第363話 エリザベート・1

 私が目覚めた時、一一柱の仲間がいた。

 それは彼らも同じようだったみたい。

 その目覚めた瞬間、私たちが何者で何をするかを理解していた。

 私たちの使命はこことは別の空間に存在する世界を見守ること。何か不具合が起きたら対処することだった。その不具合が何かは、まだ分からなかったけど。

 その世界はまだ産声を上げたばかりで、多くのことが起きた。

 そこで生活している生物は、私に姿が似ているということで親近感が湧いた。

 あの者たちのことを人、人間というのが分かった。正確には既に知識として私たちの頭の中にあったといったところでしょうか。

 思えば他の一一柱は、皆個性的な姿形をしている。変化の術を使えて、その時々で二足で歩いたり四足で歩いたりするものもいる。

 私? そんな恥ずかしいことはしませんわ。

 話が逸れましたわね。

 私たちは彼の者たちの住む世界をアルカと呼び、その営みを見ていた。

 最初数が少なかった人間たちは、徐々にその人数を増やしていき、様々な技術を学び生み出していった。

 時に争いが起こったけどそれは小さなもので、私たちの心配を他所に、彼らはそれを糧にしてさらに成長していった。

 その後人数が増えてきたら、彼らはいくつかの集団に別れて、住まう地域を徐々に広げていき、やがて幾つもの国が誕生した。

 それからも人間は緩やかな成長を遂げていく。

 その途中で大きな争いが起き、幾つもの国がなくなり、また幾つもの国が生まれたけど、人間が滅びるほどの大きな争いに発展することはなかった。

 そんなある日のことだった。ある一柱の神が言った。


「人間は面白いね! うん、実に面白い」


 そしてその一柱は姿を消して、アルカに人間以外の種族が誕生した。

 その種族はその一柱に似た容姿をしていて、頭の上に載った耳とお尻についた尻尾が特徴的だった。彼の者たちは獣人と呼ばれるようになった。

 それが何故生まれたのか。私たちは理解した。

 好奇心旺盛な子だったから、我慢出来なかったんだと思う。

 ただそれ以来、何年、何十年経っても彼の一柱の姿を見た者はいなかった。こちらの世界に戻って来ることもなかった。

 注意深くアルカを探したのに、結局見付けることが出来なかった。

 それが全ての始まりだったのかもしれない。

 やがて一柱、また一柱と姿を消して、アルカにはその都度新しい種族が生まれた。

 それと同時に争いは頻繁に勃発し、多くの者たちが命を落とした。

 それだけでなく魔物と呼ばれる異形のものが新たに生まれ、苦難の時代が続いた。

 その頃には一二柱いた仲間たちは四柱に減り、残ったのは魔神ケッヘル。龍神アルザハーク。精霊神エリアナ。そして女神である私、エリザベートだけだった。

 私たち四柱は目まぐるしく変化するアルカに対応するため休む暇もなく働いた。

 これ以上アルカの世界が歪めば、崩壊してしまう。それが何故か分かった。

 だけど今まで十二柱で管理していたのにその人数が減り、さらには本来存在することがなかったモノたちがアルカに生まれた。

 その為後手後手に回り、私たちは使命を全うできなくなることに絶望した。

 そんな中、ケッヘルがあるものを創造した。

 それはアルカで死んだモノの魂を回収し、エネルギーに変換してアルカへと還元するというものだった。彼は魂の循環器と言っていた。

 そのエネルギーはアルカの歪みを修復してくれて、しばらくの間は対応することが出来た。

 けど、それは長くは続かなかった。


「……このままではアルカは壊れる」


 ケッヘルはその言葉を最後に。


「……ハー君。エリザちゃん。私は私に出来ることをしますね」


 エリアナもやがて去っていった。

 残された私は絶望した。もう、この崩壊は止められないんだと。

 あの二柱はアルカを諦めた。見捨てたと思った。

 私は使命を放棄した彼らを恨み、無力な自分をただただ責めた。

 そんな私の思いとは別に、アルカに二つの新しい種族が誕生した。

 異種族が増えることでさらに酷いことが起こると予想した私を裏切るように、アルカは安定した時代を迎えることになった。

 一〇年、二〇年、一〇〇年と平和な時代が続いた。それは久しく忘れていた、穏やかで優しい日々だった。

 私はこの穏やかな時間が長く続くことを願い、消えていったものたちが戻ってくることを望んだ。

 そんな分不相応な願いを胸に抱いたからかな? 心の緩みがあったからかな?

 その異変に気付くのが遅れた。遅れてしまった。

 アルカの大地は砕け。山は噴火して大きな地殻変動が起こった。

 それはアルカに生きる全てのものを等しく苦しめた。あの生命力の強い魔物すら次々と息絶えていった。

 終わりの見えない絶望に、やがてアルザハークは逃げるようにこの地からいなくなった。

 そして残ったのは私だけになった。

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