第337話 攻防戦・1

 転移した先は緑溢れる庭園だった。

 ここは城の廊下から見たことのある場所だ。

 周囲は静かだが、遠くの方で金属がぶつかり合う音や爆破音のようなものが聞こえる。


「どうするのさ?」


 セラが音のする方を見ながら聞いてきた。

 滞在中そんなに良く城の中を歩いたわけじゃないからあまり道が分からない。ルリカたちに聞いたが皆同じような感じだ。MAPの方も表示されない部屋がいくつかあった。

 エリスと会ったあの玉座のような広間もその一つだ。

 けど戦いの音、防衛しているということは、城の中に入る入口がそちらにあるかもしれない。もしくはそこに魔人がいれば、聞くことが出来るかもしれない。顔見知りがいれば、だけど。

 あとは探せば他にもあるかもしれないが、何と戦っているかを確認する必要はある、と思ったのが大きい。


「一度確認しよう。そこに魔人がいれば話を聞けるかもだし、戦っている以上、魔王の討伐隊が攻めて来たと考えるのが普通だ」


 俺の言葉にコトリが手に持つ杖をギュッと握った。

 ここに来る戦力として一番高い可能性は一緒に召喚された者たち。王国の操り人形と化していたら戦いは避けられないだろう。

 俺たちは周囲を警戒しながら速足で移動し、そして見た。

 地面には砕けた石像がいくつも転がり、何人もの人が転がっている。その中には反応のある者もいればない者もいる。

 今も激しい剣戟が響き、魔法が飛び交っている。


「とりあえず救える負傷者を探そう」

「それは魔人限定でってこと?」

「……そうだな。その他については事情を聞いてからだ」


 ミアの言葉に少し考えてから答えた。

 優先すべきことはクリスの情報。魔王城の結界内に入ったのに、未だMAPにはクリスの反応がない。あとは表示されない場所にいることを願うしかない。

 俺たちは二手に別れて負傷した魔人に近寄りヒールを唱えた。

 最初効くかな? とか思ったが問題なく回復することが出来た。

 治療された魔人は人間に助けられたことに驚き身構えたが、すぐにコトリに気付いて警戒を解いてくれた。

 その様子を見てミアたちの方は大丈夫かと思ったが、どうやら顔見知りだったらしく大丈夫のようだった。


「何故君たちまでここに?」

「仲間を……エリスさんの妹を探している。見なかったか?」

「ああ、魔王様の妹君は見た。今は城の方にいるはずだ」


 その魔人の視線を追えば、破壊された入口がある。


「何人かが既に中に侵入している。イグニス様たち上位の方々がいるから大丈夫だと思うが……たぶん、あれは勇者だった」


 詳しく聞けば勇者たちが正面を突破した後に、それを追うようにクリスが中に入っていったということだ。

 中に入った者を追おうとしたが、それを邪魔するように騎士たちが現れて、挟撃されてその魔人は倒れたという。

 その騎士たちが今何処にいるかは分からないと言う。

 どうする? 俺は並列思考を使いながら瞬時に周囲の状況を確認する。

 ここも今は均衡を保っているが、敵が次々と押し寄せて来ている。

 勇者たちがどれほど力を付けているか分からないが、ここを突破されたらさらに劣勢に陥るかもしれない。


「これはポーションだ。すまないがまだ息のある者に使ってくれないか」

「あ、ああ。分かった」

「ヒカリもすまないが頼む」


 俺の言葉にコクリと頷き、ヒカリが走り出した。


「お兄ちゃん、私たちはどうするの?」

「一度ミアたちと合流する。話はそれからだ」


 俺たちはミアが助けた魔人にポーションを渡し、クリスが既に城の中にいることを話す。勇者に侵入されているということと共に。


「なら早くいかないと」


 ルリカの悲鳴にも似た声が響く。


「だがここをそのままにしておくのも危険だ。そこで俺と……ヒカリはここで敵の足止めを行う。ルリカたちは先に行ってクリスを追ってくれ」

「私もここに残るわ。回復が必要になってくるはずだから」


 ミアの言葉はもっともだがクリスの方も心配だ。

 何かあった時のために神聖魔法を使える者がいた方が安心出来るからだ。


「ミアはこっちに残るさ。向こうはポーションもあるし、クリスに何かあったらこっちに連れてくるさ」


 俺が迷っているとセラが助け舟を出してきた。

 そうだな。それにこちらの負傷者を治して復帰してもらえば、こっちの戦闘が早く終わるかもしれない。

 本当は二手に別れるのは危険だし、クリスを優先すべきだと思う。

 けどここが決壊すると、被害はもっと広がりそうな予感がする。

 本当なら精霊魔法を使えるコトリもこっちに残ってもらいたいところだが、人に攻撃するのは無理だろう。それに……。


「分かった。それで頼む。コトリは万が一勇者たちを説得出来そうなら説得を試みてくれ」


 たぶん無理だと思いながら言った。

 コトリとしてはここで人と戦う方が辛いはずだからな。理由があればコトリとしても向こうに行きやすいだろう。


「うん、分かったよお兄ちゃん」


 三人には犬型ゴーレムを一応護衛につけた。主にコトリ用だな。

 俺は城の中に無事入ったのを確認して、一度ヒカリと合流してからミアたちと別れて負傷者を治療していった。

 単純な戦闘力では魔人の方が上だが、連携力でいえば向こうの方が優れていた。

 その上魔人の方は離脱する人が増えたが、向こうは離脱する人の数以上の援軍が次々と現れるから徐々に形勢は悪くなっていた。

 しかし俺たちが治療したことで戦線に戦えなくなっていた魔人が復帰したことで、徐々に魔人側が押し始めた。


「主、あれ」


 治療も一段落してそろそろ後を追おうかと考えていた時に、森の中からとある一団が現れた。

 その一団は他とは違う場所から姿を現し、魔人たちの側面に攻撃を仕掛けた。

 黒を基調とした服に身を包み、その多くが見覚えのある仮面……隷属の仮面をしていた。

 間違いなく王国の軍隊だ。髪の毛の殆どが真っ黒な衣装と同じ色をしている。


「……ヒカリ戦えるのか?」

「うん、任せて」


 無理なら先にルリカたちと合流してもらおうと思ったが、ヒカリは力強い言葉を返してきた。

 俺は魔人の後衛組と合流して、防衛戦に参加することにした。

 

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