第366話 帰還

 目を覚ました。

 何か夢を見ていたような気がするが思い出せない。

 何故か涙を流していたようで、目元が濡れていた。


「目を覚ましたようだな」


 声のした方を見ればイグニスがそこにいた。

 どうやら俺は床で寝ていたようだ。

 周囲を見回せば翁と……あれは竜王?

 二人があの透明の箱を前にして何か話している。


「そういえばエリザベートはどうなったんだ?」


 倒した記憶はあるが、なんかうろ覚えだ。最後の方は少し意識が朦朧としていたというのもあるが。


「あれは消滅した。ただ問題が一つある」

「問題?」

「ああ、我らが通ってきた扉が消滅していた」


 それは帰れなくなったということか?


「ソラよ。それでお前の転移ならどうかと思ってな」


 俺は言われて転移を使おうとして、俺は自分の体が全快していることに気付いた。

 もしかしてかなり長い時間寝ていたのだろうか?

 いや、まずは確認が先だな。

 俺は転移を使用しようとして、選択肢が出ないことに気付いた。

 俺は新たに転移用の魔道具を作って試してみたら、


『魔道具に飛びますか?』


 との表示が出た。


「どうやら駄目みたいだ」

「そうか……」


 俺の答えにイグニスは特に落胆した様子も見せずに答えた。

 半ば予想していたのかもしれない。

 それよりも一つ気になることがあったから聞いてみた。


「なあ、前から思ってたんだが、何でイグニスは俺が使えるスキルが分かるんだ?」


 人物鑑定を最大まで上げたのに、俺には相手の使えるスキルを見ることが出来ないから気になっていたんだ。


「……そうか。ソラは能力鑑定が使えないんだったな」


 何だそのスキル。俺はスキルリストから能力鑑定を探すとあった。

 能力鑑定。対象が習得しているスキルを知ることが出来るとある。

 これか。けど人物鑑定のレベルが上がったあとにはなかったはずだ。

 そうなると限界突破した時に新たに出てきたのかもしれない。覚えるのにスキルポイントが3必要なようだし。

 とりあえず今回は保留にしておこう。あれば便利だと思うが、ここのところスキルポイントを一気に使用したから、溜めておきたい。

 というか、元の世界に戻るために必要なスキルがないかを探すのが先だよな。

 俺が何かスキルがないかと探していると、翁と竜王がやってきた。


「うむ、目覚めたようじゃのう」

「久しいな少年よ」

「色々聞きたいことがあるけど、何で竜王様がここに?」

「色々あるのじゃよ」


 アルザハークは困ったように曖昧な笑みを浮かべた。


「とりあえず礼は言っておいた方が良いぞ。お主を治したのは竜王じゃからのう」


 どうやら俺の治療をしてくれたのはアルザハークだったようだ。

 俺が礼を言うと、何てことないと言った。


「それよりも、そろそろお前たちはアルカに戻った方が良いじゃろう」

「その戻る手段がないんだが? お前が来た時に扉を壊しからな」


 アルザハークの言葉に、イグニスが嫌味を言っている。


「む、そうじゃったのう。ふむ、なら少しわしの神力ちからを少しだけ少年に譲渡しよう。そうすれば一度だけ界を渡ることが出来るじゃろうて」


 アルザハークの体が発光すると、彼の体から俺の体にその光が流れてきた。


「お主たちではここで生きるには体が耐えられないじゃろうからな」

「一人で大丈夫なのかのう?」

「大丈夫じゃよ。わしとて循環器のことはヘッケルに聞いておるからのう。それと魔王システムは破壊しておいたから、あの娘も魔王の呪縛からは解放されるはずじゃ。すぐにとはいかんがのう」


 それを聞いた魔人たちの表情は嬉しそうでもあり、寂しそうでもあった。


「お前は戻らないのか?」

「うむ、別れは済ませてきた。それにエリザが今まで守ってきたのだ。今度はわしが守ってやらねばと思ってのう」


 イグニスの問い掛けに、アルザハークが答えた。

 その強い眼差しから、決意の固さがうかがえた。

 魔人たちは俺の周囲に集まると、俺は転移のスキルを使った。

 転移先の選択肢が一つ増えている。ここがヒカリたちのいる場所だ。


「そうじゃ少年よ。先ほど翁から聞いたのじゃが、聖樹の実を探しておるそうじゃのう? なら竜王国の城にあったダンジョンのさらに先を目指すのじゃ。そこにそれはあるはずじゃ」


 そしてスキルを使う瞬間。アルザハークがそんなことを言ってきた。

 いや、そういう大事なことはもっと落ち着いた時に言うべきことだと思う。

 質問する間もなくスキルは発動し、俺の視界はぐにゃりと歪んだ。

 軽い眩暈を覚えて思わず倒れそうになった俺は、誰かに支えられていた。

 視界がはっきりしてくると、ヒカリが抱き着くようにして俺の体を支えていた。


「主お帰り」


 その言葉を聞いて、俺は戻って来たんだと実感した。

 イグニスたちも、残っていた魔人たちと何か話している。翁はエリスさんと何事か話している。

 俺はエリスの近くで横になっているミアを一目見て、まだやることは残っていると思ったが、今は無事戻って来れたことを素直に喜ぶことにした。


「ただいま、ヒカリ」

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