第338話 攻防戦・2

 魔人の後衛組と一度合流したのは、ミアの護衛を頼みたかったからだ。

 ミアに助けられた魔人もいたから話はスムーズに行われ、俺は範囲魔法を唱えつつ王国の特殊部隊の工作員を倒すため行動を開始した。

 攻めてきている人たち……討伐軍になるのか? は、戦況が不利だと判断したら全滅する前に撤退を考えるはずだ、と思う。

 だが特殊部隊の工作員はそうだとは限らない。ある意味最後の一人になるまで戦うとなっても不思議じゃない。

 思い出すのはシュウザの自爆した姿。異世界人の血を入れて強者を生み出そうとしているようだったが、扱い方は極めて雑だ。

 もしかしたら王国の上層部……王にとっては異世界人は同じ人間でも人類の定義から外れていると考えているかもしれない。それこそただの消耗品としか。

 それに強者という点ではその脅威は無視出来ない。

 実際不意を打たれたとはいえ、魔人たちの勢いが止まり防御一辺倒になっている。


「助太刀します。ヒカリ! 一度こっちに」


 俺はヒカリに攻撃を仕掛けようとしていた者に向かってナイフを投擲した。

 戦闘力が高いからか必要最低限の動きで躱そうとしたがそれは悪手だ。

 躱したナイフが横を通り過ぎようとした瞬間、ナイフが爆発して工作員を吹き飛ばした。

 俺はさらに追加でナイフを投擲したが、警戒した工作員たちは大きく後退してそれを躱した。

 その間に俺はヒカリを魔人たちに紹介し、こちらの仲間であることを伝える。既に知っている魔人もいたが、俺やヒカリのことを知らない魔人もいた。

 そのまま戦っていたら敵だと思われて攻撃されていたかもしれない。特に特徴が似ているからな。黒髪黒目と。

 改めて俺たちは魔人と協力して敵を迎え撃った。

 ここにいる魔人を改めて良く見ると、全ての魔人が一本角だった。

 身体能力はそれなりにあり、戦闘能力も高い。が、圧倒的かと問われれば違うと思った。実際討伐軍の中には一対一で互角に戦う者がいる。

 むしろ討伐軍のその者が異常なのかもしれないが、鑑定してみてそのレベルの高さに驚いた。

 九〇台。もしかしてあれが噂に聞いたSクラスの冒険者なのだろうか? 服装は軽鎧を装備しているし、騎士には見えない。

 討伐軍の中にはお揃いの鎧を身に纏った一団がいるし、あちらが騎士だろう。なんか見覚えのある鎧のような気がするが……。

 俺は工作員と戦いながら、並列思考を駆使して周囲の戦況を時々確認する。

 押されている場所には魔法を付与したナイフで牽制していたからか、気が付いたら標的にされ始めた。


「人間が魔人に加担するだと! 貴様何者だ!」


 盾を構えた騎士が突撃してくる。

 やっぱりその鎧姿は見覚えがあった。

 ああ、思い出した。王国の王城で見た騎士だ。

 俺はミスリルの剣に魔力を流すと、盾ごと騎士を斬り伏せた。ちょっと力が入ったのは仕方がないと思います。

 それを見た他の騎士たちは、慌てて動きを止めて一定距離を保つため後退していく。


「お前……その髪に瞳の色。顔も見覚えがある。あの時の異世界人か!」


 どうやらあの時あの場にいた者もいるようだ。俺を異世界人と呼ぶ者がいる。


「だったらどうした?」

「何故魔人どもに加担する。あっちの小娘もそうだ。手を取り合って魔王を倒すのが我々の使命だろう!」


 そんな勝手なことを言われても困る。

 そもそも先に見切りをつけたのはそっちなのだから。

 俺はこれ以上会話は不要と思い、範囲魔法を撃ちこんだ。ファイアーストームが発動し、続くトルネードで被害が拡大していく。

 炎の勢いが上がり火柱をたてたと思ったら、それが横に広がり騎士たちを呑み込んでいく。

 焼け焦げる臭いが辺りに漂い、悲鳴がそこかしこで上がる。

 勘の良い……違う、運が良い者はその被害から免れたが、それでも七割近い騎士を倒すことが出来た。

 残った騎士はそれを見て、戦線から離れていく。

 先ほど話し掛けてきたリーダーらしき者が必死に止めようとしたが、二割近い騎士が命令を無視している。

 俺はここが狙い目でと思い騎士を攻撃しようとしたが、寸でのところで止まり後方に飛び退いた。

 すると俺が踏み込もうとした場所に剣を振り下ろす者が一人。先ほど魔人と戦っていた九〇台の男だ。

 チラリと先ほどまでいた場所を見れば、魔人が倒れている。残念ながら既に気配を感じることは出来ない。


【名前「フェルド」 職業「冒険者」 種族「人間」 レベル「94」 状態「——」】


「魔人に加担する人間……人間としての誇りを失った者は獣人以下だ!」


 フェルドは叫ぶと同時に斬りかかってきた。

 先ほどの騎士たちと違い速い。

 けど受けきれない剣戟ではない。

 俺は良く見ながら攻撃を捌き、タイミングを見計らってカウンターを叩きこもうとして、フェルドの口元が微妙に歪むのを見た。

 その瞬間危険を察知した俺は、攻撃のため一歩踏み込もうとしていたのを止めて、振り下ろそうとしていた手も止めた。

 するとまさにあり得ない速度の剣戟が目と鼻の先を通り過ぎた。

 まるで俺のソードスラッシュみたいな感じで剣速が上がった。

 チッという舌打ちが聞こえ、一瞬動きが止まったが、休む間もなくフェルドは一歩引いた俺に攻撃を仕掛けてきた。

 俺は先ほどと同じように攻撃を受け止め躱すが、いつ剣速を上げて攻撃してくるかが分からず徐々に相手のペースに引き込まれていく。

 だがいつまで警戒してもその攻撃は飛んでこない。

 注意深くフェルドを見れば、顔が徐々に真っ赤になっていっている。

 連続してこれだけの攻撃を繰り広げれば疲れもするか?

 それに……もしかしてあの攻撃を撃てない?

 俺はチラリとステータスを確認してMPとSPの残量を見た。戦いながら、徐々に回復していっているのが分かる。

 そしてフェルドの攻撃に合わせるように剣を振り抜き力技で後退させると、結界魔法でシールドを張って懐に踏み込んだ。

 ここであの剣戟が万が一きてもシールドで防ぐことが出来る。

 そう思って振り下ろした剣は、動きの鈍くなったフェルドの剣の横をすり抜け、その体を深々と斬り裂いていった。


 

 

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