第361話 神界・6
俺はイグニスとエリザベートの闘いが始まったのを確認すると、まずはフルポーションを飲んで、それから創造で新たなポーションを創ることにした。
これからやろうとすることは、MPの消費がかなり激しいはず。
しかも俺に対して脅威を感じたら、エリザベートは俺を狙って攻撃してくるはずだ。
そうなればマナポーションを飲む暇がなくなるかもしれない。
だから今必要なのは、MPの回復力を早めるようなもの。それこそ使った傍から完全回復するようなものが理想だが、それはさすがに無理だろう。
俺はEXマナポーションを用意し、残っていたミノタウロスの魔石を使って新しいアイテムを創造した。
結果完成したのがこれだ。
【EXマナポーション・改】五秒に一度MPを回復させる。回復量は最大値の二割。効果時間は一分。
この五秒が早いか遅いかは相手次第だな。個人的には凄いと思うが、今回相手するのはあのエリザベートだ。
俺は魔力を籠めてシールドを自分自身に使うと、マナポーションを飲んでMPを完全回復してから翁に一声掛けた。
「今からエリザベートを殺す武器を創って攻撃する。翁たちは出来るだけ派手な攻撃で目くらましを頼む」
俺の手の中にはEXマナポーション・改が三本ある。その一本を飲むと早速複製を開始した。
複製で作り出すのは竜神の牙。かなりの魔力が消費されていくのが自分でも分かる。
さらにそれで作るのは弾丸。神殺しの弾丸だ。
俺はそれを拳銃に素早くセットすると、結界に向かって一発撃った。
弾丸は結界をいとも簡単に破壊すると、透明の箱に着弾した。
しかしその箱自体を形作っている素材自体も頑丈のようで、一発の銃弾で破壊することは出来なかった。
「な、何をしたの」
ただ簡単に結界を破壊したことにエリザベートは動揺したようだった。
俺は構わず次弾を創り撃った。
しかし次に撃った銃弾が着弾するよりも先に、壁にめり込んでいた弾丸が消えた。
やはり複製している素材が素材だけに、形を維持出来る時間が極端に短い。さっき試したミスリルも希少金属なはずなのに、天と地ほどの差がある。
そして何より弾丸が消えた瞬間、亀裂の入った壁も元通りになってしまった。
「坊主、それは?」
「竜神の牙を使った武器だ。ただ見ての通りスキルで無理やり生み出しているから、効果時間が短過ぎる」
一発一発撃っても駄目だ。
それこそフルオートで同じ個所を撃ち抜くつもりじゃないと、あの壁を貫くことは出来ない。
なら弾倉分の弾を一気に創って一斉掃射しないといけないが……駄目だ。数を多く用意しても準備している間に弾丸が消えてしまう。
ならどうすればいい?
……創った銃弾を直接薬室に顕現させて、すぐに撃てば連射は可能か?
ただ掌ではない、任意の場所に創ったものを顕現させることは可能かどうかだが……やるしかないか。
俺が決意したと同時に、シールドが破壊された。
見ればエリザベートが先ほど使っていた槍が足元に落ちていた。
さらには切り刻まれるのも構わずこちらに突進してくるエリザベートの姿があった。
完全に俺を標的にしたようだ。それだけ脅威を感じているんだろう。
俺は槍を奪おうと手を伸ばしたが、寸前で消えた。
驚く俺は、言い知れぬ危険を察して横に飛べば、俺が先ほどまでいた場所に槍が飛んでいった。
引き寄せる効果があるのか、俺がエリザベートを見た時には既に槍が彼女の手にあった。
俺は素早く拳銃を撃ったが、エリザベートは余裕で躱す。
軌道を読まれている。もっとも今のはただの銃弾だけど。
ただそれを見て、やはり狙うなら向こうだと思った。
撃った瞬間転移を使って直接エリザベートに撃ち込めば当てることは出来るかもだが、複製から創造。転移につなげるのは、今の俺には無理なような気がした。
神殺しの短剣を複製して、転移して突き刺すという手段もあるが、それは一度使った手だから警戒しているはずだ。
やはり当初の予定通り、薬室に直接創造した弾丸を装填するように作業するしかない。
イグニスに翁、頼んだぞ。
俺は再び足止めに成功したイグニスたちを信じて、作業を開始する。
これで決着をつけるつもりで。
俺が再び拳銃を箱に向かって撃ち始めれば、エリザベートは一瞬迷う仕草をしたがすぐに行動に移した。
イグニスたちに向かって魔法を放ち、その余波で神殿内に煙が立ち込めて視界を悪くした。
この煙の中で奇襲をしてくるのか?
俺が警戒するのと同時に、ウィンザたちが俺を囲うように護衛についてきた。
どうやらエリザベートの狙いが俺だと判断したようだ。
俺は一度皆を守るようにシールドを使うと、フルオートでトリガーを引く。
複製創造、複製創造を繰り返す。
銃口が次々と銃弾を吐き出していく。
銃声はサイレンサーと風魔法で音を遮断しているから全く聞こえないな。
そんなどうでもいいことを考えながら撃っていたら、肩を強く掴まれた。
「お、おい。大丈夫か?」
俺は視線だけ動かしてそちらを見れば、ウィンザが心配そうな顔でこちらを見ている。
何を言っているだ? と思っていたら、唇に何かが触れたのが分かった。
空いた手で拭えばそれは血だった。
それを認識したと同時に、体から力が抜けていった。
倒れそうになった体をウィンザが慌てて支えてくれた。
それと同時に銃声は鳴り止み、神殿内は静まり返った。
まだ煙のため視界が悪いため、俺の周囲にいる魔人たちは警戒している。
俺は複製と創造をやめたため考える余裕が出来たため、違和感を覚えた。
目くらましを行ってから、エリザベートの攻撃がないことを。
それは魔人たちも感じているようで、より一層周囲に注意を払っている。
そんな中、徐々に煙が消えていくと徐々に視界が戻った。
そして誰もがその光景に驚き動きを止めた。
予想外の光景。何故? 皆が混乱したはずだ。
そう、そこにはエリザベートがいた。
あの透明の箱に身を預けるように立っていた彼女は、俺たちの視線に気付くと楽しそうに笑い、ゆっくりとその身を沈めていった。
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