第339話 攻防戦・3
「フェ、フェルド様がやられた!」
膝を付き、力なく地面に倒れていくフェルドを見て、誰かが叫び声を上げた。
その言葉は戦場を瞬く間に駆け巡り、一人、また一人と森の中に撤退していく。
どうやらフェルドは討伐隊の中でもかなりの実力者で、その者が討ち死にしたのを見て逃げていくようだ。
中には鼓舞して戦おうとする者がいたが、その者たちは少数で結局最後は後退していった。
だが中には撤退しないで戦う者たちもいた。
ヒカリが相手をしている仮面の集団だ。劣勢なのに引かない。一人、また一人と倒れていくのにまるでそれが見えていないかのように攻撃をしてくる。
撤退で手が空けば、今度はそこに魔人たちが集中する。
倒す速度はさらにあがり、仮面の集団の数も半数を切ったその時、死体が次々と爆発し始めた。
一つ一つは小さな爆発だったがそれが連鎖されると大きな爆発となって、魔人たちを呑み込んでいく。
ヒカリと一部の魔人たちは先行して死体から離れていたため被害に合うことはなかったが、死体の近くにいた魔人たちは大きな被害を被った。
またちょうどヒカリたちにとって後方が爆炎に包まれたため、後退することが出来ずに集中攻撃を受け始めた。
俺を含め水魔法を使えるものが炎を鎮火しようとしたが、火を消すことには成功したが霧のような靄が発生して視界が妨げられてしまった。
「くそ、どうすれば……」
魔人の一人が呟くがどうしようもない。
風魔法を使って霧を吹き飛ばすことを考えたが、下手に干渉してさらに悪化するかもしれないという思いがあってそれも出来ない。先ほども火を消そうとした結果、霧を発生させてしまったわけだし。
「少し離れましょう。霧の中から敵が現れるかもしれない」
俺の言葉に魔人たちが離れるのを見て、俺は一歩前に出た。
「! どうするつもりだ?」
「俺は突撃します。索敵系のスキルがあるから敵が近付けばわかるので。貴方たちはミアを頼みます!」
先ほど使ったシールドも生きているし、MAPでの反応で霧の中にいる人たちの位置も確認出来る。
一番の懸念は爆発するかもしれない死体がまだ残っているかどうかだが、こればかりはシールドが防いでくれることを祈るしかない。
それに弱いがまだ他にも反応がある。助けないと。
ヒカリのところに最速で行きたいという思いを押し殺しながら、俺は霧の中に飛び込んでいった。
幸か不幸か、無事だった人たちが固まっていたのは大きい。俺は敵の反応がないのを確認しながら近付くと、まだ息のある人たちにポーションを与えたりヒールを使ったりして回復していく。
そして動けるまで回復した人たちには後方に下がるように言ったが、皆前進すると言ってきた。
やはり先行した仲間が心配のようだ。
俺は一瞬迷ったが、マナポーションを飲み、生き残った人たちにシールド魔法を唱えた。
「一度だけ攻撃を防いでくれる魔法だ。ただないものと思って行動してくれ」
簡単に説明したのは、戸惑うといけないからだ。
俺たちは霧の中を突っ切って行ったが、やはり視界が悪いため足を取られて転倒する者たちが出た。が、待っていられない。
霧の中を飛び出せば、そこには防戦一方のヒカリたちがいた。
俺はすぐに投擲ナイフを取り出し、それを転移で飛ばした。
ちょうど仮面たちの後方に出現したナイフは、そこで様々な魔法を発動させた。
「下がる!」
それを見たヒカリが指示を出せば、魔人たちも倒れた者たちを助けながらこちらにやってきた。
「大丈夫だったか?」
俺の言葉にコクリと頷くヒカリだが、切傷が至るところにある。
「すまねえ嬢ちゃん。俺を助けたばかりに」
ヒカリはどうやら身を挺して魔人たちを助けていたようだ。それでも致命傷を避けているのはさすがと言うべきか?
「とりあえずこれで回復を」
俺はポーションを渡すと、近付いてくる仮面たちを牽制する。
最初は手数が足りず押され気味だったが、ポーションで復帰した者、霧をやっと抜け出せた者が合流して押し返すことが出来た。
そしてこれ以上は無理だと判断したのか、ついに仮面の集団は後退をはじめ、森の中へと消えて行った。
「大丈夫か?」
俺は最後の一人が消えた後も、なお森の方へと視線を向けるヒカリに声を掛けた。
手に握られた短剣は、きつく握られているのが俺でも分かった。プルプルと手が震えているから。
「うん、大丈夫。それに……解放させてあげたかった」
死こそ救い……ヒカリはそう思っているようだ。
その考えに切なさを覚えるが、今の俺たちに彼らを救う術は確かにない。
仮に王国を滅ぼしたとして、彼らはどうなるのか?
洗脳にも似た教育を受けて、機械のように命じられたまま動く。
あの仮面を取り除けばそれもなくなるのだろうか? 以前イグニスが何か言っていたがあの時は何と言っていたか?
俺たちは大きく迂回して霧の発生した地点を避けて移動し、ミアたちと合流したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます