第341話 攻防戦・5(とある冒険者視点)

 今回俺たちが受けた依頼は、勇者を魔王の元に届けること。

 指名依頼を受けて城塞都市で長いこと活動していたところに、新たな注文を受けたのがこれだ。

 正直面倒だと俺は思ったが、提示された報酬に仲間たちが盛り上がり、結局多数決で受けることになった。

 実際長期滞在した城塞都市でもこちらの要求を色々と呑んでくれたのも大きいのだろうな。報酬に期待が広がっているようだった。

 正直魔人が強いなんて噂を聞いたが、所詮は低ランクたちの意見だ。

 魔人を化け物という輩もいるが、俺たちもその化け物に片足を突っ込んでいると自負している。Sランク冒険者とは、そういう者たちだ。

 俺たちは七人で組んでいるが、力を合わせればドラゴンだって狩ることが出来る。実際帝国のダンジョン内で地竜を倒した実績がある。

 初めて顔を合わせた時に思ったのは若いということ。実際に手合わせをして思ったことは、これが勇者の力か? という疑問。

 一番若い少年は言動が怪しく、口だけといった印象。

 長身で派手な頭の男は、むしろ腰に差した剣の方に力を感じたほどだ。仲間の何人かが目の色を変えたが、変な揉め事は勘弁してくれよ。

 一番不気味だったのは鎧姿の女だ。仮面で表情は分からなかったが、無駄な動きが一切なく、見ていて隙一つなかった。

 スタイルが良くて口笛を吹く仲間もどうかと思うが、俺とは感性が違うから仕方ない。本当に、帝国出身の奴は下品な奴が多いな。ま、その力量は間違いないし、こと戦闘においては背中を任せられるからいいんだけどな。

 その後俺たちは別動隊となって黒い森に足を踏み入れた。

 魔物の討伐隊が引きつけているとはいえ、さすがに全ての魔物を引きつけることは出来ない。

 実際何度か魔物と遭遇して狩ることになった。

 中には上位種もいたが、少し勇者たちの力量を確認するために魔物を勇者たちの方に流したが、その力は確かなものだった。

 派手な頭と、女に関しては、正直俺たちと同等かそれ以上といった印象を受けた。

 特に派手な頭の男……名をナオトと言ったか。剣を引き抜いた瞬間人が変わったようになった。

 女の方は行動中も無駄なことは一言も話さず、魔物を圧倒して殺していた。あの槍捌きにはちょっと震えた。それは他の仲間たちも感じたようで、その戦いぶりを注意深く観察していた。

 あとで同行した騎士たちに、勇者様の手を煩わせるなと文句を言われたが、戦力の確認は大切だと思うぞ?

 そして何泊も繰り返し、黒い森を進んで行くと、ついに目的の魔王城に到着した。


 一応討伐隊も近くまで来ているようだったので、そいつらが陽動となって動いてくれるとのことだった。

 まずは討伐隊が魔王城を攻め、時間差で俺たちがこっそりと侵入することになった。

 そこで良かったのは、遠目だが魔人の戦いぶりを見られたことか。

 見る限りそれ程の脅威は感じない。

 お、あれはソロで活動している帝国のSランクの奴だ。名前は忘れたが腕はそこそこあったはず。そいつが圧倒している姿を見て、やはり魔人も大したことないな、という認識を俺たちは持った。

 ただここで勇者一行の少年が魔人に向かって走り出そうとしたのには驚いた。

 慌てて止めたが、魔人を睨む少年の目を見て、思わず息を呑んだほどだ。あれほど殺意に濁った瞳を見たのは、いつぶりぐらいだろうか?

