第369話 捕縛(獣王視点)

 宿に戻ると、いつもの食堂ではなく先に部屋に戻るように言われた。

 美味そうに食事をする姿を見ると腹が減るが、リュリュやヒートなどの主だったメンバーがこの場にいないから、部屋で待っているに違いない。

 ここで無視をして先に飯を食べようものなら、後で説教されるに違いない。

 リュリュに叱られるならご褒美だなんて言う奴が何人も目の前にいるが、生憎と俺にはそんな趣味はない。


「戻ったぞ~」


 部屋に入るなり怒られた。何故?


「エンドさん。部屋に入る時はノックするように言ったすよね? おいらが着替えていたらどうするんすか!」

「…………? 別に何も起こらないだろう?」

「そこっすよ! まったくもう。姉様に報告するっす。減点っす!」


 俺がその理不尽な様子に助けを求めようとヒートたちを見たら目を逸らされた。

 え、だって中にはリュリュ以外にも人がいたから着替えてるなんてあり得ないと思ってたし、俺がノックをしないのはいつものことだろ?

 ま、まあ自室に戻る時だけはノックしますけど?


「と、とにかくだ。何か用があって呼んだんだろう?」


 と言って気付いた。

 この場に見ず知らずって訳じゃないけど、本来いない者が二人いることに。しかもご丁寧にロープで拘束されている。


「確かアルゴだったか? こいつが例の尾行者か?」


 もう一人は相棒のギルフォードだったか? 確かそんな名前だった気がする。


「ええ、どうもこいつのパーティーメンバーが動いていたようだ。尋問は今からだがな」


 歯を剥き出しにしながらヒートが言うとある意味恐怖で体が震えるよな。悪人面だし。間違いなく子供は泣くね。

 熊の獣人は見た目に反して優しい者が多いんだけどな。それを知らない人種は見た目から怖がるんだよな。

 ま、さすがAランク冒険者ともなるとビビらないけど。


「で、何で俺たちを尾行してたんだ?」


 俺が早速単刀直入に尋ねたらリュリュが頭を抱えている。

 どうした? 頭が痛いなら休んだ方がいいぞ? ここのところ働き過ぎだしな。


「……お前たちが怪しい行動をとっていたからだ。まるで王都の街並みを調査でもするように歩くなんて、怪しいだろ」


 アルゴは俺の質問に素直に答えた。

 それを聞いてリュリュがあんぐりと口を開けている。

 一応女の子なんだからそれはどうかと思うぞ? 帰ったら嫁に相談した方がいいかもしれないな。

 しかし俺たちの本質を見抜く目はさすがAランク冒険者といったところか?

 だが確認するべきことが一つあるな。


「それで? それをギルドにでも報告するのか?」

「い、いや、別に……」

「なら何故俺たちを探る?」

「たぶん情報が欲しいんだと思うっす。そこのアルゴさん、人を探してるみたいっすからね。もしかしてそういう視点だから、おいらたちの行動を怪しんだのかもしれないっすね」

「ん? それは何処情報だ?」


 それは初耳だ。アルゴやギルフォードだけじゃなく、他の者たちもリュリュの発言に驚きを露わにしている。


「ギルド職員のミナリサさん情報っすよ?」


 そんな人いたか? というか何でそんなに詳しいんだ?

 俺のそんな態度に、リュリュがあからさまなため息を吐いているよ。


「で、どうするんすか? 口封じっすか?」

「こ、怖いこと言うな。おい」


 リュリュは時々過激になりますね、ほんと。誰に似たのかな?


「けどおいらたちの目的の障害になるかもっすよ?」


 確かにその通りだ。今作戦は失敗を許さないものだし、不安要素は排除する必要がある。だが……。


「なら仲間に引き入れるかっすね。おいらはそれでもいいと思うっすよ。もしくは秘密を一切漏らさない契約をするかっすね」


 それが一番穏便に済ますことが出来る方法か?

 この者たちが悪人なら容赦ない決断をすることが出来るが、ギルドで聞いた話によると人柄も申し分ないみたいだしな。このアルゴのナンパ癖を除けばだけど。

 まったく、男は一途に一人を愛すればいいというものを分からないとは……。

 ただ秘密を守るだけじゃ駄目だな。妨害の禁止も誓わせないとだな。


「うむ、そうだな。秘密厳守と俺たちの邪魔をしないと誓わせればいいだろう」


 俺の言葉に皆頷いている。


「どうする? リュリュの言う処刑か俺の提案する契約どっちがいい?」


 ふ、考えるまでもないだろう。うむうむ、そうだろうそうだろう。

 それとリュリュさん。先ほどからすねを蹴るのは止めてほしいですね。

 早速契約の準備をして、アルゴたちだけでなく、他の部屋に軟禁していたパーティーメンバーを連れてきた。

 そしてあとは契約のサインをして解散という段階になって、リュリュが爆弾を投下した。


「けど残念っすね。おいらたちの手伝いをしてくれたら、もしかしたらアルゴさんも探し人に会えるかもだったんすけどね」


 その言葉にアルゴの手がピタリと止まった。

 え、何の話ですか?


「そうっすよね?」


 いや、俺に言われても何のことやらですけど?


「リュリュ殿の言う通りです」


 って、ヒートに言ってたのか。紛らわしい。俺の方を向いて言ったから俺に言ったのかと思ったじゃないか。ヒートが俺の背後にいたからこっちを向いてたんだな。


「王都に到着後、現在王都に滞在している冒険者のことを調査しました。城塞都市で防衛の依頼を受ければ破格な報酬を手に入れられるのに、それを拒否してここにいるのには何か理由があるのではないかと思いまして」


 確かにその通りだ。強敵を前にすれば血が騒ぐのが普通だ。


「その過程でそちらの一行がアルゴ殿の人探しのため、ここに滞在していることを知りました」

「うむ、それで?」

「独自に調査した結果。その探し人がいる可能性のある場所が分かりました」

「そ、それは本当か!」


 アルゴが前のめりになって、あ、転んだ。


「それは何処なんですか?」

「リュリュ殿よろしいですか?」

「ん~、やっぱ契約してからじゃないっすかね? 戦力は多いにこしたことはないっすから」


 恐ろしい子や。そしてアルゴは全面協力の契約を結んでいる。

 いいのかそれで? まだ内容の答えを聞いてないのに。

 アルゴが考え足らずなのか。それともリュリュが悪魔的に腹黒いのか。

 今の俺には判断することが出来なかった。

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