第353話 暴走・1(クリス視点)

 私の旅は、お姉ちゃんと会って終わると思っていました。

 マジョリカでセラちゃんと再会し、あとはお姉ちゃんさえ見付けられたら、あとは帰るだけだと思っていました。

 けどそれも駄目になりました。

 お姉ちゃんが魔王になっていたなんて……。

 会えたことは嬉しかったけど、お姉ちゃんと話している間、頭にあったのはあの遺跡で知った内容でした。

 ならお姉ちゃんがこの先生きていくには、お姉ちゃんを殺しにやってくる人たちを全て倒していくしかないの?

 嬉しいはずなのに、お姉ちゃんの顔を見るたびに心が締め付けられます。

 それにお姉ちゃんは、私たちにここから離れるように言います。危険だからと。

 私一人ならいい。だけどルリカちゃんやセラちゃん、それにソラたちを巻き込むのは駄目だと思いました。

 だけど魔王城から最果ての町に戻ったら、二度とここに来られないような気がします。

 それとなくお城にいた魔人の方に話を聞けば、お城と町を行き来するには距離もあるし、何より私一人で黒い森を移動することは難しいと思いました。

 魔人の方たちも移動する際は、特殊な魔道具を使うか、強い人だと空を飛んで移動すると言っていました。

 結局私たちはお姉ちゃんに言われた通り、最果ての町に戻ることになりました。


「また会えますよ」


 お姉ちゃんはそう言うけど、それは嘘です。私を安心させるために作り笑いをしています。

 変わっていない。泣き虫だった私を安心させるために、何度その笑顔を向けられたことか。

 最果ての町に戻った時、皆に続いて歩き出そうとした時に、イグニスさんから一つの魔道具を渡されました。

 それは魔王城へ転移出来る魔道具。

 何故? 理由を聞く前に、彼は空を飛んで戻って行ってしまいました。

 ソラから彼のことは……いいえ、魔王城で多くの魔人の人たちと接して分かったのは、彼らがお姉ちゃんを、魔王を守ろうとしていること。その思いは、会話の端々から伝わってきました。

 もしかしたらこれは、半分生を諦めているお姉ちゃんを助けて欲しいということかもしれません。


 ある日の早朝。妙な胸騒ぎを覚えて、私は魔道具を使って魔王城に移動しました。

 ルリカちゃんたちに内緒で来たのは、まだ寝静まっていたというのもありますが、色々と理由があります。

 私が移動した時、遠くで何かの壊れる音を聞きました。

 恐る恐る柱の陰から覗けば、魔人の方たちが多くの人たちと戦っています。それは一進一退の攻防でした。

 けど私が気になったのは入り口。そこは破壊の跡が酷く、扉は打ち破られています。

 私はそれを見て動悸の高まりを覚えました。

 私は急いで扉をくぐれば、廊下を走ります。目指すはお姉ちゃんと最初に会ったあの玉座……あそこにいる気がします。

 到着した時に人質になりそうになったりしましたが、戦いは魔人たちの圧倒的な力の前に戦闘は終了しました。

 私はホッとしましたが、お姉ちゃんは何故か浮かない顔でした。

 その後ソラたちがやってきて、私はルリカちゃんたちに怒られました。


「ごめんなさい」


 と素直に謝れば、


「クリスは仕方ないな~」


 とルリカちゃんにコツンとされました。

 私たちが無事を喜ぶ一方、事態は最悪の方向に向かっていきました。

 ミアが女神に体を乗っ取られてしまい、どうやらソラはミアを助けるために女神に従い魔人たちと戦っています。

 魔人の包囲網を掻い潜りあと少しでお姉ちゃんに刃が届くというところで、セラがそれを防いでくれました。

 その間。私は見ているだけで何も出来なかった。

 ただただ、女神の言った言葉が私の頭の中を支配しています。

 お姉ちゃんが私を遠ざけた理由。全て、私がここに来たから、ミアもまた巻き込んでしまった。私の勝手な行動が今の状況を作り出してしまった。

 茫然自失の中、戦いは終了した。ミアの死によって。

 私が……ミアを殺したんだ……。

 ソラは……悲しいはずなのに淡々としている。ゴーレムの魔力を吸い取り、私に魔力を籠めるように渡してきた。

 私はその言葉に従い魔力を籠めれば、


『指示をお願いします』


 と言葉が頭に響きました。

 何度やっても慣れませんが、お姉ちゃんとミアを最優先に守るように指示を出せば、二体のゴーレムが動き出しました。

 ソラはそれを確認すると女神を許せないと言った。

 魔人の人たちを追って、女神を倒しに行くとも言った。

 それにヒカリちゃんが反対したけど、戻ってくると約束していた。スキルがあるから大丈夫だと言っていたけど、本人も確信は持ててないようでした。

 それでも、二度とここに戻れなくても、ソラの意志は変わらないみたいだった。

 私はついて行くとも、頑張ってともやっぱり言えなかった。

 何処か壁を感じたのもあったと思うけど、私は罪悪感の方から何も言えなかった。

 そしてソラは扉の中に消えていった。誰一人追いかけることなく。

 しばらくその扉を眺めていたら、パリンという音が響き、コツン、コツンと何かが床に落ちる音がしました。

 私が音の発信源を見るよりも先に、ヒカリちゃんが突然叫び声を上げました。頭を抱えて蹲ってしまいました。

 ルリカちゃんが慌てて駆け寄ったけど、その前にヒカリちゃんは立ち上がり、ぐるりとこちらを向きました。

 それを見て、私は息が止まるかと思いました。

 ヒカリちゃんのその表情、その目……まるで生気が抜けているような気がしました。

 次の瞬間、ヒカリちゃんの体が私の視界から消えました。

 それとほぼ同時に、ゴーレムが破壊されたことが伝わってきました。

 慌てて魔力の繋がりを追って目を向ければ、お姉ちゃんを庇うように立ち塞がっていたゴーレムが崩れ落ちるところでした。

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る