第342話 降臨・1

 俺たちが到着した時には、既に全てが終わっていた。

 侵入した者たちは無力化……一緒に召喚された三人? は拘束され、他は殺されていた。

 玉座の方を見れば、そこにはエリスを中心にクリスたちがいた。

 とりあえずこれで一安心か。

 コトリはというと、拘束された三人の傍らに立っているがその表情は曇っている。


「どうしたんだ?」

「あ、お兄さん。それが……」


 コトリの視線を追うように見れば、一人見知った者が……正確には見覚えのある仮面がそこにあった。鑑定すれば【隷属の仮面】と確認出来た。

 ヒカリがギュッと袖を握ってきた。

 俺は軽く頭を撫でて上げながら他の二人を見た。

 正直あまり良く覚えてないといったところだが、鑑定すれば彼らが異世界人であることは分かった。


「お兄さん、どうにかなりませんか?」


 コトリには隷属の仮面のことを話してある。

 イグニスに言えば無理やり取り除くことは出来ると思うが、そこにはリスクも存在する。ヒカリの時はそこまで考える余裕がなかったからな。

 コトリの声にナオトが反応を示した。

 その視線は何処か切実なものを感じる。

 確かコトリから聞いた話だと、二人は会社の先輩後輩という関係で向こうの世界でも顔見知りだったということだ。

 とりあえず駄目元でリカバリーを使用したが、残念ながら効果はなかった。

 状態異常を回復させる魔法だが、あくまで人に使うものであって道具に使うものじゃないからな。

 やはり王国に行って、これを解除出来る者に解除させるか装着させた主人を殺すしかないのかな? 一番可能性のありそうなのが国王だが果たして……。


「ここだと無理だな。これを装着させたのが誰かは分かるのか?」


 ナオトは分からないと言う。

 そもそも何故隷属の仮面をしているのか詳しく聞けば、魔人の襲撃を受けて負傷していたが、今作戦に参加する時に合流した時には既にしていたそうだ。

 その時聞かされたのが、身体能力を上げるための魔道具だと言われたそうだ。


「やはり王国に行く必要があるのかな」


 それは本格的に魔王側に属して人類と戦うということになるのだろうか?

 ただ実際問題、王国はどうにかしないといけないとは思っている。

 特に今回の討伐が失敗と分かった場合、王国が再び異世界召喚を行うかもしれない。

 その場合新たな被害者が出ることになる。


「なあ、イグニス。今まで勇者たちを撃退した時は、魔人たちはどうしてたんだ?」

「……特には。以前はこちらも被害が出ていたからな。そのため立て直す方に重点を置いていた。ただ、今回は向こうも討伐が失敗したとはまだ分かっていないだろう」

「何故だ?」

「勇者を殺していないからだ」


 イグニスの話によれば、勇者を殺すとその聖剣は勝手に転移してある場所に戻るとのことだ。

 今回勇者を殺さなかったのは、それがあったからだと言う。


「だから多少の時間稼ぎは出来るだろう」


 それに今回は人類が弱すぎて、いつもよりも被害らしい被害は出ていないとのことだ。

 外では少なくない数の魔人が命を落としていたとのことだが、それでも今回は被害が少なかったそうだ。


「とりあえずこの者たちは牢屋に入れておけばいいだろう。その間に対策を練る必要があるがな」


 イグニスはそう言ったが、その言葉に何か違和感を覚えた。

 何をもってそう感じたか……ただなんとなくとしか言えない。


「あ、あの。少しいいですか?」


 話し込んでいたらミアがこちらにやってきた。


「向こうはいいのか?」

「はい、クリスも特に傷を負っていないみたいだし、ここにいた魔人の方々は皆ピンピンしてましたよ」


 出番がありませんでしたとミアは笑顔だ。

 流石は魔王を守るために配置された魔人と言うべきなのか?

 良く見れば翁以外の魔人たちの角は二本だ。確か外にいたのは一本の角だったが……もしかして角が多いほど強かったりするのか?


「それでソラ。あの仮面なんだけど……」

「隷属の仮面か?」

「うん、遺跡の時もそうだったし、外の人たちもしてたよね? 改めてしっかり見たけど嫌な感じを受けるの」


 ある意味呪いのアイテムっぽいからそう感じるのは正しいかもしれない。

 特にミアは神聖魔法を覚えているし、何より聖女だからな。忘れがちだけど。


「けど無理やり取るわけにもいかないし、現状方法がないんだ」

「それって大丈夫なの?」


 俺は一度ヒカリを見たが、長時間使用して何か害があるかも分からない。助けを求めるようにイグニスを見たが、我関せずと言った感じ……か? いや、何か警戒しているような気がするが、何に警戒しているんだ?


「正直俺にも分からないんだ。王国に行って手掛かりを探すしかないかもしれない」

「そうなんだ……ねえ、ソラ。一つ試してみたい魔法があるんだけどいいかな?」


 ミアはそう言うと、俺が答える前にカエデに近付いて行く。

 途中一度チラリとイグニスを見て、ナオトの近くに無造作に転がる聖剣を見て、そしてカエデを見た。


「た、助けることが出来るのか!」


 ナオトの叫び声に、ミアは困ったようにこちらを振り返った。

 本人にもその魔法が通用するか分からないからどう答えていいか困惑しているのかな?


「と、とりあえずどうなるかわ分かりません。ただもしかしたら……」


 ミアはそれ以上は何も言わず、静かに手を翳した。

 一分、二分と時間が経過している。

 固唾を呑んで見ていると、やがて魔力の揺らぎを捉えた。

 そしてミアは口を開いて何事か言った。

 その言葉を俺の耳は聞き取ることが出来なかった。

 それは初めてのことだった。

 今まで言葉は、文字と同じように勝手に変換されて知ることが出来たのに、今のミアの言葉は全く分からなかった。

 俺が使えない魔法だからか? 一瞬そう思ったがそんなことはない。クリスが精霊魔法を使う時も、意味は分からなかったが何と言っているかは分かったのだから。

 そんな俺の思考をぶった切るように、大きな破砕音が鳴った。

 音に誘われて視線を向ければ、隷属の仮面は真っ二つに割れると地面に落ちる前に文字通り消滅した。


「せ、先輩!」


 ナオトが拘束されたまま先輩と呼ぶ女性のところに這っていったが、俺はそれよりもミアの体に釘付けになっていた。

 ミアの体は発光し、溢れんばかりの魔力に包まれていたからだ。


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