第336話 失踪?

「ねえ、クリス見ていない?」


 それは朝食の準備がもう少しで終わりそうになった頃だった。

 ルリカが台所に顔を出して聞いてきた。


「いや、俺は見てないな」


 起きてから顔を洗ってすぐに朝食の準備を始めたからな。

 相変わらずスイレンのところでお世話になっているから、交代で朝食の準備をしている。

 今日はミアとコトリの三人で作っている。

 コトリは意外と手際が良くて最初驚いたが、元の世界にいた時から親の手伝いをしていたらしく、最果ての町に連れて来られてからも手伝っているからこっちの料理方法にも慣れたと言っていた。


「そうなんだ。朝起きたらクリスがいなくて、セラと近くを探したんだけど何処にもいないの」


 探索系のスキルを持つルリカで分からないということは、もしかして町の外に出たのか?

 ルリカは額に汗を浮かべているし、近くを探したと言ったけど多分かなりの広範囲を探したに違いない。

 俺はMAPを呼び出し気配察知と魔力察知を発動させる。

 町には……クリスの反応がない。なら町の外か?

 今のクリスなら精霊魔法を自由に使えるから戦闘力は高い。

 ただあくまで後衛職だから、シールドがあるとはいえ接近されたら危険だ。

 俺は町の外を見たが、クリスの反応はない。魔力を流しMAPを拡大したがそれでも見つからない。ただ魔王城に近付く複数の別の反応を捉えた。

 一瞬最悪のことを想像したが、もう一つ可能性があることに気付いた。

 けど朝になったら姿がなかったという話だった。普通に移動してこんなに早く到着出来るとは思えない。

 けど方法はある。俺はアイテムボックスからイグニスから受け取った魔道具を見た。

 もし、これがクリスの手にも渡っていたら?

 翁は確かにあの時言っていた。魔力を多く持っている者なら使えると。俺たちのパーティーなら、俺となら使えるだろう、と。

 もしそうなら、誰かがこれと同じものをクリスに渡したことになる。

 一体誰が?

 エリスの心情を考えれば魔人たちがクリスに渡すとは思えない。

 しかしエリスのことを考えれば魔人たちが渡す可能性がある。

 エリスは何処か、既に運命を受け入れている。自分が犠牲になっても良いような感じだった。

 ではそのエリスを魔王様と呼ぶ魔人たちはどうか? 今も守ろうと色々なことを模索している、ような気がする。

 クリスを利用して、エリスに運命に抗ってもらおうと考える者がいるのかもしれない。それほど魔人たちの魔王に……エリスに対する接し方は少し異常にも見えた。


「何か思い当たることがあるの?」

「ああ、俺のMAPでもクリスが表示されない」


 俺の言葉にルリカが息を呑んだ。

 反応がない=死を連想したのかもだがそれは早合点し過ぎだ。


「だから魔王城にいる可能性がある」


 俺は焦るルリカに魔王城と最果ての町の結界のことと、MAP機能で反応が表示されないことを説明した。


「なら一人で魔王城に行ったっていうの? 黒い森の中を移動して?」

「それも違う。いくらクリスがエリスさんのことを心配してるからといって、危険な場所を一人で行くとは思えない。現実的じゃないしな。なら魔道具を使ったに違いない」

「魔道具?」

「そうだ。魔王城に一瞬で移動出来るやつをルリカも知ってるだろ。実は俺もイグニスから渡された。狙いは何かは分からなかったが、もしかしたら誰かがクリスに渡す可能性を考えていたのかもしれない」


 俺は翁という魔人に、その魔道具を俺とクリスなら使えるだろうと聞いたことも合わせて話した。


「なら急いで追わないと!」

「急ぐのは分かったが、とりあえず準備をしてから行こう。今向こうがどうなってるか分からないから。ルリカはセラとヒカリに話してくれ。俺はミアに話してくる」


 一端ここで二手に別れて、それぞれ準備をすることにした。

 あれから魔人が最果ての町に来ることはなくなったため、今魔王城がどうなっているか分からないのだ。連絡は……もしかしたらあるかもだが、スイレンからは何も聞いていない。

 料理は途中だが、殆ど終わっている。あとはコトリ一人でも大丈夫……なはず。

 ミアとコトリにクリスがいないことを話して、魔王城に行くことを話したらミアだけでなくコトリもついて来るという話になった。

 仕方なくスイレンに事情を話して魔王城に行くから朝食の準備を交代して欲しいことを話し、ついでに魔王城と連絡が取れないか聞いてみた。

 スイレンが部屋に戻り確認しにいってくれたが、しばらくして慌てて戻ってきた。

 何度呼び掛けても向こうからの返答がないとのことだった。


「どうか気を付けて行ってください」


 スイレンの言葉に俺たちは頷いた。


「とりあえず何処に出るか分からないから、突然敵と遭遇する場合もある。もちろん魔人かもだが、何があってもいいように行こう」


 俺はとりあえず皆に結界術のシールドを使った。

 これで不意打ちの一撃は防いでくれるはず。

 本来なら俺が一番に行ければいいが、魔道具を維持しておく必要があるから最後になる。

 一応壁役としてゴーレムを先行させるが、ゴーレムだと魔人に攻撃されそうだな。

 もっとも俺たちのことを知らない魔人が飛んだ先にいたら、そこで攻撃される可能性もゼロじゃないか。

 俺はとりあえず魔道具を起動させ、ゴーレムに命令を出した。

 

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