第371話 模擬戦・2(獣王視点)
俺は鍛練所の片隅に腰を下ろして他の者たちの闘いを眺めていた。
うーむ、少しやり過ぎたかな?
アルゴたちは早々に力尽きて鍛練所の壁に寄りかかり、今も白熱する模擬戦も眺めている。目が死んでいるような気がするが、きっと気のせいに違いない。
ちなみに現在鍛練所の中で注目の的になっているのは、小さな体で槍を振り回してバッタバッタと並居る猛者を倒しているリュリュだ。
なんか嫌なことでもあったのだろうか?
ちなみに彼女の被害者は俺が連れてきた獣人部隊だけでなく、アルゴを始めとした王都の冒険者たちも含まれている。
特にアルゴたちが模擬戦をやっていると聞きつけたこの国で活動している冒険者たちが、審判をしていたリュリュを冷やかしたことから悲劇は起こった。
リュリュの親衛隊が最初怒ったが、それをリュリュ自ら止めて相手になった。
その結果が今の惨状なんだが……。
あの時の感情のない瞳は、まさに怒った時の嫁と瓜二つだったな。
「正直相談役的な立場で連れていると思ったのに。強いんだな、あの子」
「自他共に認めるナンバー2だからな」
俺の答えにアルゴたちが乾いた笑いを上げた。
説得力のある光景が目の前で繰り広げられているからな。
「それで俺たちは合格点だったか?」
「ああ、申し分ない。ただ相手が相手だ。時間が許す限り鍛えておいた方が良さそうだな。最低限のことはしているみたいだったが」
「確かにその方が良さそうだ。エンドが相手をしてくれるのか?」
「……いや、俺よりも剣や槍を扱う者とやった方がいいな。ああ、リュリュは体格的に参加はしないから安心しろ。ストレス解消! って言って参加するかもだけどな」
俺が冗談で言ったら、顔を青ざめていた。
「大丈夫っすよ。ストレスが溜まったらエンドさんに相手してもらうっすから」
ははは、それは何かの冗談かな?
「とりあえず詳しいことを話したいっす。今日の夜は大丈夫っすか?」
「あ、ああ。もちろんだとも」
声が固いが、緊張しているのかな?
「って、頬に血がついてるぞ。まったく、それじゃ綺麗な顔が台無しだ」
「う、うっさいっす」
理不尽だ。顔を拭ってやったら蹴られたよ。しかもこの威力、絶対に手加減してなかった。
「それじゃ俺は先に戻るが。後でな」
久しぶりに体も動かせたし、今日はこの辺りで一度帰るか。
ん? リュリュも帰るのか? もっと模擬戦をしていていいんだぞ?
ほほう、俺が馬鹿をやらないか見張る必要があると? いやいや、酒なんて飲まないよ?
「では詳しい作戦を話すっす」
俺が説明しようとしたら、リュリュに主導権を奪われた。理不尽だ……。
それとヒートたちよ。何故俺を止める? 俺、責任者だよね?
「まずおいらたちの狙いは王城の陥落っす。狙うは王様の首っす」
「それは王を殺すってことか?」
「可能なら生け捕りにして欲しいっすが、無理なら仕方ないっす。ただこれはエンドさんの仕事っすから、アルゴさんたちは頭の片隅に覚えておいてもらえればいいっす」
「リュリュの言う通りだ。まずはあの防壁に囲まれた貴族街を掌握する必要があるがな。その点は俺たちの部隊で行う」
問題はどれだけの人数がいるかだな。貴族自体は戦えない者が殆どみたいだが、可能なら奴らも捕縛したい。
「一ついいか? エンドたちは全部で何人いるんだ?」
「二〇〇人ぐらいだな」
三〇〇人近くは、カモフラージュのため城塞都市の方に行っている。
ただ戦場で魔人を目撃したら、少しずつこちらに戻って来るようには言ってある。
一気に移動をすると目立つからな。
「たったその数で王城を落とすっていうのか?」
「俺の仲間は優秀な奴らばかりだからな。それに援軍が現れる予定だ」
「援軍?」
「ああ、それが来たら俺たちどころじゃなくなるだろう」
それに今王城を守っているのは貴族を中心とした騎士団という話だ。精鋭というにはお粗末な部隊らしいからな。
「それとアルゴさんたちには、主に救出部隊として動いて欲しいっす」
「救出部隊?」
「そうっす。アルゴさんの探し人もたぶんいると思うっす」
その言葉にアルゴの目の色が変わった。
ヘラヘラとナンパをしている時よりも、今の方がいい顔だ。
「それでいつ攻めるんだ?」
「城塞都市が攻められて火の手が上がったら、それが開始の合図だ」
「……それって、誰かが常に監視してるってことか?」
その言葉に呆れた。
だがお仲間のギルフォードは知っているみたいだ。頭を抱えている。
「アルゴ。城塞都市に何かあったら警鐘が鳴るようになってるんだよ」
ギルフォードの説明に本気で驚いている。
人選、間違ったかな?
リュリュを見たら余裕の表情を浮かべているから問題なさそうだ。
「それと一つ聞いておきたいことがある。もし俺たち王城に攻めにいった場合、他の冒険者たちはどう動くと思う?」
今日の模擬戦の動きを見る限り、俺たちの脅威になる者はいなさそうだが、他にも強者がいるかもしれない。
「冒険者に関しては特に守ろうとする奴はいないだろう。こちら側に被害が出るようなら別だが」
なら問題なさそうだな。
後はじっくりと待つだけだ。
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