第340話 攻防戦・4(コトリ視点)

 ルリカさんとセラさんと一緒にお城の中に入りました。

 重厚な扉は無残に破壊され、石像も粉々に砕けています。

 顔見知りの魔人さんが横たわり、血の中に沈んでいるのを見ました。思わず目を瞑りましたが、まだ息があるかもしれません。

 駆け付けて確かめたけど、もう……息をしていませんでした。


「コトリ、大丈夫さ?」


 セラさんが心配そうに聞いてきたので、コクコクと頷きます。

 本当は嘘です。口を開いたら吐いてしまうかと思い、頷くだけになってしまいました。

 私たちは破壊の跡を追うように廊下を進みます。

 廊下には飾られていた甲冑が壊され転がっています。あ、あれなんて兜が真っ二つに斬られています。あの鎧なんて無数の穴が開いてますよ。

 そんな光景をそこかしこで見ましたが、最初の入口以外のところでは魔人さんの姿がないからそれは安心しました。

 けどこの惨状。やはり誰かが戦っているのは確か。

 私の脳裏に浮かんだのは楓お姉さんのこと。

 ここに来ているかな? と思い。それは単純に無事だったことを嬉しく思う反面、私は会った時にどうすればいいのか迷います。

 楓お姉さんたちと一緒に戦う? それはありえません。

 私は知ってしまったから。話で聞いただけの魔王……エリスさんのことを。魔人さんたちのことを。

 彼らにも私たちと同じように血が流れていて、人らしい感情を持っていた。

 凶悪な殺人兵器なんてことは全くなかった。

 そしてお兄さんから聞いたこの世界の真実。

 あとは単純に、あの時牢屋で会った時に理解した。

 私はどんなに頑張っても、倒せないだろうことを。

 もし本能というものがあるとしたら、あの時感じたことがまさにそうなんだと思う。

 純粋な恐怖。あのダンジョンでドラゴンと対峙した時でさえ感じなかったものを、あの時確かに……。


「本当に大丈夫? コトリ顔色悪いわよ」


 注意しながら進んでいると、今度はルリカさんが心配して聞いてきました。

 私の顔色はそんなに悪いのでしょうか?

 こんな時に手鏡とかスマホとかあればすぐに分かるんですけど、この世界にはそういう便利なものはなかなか手に入らないんですよね。鏡ならお金さえあれば買えるらしいですけど。


「は、はい、大丈夫です。先を急ぎましょう!」


 私は自身を奮い立たせるためにギュッと杖を握った。


「逸る気持ちは分かるけど今はゆっくり進みましょう。敵と遭遇するかもしれないから」


 ルリカさんの言う通りなので素直に従います。

 それに本当はルリカさんやセラさんの方こそ、急ぎたいのに我慢しているのをひしひしと感じます。クリスさんのことが心配なんだと思う。

 早く進みたいのに、私が足手まといになっているのかもしれません。

 とにかく目的がエリスさんだということは分かっているので、玉座のある部屋に向かいます。

 普段は感じないけど、改めて目的を持って玉座に向かうとその道順が複雑なことに気付きます。

 これも侵入者対策なのでしょうか?

 私はうろ覚えなので自信がないのですが……。


「あ、あの。道はこっちで合ってるんですか?」

「合ってるわよ。何回か通った道だし、コトリだって分かるでしょう?」


 自信満々に言い切るルリカさんに、つい視線を逸らしてしまいました。

 淀みなく進むからもしかしたらと思いましたが、凄い記憶力です。

 チラリとセラさんを見たら、目が合った瞬間視線を逸らされました。

 な、仲間です。そうですよね。結構複雑だから分かりにくいですよね!

 なので私たちはルリカさんを先頭にして後に続きます。

 警戒して進みましたが、結局玉座のある部屋に到着するまで、誰にも会わずに到着しました。

 玉座の間に続く扉は開け放たれています。

 玉座の前にある広間には戦いの跡が一切なく、甲冑鎧の像も、魔物を象った石像も傷一つなくそのまま存在します。

 私たちが一歩足を踏み入れれると、音が聞こえてきました。

 顔を見合わせた私たちは速度を上げて扉に近付き、そっと中を覗き込みます。


「あっ」


 とルリカさんが小さな声を上げました。

 その視線の先にいるのはクリスさんと複数の魔人さんたち。その足元には……。

 思わず嘔吐しそうになりました。

 あれは……人だったモノだ。あれは人の肉。バラバラになった。

 クリスさんも顔を青ざめているのが分かります。


「大丈夫さ?」


 また心配されてしまいました。

 私は大きく息を吸って落ち着くと、今度こそ音のする方へと顔を向けました。

 そこには見知った顔の人が二人いました。旬さんと直人さんです。それともう一人……体型は楓お姉さんっぽいけど……横から見えたその姿にドキリとしました。

 仮面? それはお兄さんから聞いた隷属の仮面というものに似ているような気がしました。

 混乱する私を他所に、戦闘は続きます。

 ただその戦闘は果たして戦闘と呼べるものだったのかというのが私の持った印象です。

 旬さんたちは私とは比べられないほど強いです。

 それなのにそれを相手取っているイグニスさんは、まるで子供でもあしらうような感じで戦っています。傍から見ると、その差は歴然としているような気がします。

 そして最後は疲労の見え始めたところに、今まで防御優先で戦っていたイグニスさんが初めて攻勢に出ると、あっさりと決着がついてしまいました。

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