第358話 リカバリーLv2
一つだけ試してみるかと思い浮かんだ方法があった。
普通に考えれば二回分の効果となるのだろうが、ではこれを同時に重ねて使うとどうなるかを試してみようと思った。
今まで並列思考を使って魔法を二発同時に使う時は、だいたい違う魔法を使っていた。もしくは対象を分けて使用していた。
なら同一対象に一分の差もなく使うとどうなるのか?
俺はウィンザの武器を弾くようにして隙を作ると、懐に潜り込んで魔法を唱えた。
『リカバリー!』
確かな手応えを覚えて顔を上げれば、ウィンザの瞳にしっかりと光が戻っていた。
「ここは……」
という呟きに、「元に戻ったか」と声を掛けようとして異変に気付いた。
先ほどよりも正気に戻った時間は長かったのに、再び表情が抜け落ちていった。
鑑定をすれば、状態は「傀儡」となっている。
『何をしている? さっさと倒せ』
すると頭の中に声が響いた。これは……イグニスか?
『傀儡の状態を解除出来ないか試してるんだよ』
『……時間の無駄だ。そんなことをするならさっさと倒して翁たちの援護に回るんだ』
イグニスのその冷たい物言いにさすがにカチンときた。
『仲間じゃないのか⁉』
『そうだが? だが皆目的は一つだ。仮に我が害を及ぼすなら、その時は容赦なく殺せと言っている』
その告白に返す言葉がなかった。
目的……魔王を守り女神を殺す。そのためなら命すらいらないという信念があるということか。
だが俺は……確かに目の前の魔人ウィンザと親しい訳じゃない。むしろ知らない。
少なくとも鑑定しないと名前すら知らないレベルだ。
それでも同じ場所に、同じ目的を持って立っている者を見捨てることが出来ない。
この一分一秒が、こちら側の不利に働くと分かっていても……。
俺は再度考える。
一応同時使用の魔法は効果があった。
だが結果は見ての通りだ。ウィンザの攻撃を捌きながらなおも熟考は続く。
いっそフルポーションを作った時みたいに魔法も合成出来ればなと考え、錬金術では無理かもしれないが、創造ならどうだ?
けど確か創造のスキルは、武器防具、魔道具を創ることが出来るようになるというものだった気がする。
なら魔法を創ることが出来るスキルはないか?
……あった。新しい魔法を創るというものではなかったが、合成というスキルがある。
NEW
【合成Lv1】
効果は実にシンプルで、複数のものを合成出来るというものだった。そこには特に条件などなかった。
俺はそれを習得すると、ふとあることに気付いた。
複数のものというなかに、同じものを合成することは出来るかということを……うん、良かった。出来るようだ。
というかこれ、魔法だと並列思考とか使えないと合成することが出来ないことに気付いた。
もちろん並列思考がなくても、二つの魔法を同時に使える人なら可能だが、俺ではまず無理だ。
俺はリカバリーを二つ唱えてそれを解き放つのではなく待機させ、それを合成スキルを使って掛け合わせる。
すると新しい魔法が頭の中に浮かび、俺はウィンザに向けてそれを使った。
「リカバリー!」
うん。リカバリーを掛けても魔法名はリカバリーだった。
ただ正確には違うし効果も劇的に違った。
先ほどはしばらくしたらすぐに状態が傀儡に戻ったのに、今度は一分以上経っているのに状態は「——」のままだ。
それと新しく覚えたというか出来た魔法の正式な名称は、【リカバリーLv2】となっている。
Lv2? 以前に何かで見た記憶があるが……今はとりあえずいっか。
まずは他の傀儡状態の魔人たちに使うとしよう。
けど四隅に広がっているから、転移で飛んで一人一人治していくのは時間がかかり過ぎるか?
それなら……。
俺は非殺傷弾のゴム弾にリカバリーLv2を付与すると、それを充填して撃った。
距離があるから撃ったと同時に転移を使って直接被弾するように調整する。
ゴム弾が被弾するとそれがトリガーとなってリカバリーが発動し、状態異常を解除していく。
「お前、何をしたの!」
俺が傀儡を解除しているとさすがにエリザベートも気付いたようで、攻撃の矛先をこちらに向けてきた。
けどそれをイグニスをはじめとした他の魔人が阻む。むしろ注意の逸れたその隙に攻勢に出ている。
さすがにエリザベートも無視することは出来なかったようで、イグニスたちへの対処に追われているみたいだ。
俺はその隙に倒れた魔人たちを回復しようと近寄ったが、半数以上は既に事切れていた。
その中には傀儡の魔人に殺された者たちもいたようだ。
俺はグッと拳を握った。
今は悔やむことよりも、先にやるべきことがある。
俺は傀儡対策でいくつかリカバリーLv2を付与したゴム弾を作ると、マナポーションとスタミナポーションを飲んだ。
効果は高いが、MP消費量は相応に高い。上位魔法のような感じだから仕方がないかもだが。それに普通のリカバリーがどうやら使えなくなったっぽいし。
合成は少しよく考えながらやった方が良さそうだな。
まずはこの戦いを終わらせてからだ。
傀儡から復帰した魔人。怪我から復帰した魔人たちが戦線に復帰すると、さらにエリザベートは防戦一方になっていった。
そしてそこに、
「こちらの準備は終了じゃ。さあ、決着をつけようぞ」
と翁が高らかに告げると、四方に設置した魔道具を起動させたのだった。
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