忘れていた感覚に、時間を忘れて何度も挑戦した。
一度だけイグニスも戦ってくれたな。どっちが強かったかは……俺のレベルでは結局判断がつかなかった。
その後俺はイグニスからある依頼をされた。
断ったら殺される! なんてことはなさそうだったが、その内容を聞いて俺は二つ返事で引き受けた。
それが嘘ではないことは、本能的に分かったからだ。
確かに俺は獣王国の決まりによって王の座についている者だ。ある意味王族として由緒正しい血筋ではないし、元は一介の武芸者だ。
それでも国を治める者として、王国のしていることは看過することは出来ない。
「お、おい。あれがエンドのいっていた者か?」
過去に思いを馳せていたら、アルゴの焦ったような声がした。
そう言えばアルゴたちには何が現れるか言ってなかったな。
「ああ、あれがそうだ」
俺の言葉に、アルゴたち一行は息を呑んだ。
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