第357話 神界・3

 結論から言うと、体感的にエリザベートの強さは四倍近いような気がする。はっきり数値化するのは無理だが、とにかく強いとだけ言える。

 こちらもイグニスを中心に攻撃を仕掛けているが、イグニスと翁以外の魔人の攻撃は軽く受け流されている。

 一応使っている武器は闇属性っぽいものだが、身体能力の差で上手いこと動けていない感じだ。


「むう、やはりここでは相性が悪いかのう」


 けどそんな中でも翁にはまだ余裕が見える。

 何か次の手があるのか?

 そんなことを考えながらエリザベートに攻撃を仕掛けた時、魔人たちの動きが突然変化した。といっても、二手に別れただけだけど。

 イグニスを中心にエリザベートを攻撃している班はそのままで、もう一つは翁を中心に四方に散る魔人たち。

 エリザベートはその動きに一瞬の戸惑いを見せたが、何かを察したのか離れていく魔人を追撃しようと動こうとしたようだ。

 しかしそれは、イグニスたちによって阻まれた。


「また何か企んでいるのね?」


 エリザベートがお見通しよとでも言いたげにイグニスに話し掛けたが、先ほどまでの余裕が少しないように見えた。

 脳裏に浮かんだのは、向こうの世界で苦しめられた記憶があるからかもしれない。

 それに四方に散った行動が何より向こうの世界で使った手法を想像させる。何より翁やイグニスが、無策でここに来るとは思えない。

 なら俺はそれを信じて時間稼ぎをすべきだ。

 一番効果的なのは時空魔法の遅延魔法が有効な気がするが、俺がある程度近付くと注意深く間合いを取っているような気がする。

 一度見せた、実際に体験したから警戒されているのかもしれない。

 警戒されているということは効果的だとは思うが、逆にそれが罠かもしれないのが悩ましい。

 挑発するように時々チラリとこちらを見てくるのも、俺を混乱させている。

 またそれだけの余裕があるというのが、エリザベートと俺たちの今の差なのかもしれないと思った。攻撃の手数が、人数が減ったのも原因の一つだろうけど。

 俺は魔法と投擲ナイフを軸に攻撃する。

 接近戦は魔人たちに任せているのが現状だ。

 エリザベートが槍で間合いがあるというのもあるが、魔人たちの多くが接近戦よりのようで、なかなか前に出る空間がないというのもある。バランス悪すぎだ。

 イグニスのように何でも出来る者もいるが、今ここで戦っている人たちの中では少数派のようだ。


「煩わしいわ。そうね……一つ面白い余興をしましょうか」


 しばらくして時間が経つと、唐突にエリザベートが呟いた。

 そしてカウンター気味に素手で魔人の体に触れると、突然魔人の動きが電撃でも喰らったように体を震わせると、パタリと倒れた。

 だがすぐに立ち上がると、ぐるりと反転してその魔人たちがこちらに向かって攻撃を仕掛けてきた。


「な、どうしたんだ」


 慌てて攻撃された魔人が対処したが、突然の攻撃に驚いているようだった。

 俺のところにも襲い掛かってきたから、剣でそれを防ぐ。間近で見る魔人の瞳は、焦点が合ってないようにも見えた。

 斬撃は重く、その剣筋も速い。気を抜けばザックリやられそうだ。

 ただ意識がないからなのか、機械的な動きのため攻撃が読みやすい。それがなかったら少しヤバかったかもしれない。もっともそれほどの余裕があるわけじゃないが。

 俺は攻撃を防ぎながら、それでも並列思考を使って魔人に対して鑑定を使った。


【名前「ウィンザ」 職業「親衛隊」 Lv「101」 種族「魔人」 状態「傀儡」】


 状態が傀儡になっている。

 しかし親衛隊って職業なのか……ま、職業自体どうやって決まっているか分からないし、深く考えるのはやめよう。今は関係ないことだし。

 状態異常なら竜王国の盗賊に使ったようにリカバリーで解除出来るか?

 俺はそう思い魔人……ウィンザに触れてリカバリーを使用した。

 リカバリーを使うと確かな手応えを感じて、ウィンザの瞳にも光が戻ったような気がした。

 やったか? と思ったのも束の間、その光は消えて攻撃してきた。

 俺は再度リカバリーを使った。今度は鑑定の状態に注意しながら。

 すると一時的に状態「——」となったが、すぐに状態「傀儡」に戻ってしまった。

 神聖魔法の今のレベルは8。それなりに高くはあるが、ミアがいたためそれほど頻繁に使っていたわけではない。

 それでも一時的に解除されたということは、効果はあると思う。

 ただそれが戻ってしまうということは、エリザベートが何かしているというのか?

 そうなるとエリザベートを倒さないと解放されないということになるが……。

 魔法の威力というのは、例えば攻撃魔法ならレベルを上げてより強力な魔法を覚えるか、スキルのレベルを上げることで強くすることが出来る。

 例えば火魔法でファイアーアローを使うにしても、火魔法のレベルが1の時とレベル5の時では威力が変わっている。もちろんウォーキングのレベルが上がっていてステータスが上昇しているというのもあるが、スキルレベルの上がることによる威力の上昇は間違いなくある。

 ということは神聖魔法のレベルが上がれば解除することは可能になるかもしれない。

 もしくはミアが隷属の仮面を解除する時に使った、あの神聖魔法が使えれば……。

 そこでふと思い出す。俺は神聖魔法がレベル8になっても、未だ多くの神聖魔法を使えないことに。ミアがダンジョンで良く使ってくれたプロテクションなどの補助系の魔法を使うことが出来ない。だって使い方が分からないから。

 そうなるとミア……聖女と俺とでは使える魔法が違うのかもしれない。

 ではウィンザを解放することは今の俺には無理か?

 周囲を見れば戦況はさらに悪化している。

 翁達に襲い掛かる魔人たちが増えて、作業も滞っているように見える。

 既に何人かが地に倒れている姿も見える。それがこちら側の魔人なのか、エリザベートに傀儡にされた魔人なのかもここからでは判断出来ない。

 殺すしかないのか?

 それともまだ何か手があるのか? おれはウィンザと戦いながら、何か出来ないかを考えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る