第348話 神殺しの武器・4

 俺が我に返ったのは、目の前にいる魔人たちの視線に気付いたからだった。

 余程酷い顔をしていたのか、心配そうにする者や、訝し気な表情を浮かべる者など様々な反応を見せていた。

 呆けている場合じゃない。今使えないなら使えるようにすればいい。

 まず考えたのがMP消費軽減のレベルを上げることだが、今のMP消費軽減のレベルは7だ。10まで上げれば使えるようになるようだが、スキルポイントが残念ながら2足りない。

 ならMP自体が増えるようなスキルがないかと検索したが、残念ながら該当するようなものはないようだ。

 他にはHPやSPをMPに換えてくれるようなスキル……変換?

 そんなことを考えたら表示された。三つも。

 HP変換。MP変換。SP変換だ。

 HP変換がHPがなくなった時にMPが肩代わりするように減ると言った感じで、足りない分を補充してくれるようだ。

 SP変換に関してはHPが肩代わりするようになるため、ちょっと取るのは怖いな。

 MPやSPがなくなることによる意識混濁を防ぐという意味では有効かもしれないが、まずは今必要なMP変換を取るか。

 これによりMPとSPの合計値分のMPが確保されたわけだから、単純に二倍になった計算だ。これで時間停止を使うことが出来る。


NEW

【MP変換】


 MP変換の効果は、MPがなくなった場合は、足りない分をSPが補充してくれるというもの。

 あ、一応ON/OFFの切り替えも任意で出来るようだ。

 俺はONにして神殺しの短剣に時間停止を付与した。同時に吸収も付与して、神殺しの短剣自体から溢れ出る魔力を利用出来るように魔改造する。

 なんか付与というよりも創造に近い作業のような気がするが、無事完成することが出来た。


【神殺しの短剣】全てを貫くもの。この短剣が体に接触している(刺さっている)場合、その間時間停止の効果を受ける。


 鑑定した結果がこれだった。

 これならいけるか?

 俺は土魔法で地面に文字を書いて、魔人たちにイグニスから聞いた作戦を伝える。

 もちろん魔人が確認したらすぐにその文字は消した。

 声に出すと、エリザベートに作戦がばれるかもしれないと思ったからだ。

 それから最初に行ったのはMPとSPの回復。セラに殴られてHPは減ったが、今は完全回復している。マナとスタミナポーションを飲んでそれぞれを完全回復すると、魔力察知でエリザベートの体を調べた。

 何処に攻撃すればいいのか?

 憑依者には弱点となるものがないかを確認するためだったが、心臓の近く、胸の中心辺りに強い魔力のようなものを感じた。


「あそこがそうか?」


 念のためもう一度確認したがやはりそのようだ。

 俺は右手にミスリルの剣。左手に神殺しの短剣を持って立ち上がった。

 それを見て魔人たちも武器を構え、少し間合いを開けた。

 そこからは段取り通りの攻防を行い、大袈裟にならないように魔人たちが一人、また一人と吹き飛び、囲みが崩れたらエリザベートのもとに駆けた。


『準備はいいか?』


 途中イグニスから入った念話に肯定の返事を行い。エリザベートに攻撃していた他の魔人たちに牽制のためのナイフを投擲し、二人の間に入ってイグニスの攻撃を受け止めて押し返した。

 その後イグニスとの激しい剣戟を繰り広げた。

 初めての二刀流だが並列思考のためどうにか上手く使いこなせている。

 またさすがのイグニスも神殺しの短剣には脅威を覚えているようで、それを警戒しているから少し攻めあぐねている感じだ。

 そんなもの演技でも使うなと言われそうだが、そこまでしないとエリザベートを欺くことが出来ないと思ったから仕方ない。決して振り回された恨みつらみがあったこととは関係ない。

 しかし地力の差は如何ともしがたく、一時的には有利に進めていたが徐々に押されていく。

 そこに他の魔人たちが援護に回って攻撃してきたが、驚いたことにエリザベートが援護してくれた。

 チラリと見れば詰まらなそうな表情で魔人を攻撃しているが、額には大粒の汗が浮かんでいた。

 一見して大したことなさそうに戦っていたが、やはり時間と共に翁の作り出したこの特殊フィールドに体力を消耗されているようだ。

 先ほどエリスを挑発し脅すようなことを言っていたのも、余裕がなくなっていたからなのかもしれない。

 ただそんな状況においても、魔人の攻撃を聖剣を巧みに動かして防いでいる。

 剣を扱うような経験があったのか、その剣捌きは無駄がなく歴戦の戦士を見ているかのようだった。


「いい加減鬱陶うっとうしいわね。喰らいなさい!」


 エリザベートが聖剣を振ると、その剣の軌道をなぞるように白い斬撃が飛んだ。

 それは寸分違わず魔人たちのもとに飛来し、直撃した。躱そうとしたものもいたが、追跡機能でもついていたのか躱した瞬間軌道を変えた。

 それを防いだのはイグニスと、翁だった。翁は魔王の方に向かった斬撃も難なく防いでいた。

 こんな便利な攻撃があるのならと思ったが、攻撃したエリザベートが膝をついた。

 どうやらそれなりに消耗する技だったようだ。

 その隙を、イグニスが見逃すはずがない。

 俺もここがチャンスかと思ったが、一瞬エリザベートと目が合い押し止まった。

 素早く体を動かし、エリザベートに斬り掛かったイグニスの邪魔をする。

 一瞬訝し気な表情を浮かべたが、俺の背後に視線を向けると俺に向かって蹴りを放った。


『右に飛べ』


 言葉通りイグニスの蹴りを利用して右側に飛べば、そこに剣が振り下ろされた。

 間違いなく俺もろとも、イグニスを斬るつもりだったのだろう。

 イグニスは俺を助けたからか、一瞬対応が遅れた。

 俺はそこに神殺しの短剣を投擲した。もちろんイグニスに向けてだが、狙ったのは聖剣だ。

 まさに聖剣がイグニスを捉えようとした瞬間、まるで聖剣がイグニスを守るように神殺しの短剣と激突した。

 激しい火花を散らせて聖剣は弾かれ、その勢いでエリザベートの体が流れた。

 そこにイグニスが斬りかかったが、エリザベートは寸でのところで聖剣を盾にしてそれを防いだが勢いに負けて後方に吹き飛んだ。

 俺はそれに合わせてエリザベートの背後に転移すると、ミスリルの剣を左手に持って振るった。


「やはり何か企んでいたようね。けどその程度では……!」


 剣と剣がぶつかり合い、ミスリルの剣が砕けた。

 聖剣はミスリルの剣を破壊したまま俺に向けて振り下ろされたが、今度はそれをイグニスが防いだ。一応シールドを張っていたが出番はなかったようだ。

 そして転移で引き寄せておいた神殺しの短剣を、今度こそ無防備になったエリザベートの胸に突き刺した。

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