第347話 神殺しの武器・3

『セラ聞こえるか? もし聞こえたら右手の斧を少し上げてくれ』


 イグニスとの相談で、一度はエリスを守る魔人に攻撃を防いでもらおうと思ったが、リアリティーを上げるためにセラに手伝ってもらうことにした。

 もっとも一番の狙いは奴隷契約をしていたセラに、俺の声が届くかどうかを確かめるためでもあったが。

 俺はイグニスと戦いながら、セラの握る斧が少し上がったのを確認した。


『今からエリザベートの信用を得るためにエリスさんに攻撃を仕掛ける。悪いが防いでくれ。転移でエリスの目の前に飛ぶ』


 頼むと同時に、攻撃を防いだ時にどの地点に吹き飛ばしてもらうかも指示するのを忘れない。きっとセラなら大丈夫、なはず。


『いくぞ!』


 俺はイグニスとセラの二人に念話を飛ばすと、イグニスに対して近距離から攻撃魔法のファイアーアローを複数放ち、追加で目くらましのための光魔法ライトを使った。

 動きの鈍ったイグニスを弾き飛ばし、さらに追加でエリザベートに襲い掛かろうとしていた魔人に向けてナイフを投擲した。もちろん近くで爆発するように付与したものだ。

 結果を確認しないままエリス目指して走る。

 もちろんエリスを守ろうとする魔人が前を塞ぐが、俺が攻撃の体勢に入ると迎え撃つために攻撃してきた。

 俺は構わず進み、攻撃が当たりそうになった瞬間転移でエリスの目の前に飛んだ。

 驚きの表情を浮かべるエリスを無視して攻撃。あとはもうセラを信じるしかない。一応セラが間に合わなかった時を想定して攻撃を止める準備もしているが。

 そして期待通りセラはクリスたちのところから離れ、素早い動きで俺の方にやってくると、俺の攻撃を右手の斧で防ぐと、左手の斧の腹で俺を吹き飛ばした。

 俺は体が流れていたこともあり、攻撃を受け流すことが出来ずに吹き飛んだ。

 痛みは……痛覚軽減が久しぶりにいい仕事をしてくれたようだ。手加減してくれたというのもあるのだろうが。

 床に転がる俺のところに、数人の魔人たちが移動してきて囲んできた。

 ちょうど俺の前に立ったから、エリスやエリザベートから俺の姿が隠れるようになった。

 けどエリスを攻撃しようとしたからか、ちょっと俺を囲う魔人たちの目が怖い。

 どうやらイグニスの作戦は、目の前の魔人たちにも内緒のようだ。

 今俺が問答無用に攻撃されないのは、俺がエリスの妹クリスの知り合いだからなのかもしれない。


「ん~、あと少しだったようね。けど魔王よ、お友達の手綱はしっかり握っておかないと駄目よ? それとも……次の魔王に妹を指名してもいいのかな?」


 どんな表情をしているのかは分からないが、その楽しそうな声からエリスを口撃していることは分かる。

 イグニスの言う通り、エリスが下手に動くとクリスに影響が出るみたいだ。

 なるほど、人質のようなものか。

 俺がアイテムボックスから神殺しの短剣を取り出すと、魔人たちの警戒レベルが上がったような気がする。

 俺はそれに気付かない振りをしながら、先ほどのイグニスの作戦を思い出す。

 そこでふと、ある疑問が浮かんだ。

 確かにエリザベートはミアに憑依している。所謂魂だけの状態だ。

 その状態で神殺しの短剣で攻撃した場合、本当にエリザベートを殺しきることが出来るのかどうか。

 仮にそれが撃退という形に終ったら、エリザベートは次の手を考えエリスを殺そうとすはずだ。

 それがいつになるかは分からないが、その間にミアを生き返らせることが出来るのか? また生き返らせれた場合、ミアがまた憑依されることはないのか?

 そしてエリザベートの再襲撃が早かった場合。万が一エリスがミアを生き返らせる前に殺された場合、時間停止の魔法が解けないかどうか。

 冷静になって一人で考え始めると、次々とイグニスと対話していた時には思い浮かばなかった不安が押し寄せてきた。

 時間停止……俺はふと時空魔法がMAXになった場合の効果を思い出した。


『イグニス、教えてくれ。エリスさんが使う時間停止の魔法は、彼女が万が一死んだ場合どうなる?』


 返答はなかった。

 ただ気配察知の反応から、イグニスがエリザベートに攻撃していることが見えなくとも分かった。

 俺は最悪の事態を想定して、エリスに頼らない方法でミアの死の時間を止められないかを考える。

 もっともそれは考えることもなく、時間魔法のレベルを上げる方法だ。

 時間停止を神殺しの短剣に付与して、刺した者の時間を停止させる効果が得られるかどうかだ。

 ただこれにも問題は幾つかある。

 エリザベートがそのままミアの体に憑依したままで時間が停まってしまう可能性と、その効果時間だ。

 エリザベートが憑依したままなら封印という感じで活動を停止させることになるのかもしれないが、それでは根本的な解決にならない。

 あとは効果時間に関してだが、これはヒカリの短剣と同じだと考えると、斬るのでなく短剣を体に刺した状態を維持しないといけないのかもしれない。時間停止の効果時間は、魔力が続く限りとあったからな……。

 幸い神殺しの短剣自体に魔力があるから、それを活用して自給自足してもらえばいい。吸収を活用すれば時間停止に必要な魔力は短剣から供給されるだろう。あくまで俺の希望だから出来るかどうかはやってみないと分からない。

 まずは時空魔法のレベルをスキルポイントを消費して10にした。

 これで残りスキルポイントは31。転移も10にしたくなるが今は我慢だ。

 そして神殺しの短剣に時間停止を付与しようとして手が止まった。

 魔法の使用に失敗した。

 鑑定で確認したら、必要な消費MPの量が多く、MP消費軽減があっても全然足りなかったためだ。

 これだと時間停止を使うことが出来ない。俺はその現実を突き付けられて、ただただ呆然とその結果を眺めるのだった。

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