第364話 エリザベート・2
私が一人になってからどれぐらい経ったのかな?
アルカは何度かの滅びの危機を迎えたけど、どうにかまだ存続していた。
平和な時間が長ければ長くなるほど、嬉しいはずなのに、私の心は冷たくなっていった。
一人でいることが寂しかった。
ここには誰もいない。アルカには……あんなにたくさんの人がいるのに。
アルカの者たちが浮かべる笑顔を見るたびに、私の胸は痛みを覚えた。
私はケッヘルの作った魂の循環器に身を寄せながら、膝を両腕で包むように座りながら、その膝に頭を乗せた。
もう考えるのも疲れてきた。
私は何をしているんだろうと思う。
いっそ私もという思いに囚われそうになったけど、それは振り払った。
いつか皆が帰ってくるこの場を、私が守らないといけないから。
最初は小さな争いだった。
それが激動の時代の幕開けだったと気付くのは、もう手の施しようのないほど、世界が滅茶苦茶になってからだ。
何百年ぶりに引き起こされた戦争は、本当に些細な喧嘩から始まった。
それが町を、国を巻き込み、アルカ全域に広がった。
至る所で戦端は開かれ、物凄い速度でアルカに生きるものたちは死んでいった。
それは今までにないほど激しく、終わりの見えない戦いだった。
いつもなら疲弊すれば自然と収まっていくはずなのに、今回はそれがない。
アルカに住まう人々は、まるで何かに取りつかれたように戦い続けた。
「このままだと……滅びてしまう?」
私は恐怖に身を震わせ、どうすれば良いのか考えた。
『争いを治める方法? 共通の敵を作り出せばいいのだよ』
そんな中思い出したのは、いつかケッヘルの言っていたこの言葉。
共通の敵……私は考え、魂の循環器を使いそれを生み出した。
それが全ての魔王の始まりだった。
それからというもの、大きな争いが起きた時に魔王を顕現させた。
魂の循環器から一から魔王を生み出すとエネルギーの多くを消費するから、アルカの地から魔力の強い者、魔王に相応しい者を選んだ。
魔王になった者はただただ命じられた通りにアルカの住人たちの敵となり、滅ぼされて平和へと導いた。
それからのアルカの地はそれの繰り返しだった。
共通の敵……魔王が現れた時は手を取り合うのに、時が経つとそれを忘れてまた争いが起きる。何も学ばない。
それがどうしようもなく悲しかった。
そんなある日。魂の循環器の調子が悪くなった。
ヘッケルから多少の知識と技術を教えられていた私は、魂の循環器を修理しながら騙しだまし使用していたけど、魂の回収の効率が徐々に落ちてきていた。
このままだと回収と還元のバランスが崩れて、いずれ破綻してしまう。
それに追い打ちをかけるように、アルカでも問題が起こった。
大きな戦争が始まったため魔王を指名したけど、指名した今代の魔王が強すぎた。
英雄と呼ばれた人類の代表者のことごとくが魔王の前に倒れると、次々と国が滅ぼされていく。
アルカの民の数も激減し、まさに風前の灯といったところだった。
私はこれも運命なのかな、と思った。これで全てが終わるかな、とも思った。
既に循環器の中は空に近いから、これを全て使ってもあの魔王は倒せないと思った。違う、全て使えばアルカがどうせ滅びるから結果は同じ。
けど、運命はアルカの滅亡を望んでいなかったみたい。
その者が何処からやってきたのか最初分からなかった。
その者はとある小国に突然現れると、魔物の進行を阻止して魔王を討伐した。
その者の圧倒的な力に私は
やがてその者はその小国の姫と結ばれ、エレージア王国という国が誕生した。
私は彼の者が何者かを調べ、何処からやってきたかを調べ、最終的に別の世界からやってきたことが分かった。
世界を渡る。私はこの現象を解明すれば、ここからアルカへと自由に行き来することが出来るようになるかと思ったけど、結局出来るようになったのはその世界……異世界から人を召喚することと、魂だけをアルカに移動させる術だった。
それからというもの、私は魔王が誕生したら異世界召喚をするようになった。
またその方法をエレージア王国の王族が使えるように伝授した。
何度かの使用で、私が召喚した以外の者たちは元の世界に戻れないことも分かったけど、私はあえて異世界召喚の方法を教えた。
知ってしまったから。異世界人が死んだ時、魂の循環器に多くのエネルギーが貯まるのを。
だからエレージア王国が自分たちのために異世界人を使役し、奴隷のように扱い、異世界人の血を受け継ぐ破壊者を生み出して、国を大きくしていっても見逃した。
大事なのはアルカを存続させること。それが優先事項だったから。
そう言えば、異世界人の中でも何人か気になる者たちがいたな。
彼らのあの力……もしかしたら私の命を脅かすほどのものだったかもしれないと思ったけど、すぐにどうでも良くなって忘れた。
私はある楽しみを覚えたからだ。
異世界召喚と同時期に覚えた魂だけを移動させる方法。これを使い聖女に私の魂を乗り移らせて、私自らが魔王を殺した。
初めて魔王を自分の手で殺した時、いいようのない高揚感を覚えた。
それは長い年月を過ごしているうちに忘れていた、歓喜という感情だったのかもしれない。
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