 一悶着あったがとりあえず俺たちは魔王城に近付くことが出来た。

 途中俺たちの存在に気付いた魔人がこちらに向かってきたため乱戦になった。

 さらに追加でゴーレムなのか。門の近くの石像も動き出した。

 勇者も俺たち仲間も無事だったが、その戦いで騎士の何人かと魔人の何人かが倒れた。

 生き残った騎士は負傷した者たちをそのままに、さらに向かってくる魔人たちを迎え討つために突撃していった。

 俺たちはその隙に城内に潜入し、魔王を探した。

 進む通路では飾られた甲冑に襲われたりしたが、俺たちの相手ではなかった。


「おい、道は大丈夫なのか?」


 そんな中、ナオトという男は悩むことなく先へ先へと進んで行く。

 俺が問い掛けると、男の持つ剣が魔王が何処にいるかを教えてくれると言う。

 俺たちは顔を見合わせたが、ひとまずそれを信じることにした。何を根拠に信じようと思ったのか、今でもそれは分からない。

 そして結局ナオトの言う通り魔王の元に到着した。

 魔王のいる部屋に入る前の広間に、ゴーレムや甲冑など怪しいものが控えていたのに、扉を開こうとしても結局それは動かなかった。警戒してたんだけどな。

 部屋に入ればあるのは玉座。そこには一人の女が座り、その周囲には魔人たちがいた。あれが魔王? 一瞬見惚れたが、帝国出身の奴らはその姿を見て侮蔑するような笑みを浮かべた。

 良く見れば耳が尖っている……資料で見たことのあるエルフの特徴だ。

 ということは魔王はエルフ?

 俺が疑問に思っていると、勇者たちが動いていた。

 慌てて俺たちもそれに続き中に踏み入れた。

 そこからはまさに地獄だった。

 一人の魔人が勇者たちを相手取り戦いを始め、圧倒的な力の前に勇者たちは手も足も出ない。

 不甲斐ないと叫ぶ仲間たちが援護に回ろうしたが、俺たちの行く手を阻む者がいた。他の魔人たちだ。

 俺たちは先の闘い同様素早く倒そうとしたが、一人、また一人とこちら側が倒れていった。

 その強さは外で戦った魔人の比ではなかった。

 まだ奥には動かずこちらの様子をうかがっている魔人が複数いるというのにこれでは……。

 ここに至り俺たちは魔人の力を見誤っていたことに気付いた。


「どうするんだ!」


 苛立つ声が聞こえるが応える余裕がない。また一人仲間が倒れ、残り四人。

 浮足立った仲間たちは、既に勇者たちを見捨てて逃げる算段を始めていることが分かった。長い付き合いだ。それに俺もそう考え始めている。

 だがその時、戦況が大きく動く出来事が起こった。

 俺たちが入って来た入り口に、一人の少女が姿を現したのだ。

 その少女が現れた瞬間、俺たちの相手をしていた魔人が驚き攻撃の手を止めた。隙が出来たと攻め立てたが倒すことは出来なかったが、後退させることに成功した。

 そしてその時少女を見る余裕が出来た。


「エルフ……⁉」


 その言葉に良く見れば確かにエルフだ。

 もしかして魔王の関係者か? 今まで見たことなかったエルフを立て続けに見たから短絡的に考えてしまったが、もしかしたら……。

 そう思ったのは俺だけでなかった。

 仲間の一人が素早く動きそのエルフのもとに向かう。

 それを阻むように魔人が追うが、俺はそれを防いだ。焦っているのか、先ほどまで正確だった攻撃に荒さが目に付いた。

 やがて仲間がエルフの少女を捕まえ、後ろ手を捻り上げて拘束した。

 少女の悲鳴が上がり、仲間の首が飛んだ。


「えっ」


 と誰かが声を上げた。

 少女の傍らに立つのは、今さっきまで勇者たちと戦っていた魔人だ。

 視線を向ければ勇者たちは倒れ伏していた。

 視線を戻して魔人を見た瞬間。俺は背筋に冷たいものを感じ、言い知れぬ恐怖を覚えた。

 俺たちは、してはいけないことをしたのかもしれない。

 そう思ったと同時に腹に痛みを感じ、俺の意識は闇の中に沈んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る