第372話 閑話・15
「それでどうなっている?」
「……特殊部隊は撤退したとの報告を受けております」
「冒険者と騎士団の部隊は?」
「……主戦力のSランク冒険者が討ち取られてしまい、一時撤退したとのことです」
「それは作戦は失敗したということか?」
「それは……」
「陛下。例のパラディンの反応は消えておりません。潜入は成功しておると思いますが……その点はどうなんじゃ?」
「……はい。魔王城へ入ったのは確認している模様」
「ふむ、なら問題ないのか?」
「陛下からお借りした古文書通りなら大丈夫じゃと思われます」
「聖剣に依り代がいれば神が降臨する、か……」
「はいですじゃ」
「ふむ、魔王に関しては討伐したと思ってもいいということか……」
「…………」
「なら次は……特殊部隊の被害状況は分かっているのか?」
「……半数以上は失った模様です」
「そんなにか? 魔人共の戦力を見誤ったのか?」
「それが……奇襲は成功したそうなのですが、謎の協力者が現れて妨害されたそうです」
「謎の協力者?」
「はい、詳細は分かっていませんが、少なくとも人種だとのことです」
「人類の裏切り者か……その身姿を知る者がいたら最優先で帰還させろ」
「……かしこまりました」
「ふむ……しかしそうなると、今回の領土拡大は難しいか?」
「それ以外にもいくつか問題はあるみたいですじゃ」
「問題とは?」
「……一番はやはり召喚に使用する生贄ですじゃ。ここ近年エルフを見かけませんので、このままでは異世界召喚が出来なくなる可能性があるのですじゃ」
「……子を産ませ増やすのは難しいのか?」
「それをしようとして以前大きな被害が出ましたのじゃ」
「そうだったな……まったく、異世界人の血をひく者共が魔力を持ってれば悩まずにすんだものを」
「確かにその通りですじゃ。希少なスキル持ちは見つかるのに、魔法関係のスキルを持つ者は一〇〇人に一人おれば幸運といった感じですし。それに潜在的な魔力量が全体的に低いようですし」
「……それでしたら、一度ダンジョンに潜らせては如何でしょうか?」
「ほう、ダンジョンとな?」
「はい。上質の魔石は魔力を多く含んでいます。召喚の媒介としては十分役に立つかと思います」
「ふむ、どうなんだ?」
「その者の意見には賛成ですじゃ。ただ……」
「ただ?」
「それにはダンジョンに特化した者を育てる必要があるかもですじゃ」
「……魔物と戦うのは難しいのか?」
「浅い階層なら問題ないと思いますが、上位種やドラゴンクラスとなるとどうなるか分かりません」
「……仕方ない。我が代での領土拡大は諦めるとするか……残念だが」
「何事だ?」
「申し訳ございません。早急にご報告せねばならぬことが……」
「下らぬことなら許さぬぞ!」
「……城塞都市が襲撃されました」
「襲撃? 魔物が防衛線を突破したというのか?」
「……いえ、魔人が現れました」
「何? どういうことだ? 魔王はまだ死んでいないということか?」
「はい、どうやらその可能性が大きいです」
「どういうことだ? 勇者共が魔王城に突入して既に三日以上経過しているはずだ。まだ戦っているということか?」
「……魔王城内部は謎が多いです。複雑な構造になっていて、まだ魔王に辿り着いていないのかもしれません」
「勇者が死ねば聖剣は戻ってくるはず……ならまだ勇者は生きているということになる。ならまだ魔王とは戦っていないということか?」
「…………」
「……それで城塞都市の様子は?」
「詳しいことは分かっていません」
「この役立たずが! そもそも結界はどうなっている? 城塞都市は範囲に入ってたはずだ」
「わ、分かりません」
「……こちらに来る可能性は?」
「今まで王都に魔人が攻めてきたことはありませんので大丈夫だと思いますが……いえ、手の空いている部下たちは既に集結させています」
「……分かった。騎士団の者たちにも警戒するように通達しろ」
「そ、その。私では騎士団への……」
「なら騎士団長を呼べ! 私自ら指示を出す」
「……それが騎士団長は城塞都市の方に出ています」
「何? 何故王都にいない!」
「…………」
「なら今の責任者は誰だ」
「そ、その……第三騎士団です」
「第三騎士団だと?」
「……はい」
「……分かった。第三騎士団の隊長を呼べ。それと騎士団長を早急に呼び戻すんだ」
「……かしこまりました」
「……いっそ冒険者どもに招集を掛けるようにギルドに言うか? 駄目だ……奴らは当てにならない。そもそも今残っているのは、黒い森侵攻に参加しなかった臆病者たちだしな」
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