第356話 神界・2
足音の響く音がした。
神殿内は外観から想像出来ない造りになっていた。
実にシンプルな一本道。その一本道の通路には、等間隔で絵が飾られていた。
その数全部で一一枚。一枚一枚違うものが描かれているが、俺の目を惹いたのはその中の一枚の絵。
「似ている……」
俺の見ているのは竜の描かれた絵だった。
その容貌は竜王が竜状態の時の姿に酷似していた。
もちろん俺が他に竜自体を見たことがないからたまたまかもしれないが……。
そんな俺とは別に、翁も一枚の絵を見て足を止めていた。
それは翁だけじゃなく、イグニスたちも注目している。違う、翁以外の魔人たちは何処か戸惑っているようにも見える。中にはそれこそ涙を流す者もいる。
そこに描かれていた絵は……。
「無粋な者たちめ。よもやここまで来るとは!」
その時神殿の通路に異様な気配を感じた。
違う、これは怒気?
俺が使う威圧のようなものが体に圧し掛かる。
ただ立っているだけでHPが削られていくそれに、思わず膝を突きそうになった。
気をしっかり持たないと駄目だ。
俺はお腹に力を入れると、グッと我慢して一歩二歩と前に歩き出した。
すると不思議なことに先ほどまで感じていた威圧のようなものが感じなくなった。
俺は膝を突く多くの魔人たちの横を通り抜け、通路の先に向けて複製したナイフに素早く魔法を付与するとそれを投擲した。
ナイフは通路の先まで到着すると爆発した。
すると先ほどまで感じていた威圧感がなくなった。
「よくあの中を平気で動けたものだ」
イグニスが涼しい顔で言ってきた。
そういえば膝を突く魔人の中で、イグニスと他数名は何かしようとしていたような気がする。
「とりあえずまた女神が何かしてくる前に突破する。だが既にあれの領域の中だ。警戒を怠るな」
イグニスが先に立ち通路を進んで行く。
それに魔人たちが続き、俺は最初と同じように翁と一緒に最後尾でついていった。
やがて神殿の通路を抜けると、そこは大きな部屋になっていた。
白一色で統一されたその広間には、エリザベートがいた。
エリザベートは不愉快そうな表情でこちらを睨んでいる。
まるで土足でここまで入り込んできたことを怒るように。
俺はさりげなく周囲を見回したが、先ほどの爆発の余波は何処にも見受けられない。床にも壁にも傷一つない。
改めてエリザベートを見た時、背後に大きな透明な箱のようなものがあった。
その箱の中には色々な形、色々な色をしたものが無数に入っていて、箱の中をまるで泳ぐように浮き沈みしている。一瞬水槽? と勘違いしたほどだ。
しかし何より気になったのは、その塊たち一つ一つから魔力のようなものを感じたこと。大きいものもあれば小さいものもある。
そしてそれが、箱に接続されたチューブみたいなものを通って、別の箱に時々移動していくのが見えた。
「しかししつこいものよ。どうやってここまで来たかは知らぬが……いいでしょう。貴方たちはここで始末しましょう。残念です。特に……」
エリザベートはそこで言葉を切ると、イグニスと翁の二人を順に見て、
「良い玩具がここで壊れてしまうのは、本当に」
と言った。
その言葉を受けて何人かの魔人が襲い掛かった。
エリザベートは特に武器を手に持つ訳でもなく、完全に虚を突いた奇襲に見えたが、魔人たちは剣を振り上げたまま一メートル手前の空中で止まった。まるで蜘蛛の糸にでも掴まった蝶々のように。
「ここが何処かも分からぬ愚か者たちよ。死になさい」
エリザベートが手を翳せば、魔人たちが苦しそうに藻掻く。
俺は助けるために投擲ナイフを、他の魔人たちも魔法をエリザベートに向けて放ったが、まるでシールドでも展開しているのかエリザベートに届かない。
「無駄よ」
高らかに宣言し、いよいよ止めを刺すかという時に、イグニスが剣を振り下ろした。
イグニスの魔剣の剣先から黒い影が伸びると、まるで生きているかのようにエリザベートに襲い掛かった。
さすが聖剣を反転させた剣というか、それにはエリザベートが迎撃に動いた。
エリザベートは光の武器……槍を呼び出すと、それを影に向かって振るった。
光と影が激しくぶつかり合ってせめぎ合ったが、しばらくして二つとも消滅した。
その間に捕らえられていた魔人たちは他の者たちの助けを借りてどうにか脱出することが出来ていた。
「やはりここは、あ奴に有利に働く環境かのう」
翁は魔法を発動させようとして、眉間に皺を寄せた。
「それに逆に、わしらに不利な環境かもしれんのう」
確かに魔人たちの属性がエリザベートと真逆だというなら、確かにこの場所で力を発揮するのは難しくなるのか?
なら俺は……少なくともステータスパネルを見ても、マイナス補正は確認出来ない。もちろんそんな補正が表示されればだけど。
ただ特に体が重いとか、不調を覚えてないから俺には関係ないはずだ。
もっとも俺は万全だが、エリザベートも向こうで戦った時と違うはずだから警戒は必要だ。
特にどれぐらいの差があるか……今の攻防だけでははっきりしたことが分からない。
やはり確認するには、剣を交えるのが一番か?
俺は剣を持つ手に力を入れると、魔人たちと足並みを揃えてエリザベートに向かって一歩踏み出した。
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