第346話 念話
『どうやら聞こえているようだな。ソラよ、お前の習得したスキルの数から察するに、スキルを自分で覚えることが出来るのだろう? もし今それが可能なら念話のスキルを取れ。もし覚えられたなら我に向かって頭の中で話し掛けろ。無理なら攻撃してくるがよい』
俺は剣を構えながら注意深くイグニスを見た。
この頭に響く声はイグニスのもの?
分からないが今はそれに従うべきだと何となく感じた。
ただ罠かもしれないから注意は怠らない。
俺は乱れた呼吸を整えながら、並列思考を使って【念話】のスキルを探した。
膨大な数のスキルがあるため、探すのに苦労する。
こんな時に検索機能があれば……と思ったら、都合よく念話が見つかった。
検索出来たからか?
……深く考えるのはやめよう。
NEW
【念話Lv1】
念話は声を出さずに会話が出来るというスキルというらしいが……。
他のスキル同様。覚えた瞬間使い方が分かるようになるのは助かる。
『覚えたがどうするんだ? それよりもこれは、俺からイグニス以外の他の人にも言葉を飛ばすことは可能なのか?』
『パスが繋がっていれば可能だろう。ただ相手が念話を使えなければ、相手の声が聞こえることはないだろうがな』
『パス?』
『人間社会で言うなら奴隷契約などがそれにあたるが、念話のスキル持ち自体が少ないからあまり知られてないだろうがな。今我らが念話を通じて会話出来るのは、制約の名残だと思えばいい』
名残? ということは……。
『ならあんたと交わした制約はエリザベートの言う通り解除されているということか?』
その問いに明確な答えはなかったが、どうやらエリザベートの言ったことは本当のことらしい。
『……とりあえず聖女を救う方法を教えよう。だが女神に悟られるわけにはいかない。戦いながら説明するぞ』
イグニスはその言葉通り攻撃を仕掛けてきた。
「こいつは我が始末する。お前たちは女神を殺せ」
その一方で他の魔人たちに、エリザベートを攻撃をするように指示している。
『簡潔に言う。女神をその身に宿した者は助からない。だから最初に言っておく。例えお前が魔王様を殺しても、女神は聖女を助ける気がない』
『ならあんたの言うことも嘘だと言うことじゃないか!』
『いいや、一つだけある。生き返らせるんだよ。一度殺してな。翁のことだ。お前にその方法を教えたはずだが?』
俺はイグニスと鍔迫り合いをしながら、あるアイテムのことを思い出していた。
『エリクサー……』
『そうだ。それがあれば聖女を生き返らせることが出来る』
『ならここにあるというのか?』
『いや、ない。だがこの世に存在するモノである以上、可能性はある』
何を言っているんだこいつと思った。
あれの死者を復活させるという効果は、死後すぐに使わなければいけなかったはずだ。
それでは意味がない。
『あれの効果は……!』
思わず力が入って会心の一撃を放っていた。
けどそれも軽々止められて、まるで子供のようにあしらわれた。
『そう、あれはすぐに使わねば意味がない。だが、もし死者の状態を死んだ瞬間のまま維持することが出来るとすれば?』
そんなことが可能なのか?
『もちろん可能だ。ただこれには魔王様の力が必要になるがな』
俺の心の問い掛けに答えるようにイグニスの言葉が続く。
『魔王様は火水風土の四属性の他に、空間と時の精霊と契約している。時の精霊の力を借りれば、それが可能だ』
その言葉に動揺して剣先が鈍った。
体を捻ることで直撃を避けたが、イグニスの剣がローブを切り裂いた。
確かにイグニスの言葉が正しければ、エリスにはその力があることになる。
だが果たしてそれを素直に信じてもいいのか?
イグニスたちは、魔王を守るためなら何でもする。しようとする。
『一つ答えろ。何故ミアについて……聖女について何も言わなかった』
『翁の言ったのがその答えの一つだが、もう一つ理由はある。魔王様の……身内を守るためだ』
『クリスを?』
『そうだ。あの女狐の性格は知っているだろう? あの性悪は人の嫌がることを、絶望を見るのが生きがいのような奴だ。だからお前たちが彼女をここに連れて来なくても、きっと誘導してここに導いていたはずだ。そして、魔王様の妹にその身を宿し、襲い掛かってきただろうな』
この時のイグニスの言葉は、今まで感じなかった感情が籠っていたような気がした。
その言葉を聞いて妙に納得した。
ユタカの言葉や、ユタカの仲間たちの取った行動。あの時映像の中で見た悔しそうな、そして何処か疲れたようなユタカの顔が思い浮かんだ。
『分かった。俺はどうすればいい?』
『こちらで隙を作る。だからソラよ。神殺しの剣でお前が止めを刺せ。そのためにはまず信用を得る必要がある。一度魔王様に攻撃を仕掛けろ』
こうして俺は戦いながら、女神を殺すための相談をするのだった。
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