第343話 降臨・2(ミア視点・1)

 良かった。

 その光景を見て思わず涙が出そうになった。

 魔王といってもしっかり感情はある。何処か遠慮しているように見えた二人が、今は抱き合って喜んでいる。

 良く見ればエリスの瞳には涙がある。

 遠目だけどクリスは負傷してないみたいだし、他には……と視線を魔人の方へと向けたら切り裂かれた肉片が視界の中に入ってきた。

 昔だったら思わず目を逸らしただろうその光景にもなんか慣れてしまった。

 それがいいことかどうかは別だけど……うん、私も強くなった。図太くなったわけじゃないよね?

 思えばフリーレン聖王国を飛び出して色々なことを体験した。

 森を歩くのもそう。ダンジョンに潜るのもそう。ましてや魔物と戦うなんて、聖都にいた時では考えられないことだった。

 あとは神聖魔法の使い方がかなり上手くなったと思う。

 ソラの話を信じるなら単純に魔物を倒したことで成長したのもあるが、やはり魔力操作を練習した経験が生かされていると思う。

 練習前の頃は、傷の大小に関係なくヒール一つするのに一〇の魔力を消費していた。

 それが今では傷の具合を確認して、魔力量を調整してヒールを使うことが出来ている。それこそ一の魔力で治るものには一の魔力でヒールを。四の魔力で治るものには四の魔力でヒールを使っている。

 だからその分使える回数も増えているというわけだ。

 もちろんこれが出来るようになるまでには何度も何度も、数え切れないほどヒールを使った。

 あれ? けどソラたちパーティーメンバーに使うよりも、他の人たちに使っていた方が圧倒的に多いような気が……うん、気のせいじゃないと思う。

 と、とにかくそれのお陰で私の神聖魔法は大きな成長をした。

 今回の討伐隊による襲撃でも大活躍した。

 けど、治ったと同時に突撃していって、また負傷して戻ってくるというのはどうかと思いますよ? ま、それだけエリスを守りたいという強い想いは伝わってきたから私も文句を言わずに治療をしてましたけど。

 話が逸れましたね。

 それでこちらでも激しい戦闘があったと思うのですが、皆さん傷を負っていませんか?

 えっと、皆さん無傷なんですか?

 ソラはこちらには強い人がくるようなことを言っていたけど、皆さん強いんですね。

 私はやることがなくなったのでソラのいる方に向かった。

 近付くと何やら深刻そうな雰囲気だ。

 ソラとコトリの話に耳を傾ければ、どうやらこの三人がソラと一緒に召喚された人たちだということだ。

 一人髪色が黒くないけど、瞳の色は……仮面をしている人以外は真っ黒だ。

 そういえばソラは髪の毛の色を変える薬を使ってたし、あの人もそれを使っているのかも。


「あ、あの。少しいいですか?」


 私は話が途切れたのを見計らって、話し掛けました。

 クリスたちの無事を話し、ソラたちが何に困っているかを聞きました。

 ……ソラに出来ないことを、私が出来るとは思えませんが、それでも何か役に立つことがあるかもしれない。

 私は改めて三人を見て、見覚えのある仮面をしている人がいることに気付いた。

 エルド共和国の時に一度。そして今回の襲撃で一度見ている……違う、ソラの仮面に似ているんだ。

 けど決定的に違うのは、ソラの仮面にはない、禍々しさを感じる。

 今まで感じなかったのは、これほど近くで見ることがなかったから?

 私は見ているだけで背筋に冷たいものを感じて、なんか落ち着かなくなった。

 けどどうしてだろう? 嫌な感じを受けるのに、目が離せない。

 そして見れば見るほど、私の中に何かが囁いてくる。


『貴女なら解放出来ます。貴女はその術を既に知っています』


 頭に直接語り掛けるような優しい言葉。

 昔……何処かでこの声を聞いたことがあるような気がしたけど何処だったかな? 思い出せない。


「そうなんだ……ねえ、ソラ。一つ試してみたい魔法があるんだけどいいかな?」


 私はそう言っていた。

 これが私の意志だったかどうかは分からない。

 なんかふわふわしていて、頭に靄がかかったように徐々に意識が不鮮明になっていくような気がした。

 私は何故か一度イグニスさんを見て、男性の傍らに落ちている一振りの剣を見た。神聖な波動を感じるそれを見ていると、不思議な気分になった。

 派手な頭の男性に声を掛けられて思わず体がソラの方を向いたが、すぐに仮面の女性の方に体の向きが戻った。

 そして私は何事か呟き、静かに手を翳した。

 私は体の中から魔力が溢れるのを感じたが、それに比例するように増々私の意識が沈んでいくのを感じた。

 違う。沈んでいるんじゃない! これは……消えて……?

 やがて私の口は何事か発した。

 それが引き金となって目の前の仮面が真っ二つに割れた。

 二つに割れた仮面は女性の顔から滑り落ちるように床に向かって落ちていき、私は言い知れぬ恐怖を感じて助けを求めようとして……その仮面が視界の中から消えるのと同じように、私の意識も消えていった。

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