第370話 模擬戦・1(獣王視点)
「そ、それで何処にいるんだ?」
「……あくまで可能性の一つっすけど。王城にいると思うっすよ」
アルゴの問い掛けに、実にあっさりとリュリュは答えた。
それを聞いたアルゴの仲間たちは驚いて固まっている。
「し、城にいるってことなのか?」
「俺が調べた限りその可能性は高いだろう。あとは大貴族の屋敷という可能性もなくはないかもだがな」
リュリュの代わりにヒートが再び説明を始めた。
もちろんアルゴが目撃したという女性の情報というわけではなく、似たような状況、深夜に人知れず走る馬車の情報を追って、独自に調査した結果だと言う。
「何処でそんなの調べたんだ?」
「何処にでもその手のことに詳しい者はいるものだ。たぶんこいつらはその手のことに詳しくなかったんだろう」
王都に来てから短時間で調べ上げたのは、その道のプロを利用したのだろう。
そしてたぶん、アルゴたちはその方法を知らなかったんだろうな。
高レベル冒険者がそんなことを知らないのか? という疑問は残るが、人には得手不得手があるからな。俺だってそっち方面には疎いし弱い。
第三者を使うというのは、それなりの危険も伴うものだし。素人が下手に扱うと火傷を負うこともあるからな。
アルゴたちの人となりを聞く限り、裏の世界とは無縁といった感じだから仕方がないのかもしれない。あの帝国出身者というのに、多種族を見下すことがない稀有な存在でもあるしな。
それに仲間思いなのか、アルゴが契約したらギルフォードたちも苦笑しながら契約書にサインしているしな。文句の一つも言わずに。
「これで戦力アップすね」
リュリュは物凄くいい笑顔だな。
「……なら一つ、確かめる必要があるな」
俺のその言葉に、リュリュが嫌そうな顔をした。
ふふふ、これは仕方のないことなのだよ。今後のためにも確認する必要はある。
アルゴたちは何かを感じたのか警戒した様子を見せたがもう遅い。
「な、何をするんだ?」
「決まってる。模擬戦だ!」
俺の言葉にリュリュを除く俺の仲間たちも同意を示すように頷いている。
話の分かる奴らだ。やっぱ一緒に行動するなら互いに実力を把握するのは大事だよな!
じゃないと安心して背中を任せられない。
「それにリュリュよ。皆配達の仕事で体が鈍ってる。ここで調整するのは大事なことなんだ」
俺がさも仕方ないといった感じで言うと、
「……エンドさん。それはエンドさんだけっすよ? 皆依頼を早く終わらせて、各々体を動かしているっすから。いつでも動けるように」
とリュリュに言われた。
他の面々を確認のため見たら、微妙な顔をされた。
え、そんな時間あるの? 依頼終わるともう日が暮れてるよね?
「エンドさんが遅く起きすぎなんすよ。今日からお酒は止めて、規則正しい生活するっす。いいっすよね?」
俺の心の声に正確に答えるリュリュが恐ろしい。
それよりも今日も飲むよな?
俺が助けを求めるように見ると、皆首を横に振った。
「諦めてください」
ヒートが俺の肩に手を置いて、慰めの言葉を掛けてきた。
慰めよりも酒を! と声高に叫びたいが、リュリュの目が怖いから言葉を呑み込んだ。
これ以上逆らうと危険だと、俺の本能が訴えているから。
「ふむ、分かった。だが明日の模擬戦は是非やりたい。それはいいな? な?」
酒は諦めよう。だが模擬戦はやる。これは譲れない。
「それはいいっすよ。実力を知ることにはおいらも賛成っすから」
本当なら新たな仲間に乾杯したいところだが、今日は飲まずに寝た。
食堂の女将さんが少し残念そうに見てきたが、こればかりは仕方ないんだ。
獣王と、一国の頂点に立つ者にも逆らえないことというのはあるのだから。
翌日お昼前に一つ依頼を終わらせると、アルゴたちを伴い鍛練所に向かうと早速模擬戦を開始した。
「いいのかそれで?」
「ああ、問題ない」
模擬戦用の刃のない剣を構えたアルゴが聞いてきたから頷いた。
俺の戦闘スタイルは徒手空拳。所謂この拳で敵を粉砕する。一応蹴りも使うけどな!
だから初めて俺と模擬戦をする奴は武器を持ってないから戸惑う。
「手加減はいらないぞ」
ふ、決まった。
「馬鹿なこと言ってないで始めるっすよ」
リュリュは今日も冷たいな。
そしてリュリュの合図のもと模擬戦は始まった。
アルゴの実力はAランク冒険者ということでなかなかのものだった。
基礎がしっかり出来ているし、対人戦の訓練もしっかりしている。
魔導国の冒険者だと、高ランクになっても対人戦に弱い奴が多かった。
ダンジョンしか潜ってないから魔物としか戦ったことがない奴ばかりだからだ。
だから逆に学生の冒険者の方が、その辺りの鍛練をしているから強かったりする。
「おいおい、その程度か?」
剣筋はいいがまだ甘い。その程度じゃ俺には届かない。
俺は懐に入ると軽く一撃二撃と連続で殴って模擬戦を終わらせた。
あまりきつくやると他の奴の相手が出来なくなるしな。ヒートたちも楽しみにしていたから、体力を残しておいてやらないと駄目だ。
それにまだアルゴの仲間たちは残っているからな。
俺は拳を打ち鳴らし、次の獲物に声を掛けるのだった。
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