第335話 閑話・14
side 王国騎士団
「隊長本当に大丈夫なんですか?」
「? 何の話だ」
「第三騎士団のことですよ。それと新人の多い第五騎士団が王都の防衛なんて、何かあった時防げるとは思えません」
「……かと言って黒い森の前線に奴らを連れて来ても意味がないだろう。第三騎士団なんて名ばかりの貴族たちの集まりだ。いたら邪魔になるだけだ」
「そ、それは確かにそうですが……」
「冒険者もいるし、彼らに頼るしかないだろう。それに魔人たちの目をこちらに惹き付ければいいことだし、そもそもこちらの作戦が失敗したら、それこそ人類が終わるかもしれないんだぞ?」
「そうですね。我々第二騎士団と第一騎士団が前線を維持して攻撃を受け持たないとですからね」
「ああ、その隙に勇者様たちが魔王を倒してくれれば全てが終わる。だから勇者様たちが安全に魔王の元に到着出来るように、我々が頑張るしかないんだ」
「けどいつまで続くんですか? 黒い森に進撃して既に二〇日以上たってるんですが」
「魔物の襲撃が止まらないからな。広範囲魔法の使い手である魔導王様がいなければどうなってたか分からないな」
「獣王国の援軍も結局防衛都市と王都の方に別れて参加みたいですしね。前線まで来てくれれば良かったのに」
「そこは総隊長の所為だ。獣の手なんて借りないなんて拒否したそうだからな」
「魔物や魔人と戦うって時に、味方同士で足の引っ張り合いですか……」
「今に始まったことじゃないからな。帝国の方じゃ共和国に協力を求めたが、大した戦力が集まらなかったって話だし」
「魔導国の魔法使い部隊と、聖王国の神官はそれなりに参加してくれたみたいですけどね。彼らの士気が高いことが救いですね」
「聖王国は魔人に聖女が殺されたからな。その怒りもあるんだろうな。よし、休憩はここまでだ。第二騎士団。前進するぞ!」
「た、助けてくれー」
「う、腕がー、腕がー」
「落ち着け。隊列を立て直せ! 騎士団は魔法使い部隊を守れ!」
「負傷者を後方へ運べ! 神官に治療を頼むんだ!」
「魔物も突撃してきたぞ。冒険者は迎え討ってくれ!」
「隊長やばいですよ」
「ああ、ここまで圧倒的だとはな……しかもたったの二〇人の魔人が参戦しただけでここまで被害が広がるとは……しかも魔物と連動して攻撃してくるとは」
「こ、後退しますか?」
「いや、まずは防御陣形を組むんだ。耐えてる間にこれを使う」
「何ですかそれは?」
「王より授かった魔道具だ。これを使うと魔人の動きを封じることが出来るそうだ」
「な、なら早く使わないと!」
「効果時間があるらしいから無駄に使うわけにはいかないんだよ。次に魔人が攻撃を仕掛けて来た時に使う!」
「分かりました。けど本当に効くんですか?」
「それは大丈夫……なはずだ」
「…………」
「よし、今だ!」
「! 隊長。確かに動きが鈍くなっています。魔人だけでなく魔物の動きも悪いです」
「突撃を掛けるぞ! 魔人を倒せ! この機会を逃すと後がないぞ!」
「ど、どうにか撃退出来ましたね」
「ああ、けど半数以上は逃した。乱戦の間に後退していきやがったな」
「第一騎士団も被害が大きいみたいですよ。向こうも例の魔道具を使ったみたいですけど……」
「やはり空を飛べるっていうのが大きいな。魔導王様の魔法以外はほぼ届かなくなったからな」
「そうですね。それよりも今後の方針はどうなりましたか?」
「治療が完了次第前進だって話だ。ここで後退したら確かに潜入を目指す勇者様が見つかる可能性が高いからな」
「こっちも被害は大きいんですけどね」
「仕方ないだろう。それに下手に後退すると、逆に背後から魔物に襲われかねない」
「唯一の救いは飯に困らないことですかね」
「あとは魔石の回収だな。この魔道具は魔石さえあれば再使用可能みたいだからな。ただ魔石を交換しても連続使用は無理だって話だけどな」
「そうなんですか?」
「ああ、何か条件がどうとか説明されたな」
「そこはしっかり覚えておいて下さいよ」
「難しいことは分からないんだよ。と・に・か・く、良質の魔石なら稼働時間が長いって話だから、強い魔石を冒険者から譲ってもらえ。理由を話せば向こうも従ってくれるだろう。魔人の強さは身に染みただろうしな」
「……どうですかね? ランクS冒険者とか化け物ですよ。向こうは殆ど被害らしい被害がなかったようですし」
「……Aランクのやつらもなのか?」
「あ~、Aランクの人たちは後退して魔物だけと戦ったみたいです。Sランクの方が魔人の足止めをしてたみたいです」
「……そうか。とりあえず頼んでこい」
side 魔王軍
「ギード様いいんですか?」
「ああ、あっちはイグニスたちに任せておけ」
「ですがそれでは魔王様の守りが!」
「……これは魔王様の頼みでもある。それを疎かにするのか!」
「ですが……向こうでは俺たちの力は制限されます」
「翁の話では結界の要である聖剣は勇者が持っているから、結界は弱まっているだろうってことだ」
「ですが向こうだってそれは分かっているんじゃないんですか?」
「一応対策はしてるだろうな」
「だ、だったら!」
「大丈夫だ。その点は問題ない。協力者がいるからな」
「協力者ですか?」
「ああ、陰険なイグニスの奴が動いているんだ。それぐらいするだろう」
「そ、そうですよね。イグニス様のことです。ギード様と違ってしっかり策を練ってくれてますよね」
「……ん? それはどういう意味だ」
「い、いえ。特に深い意味は……」
「チッ、とにかく急ぐぞ。今なら手薄になっているはずだ。この戦いで全てを終わらせるつもりでいく」
「は、はい」
side 竜王国
「お父様お呼びですか?」
「うむ、良く来てくれた。さて早速だがサークよ。お主にこの席を譲ることにした」
「ち、父上。突然どうしたんですか?」
「突然ではない。これは以前からわしが考えていたことだ。ただまだお主は未熟だ。だからその間はユイニに補助に回ってもらうがよい。ユイニもいいな?」
「……はい、それがお父様の命令なら拝命いたします」
「うむ……サークよ、そのような不安な顔をするな。お主なら大丈夫だ。もっと自信を持つが良い。それとサハナよ。良き相談者となって、サークを助けてやってくれ」
「はい、お父様」
「うむ、では頼んだぞ」
「……父上は何処か行ってしまうのですか?」
「……決着を付けに行ってくる。長いことわしがこの国を見守ってきたが、いつまでもそれが続くとは限らない。そのための世代交代だと思ってくれればよい」
「分かりました……サーク君、サハナ。お別れを」
「……正直言って不安でいっぱいです。ですが父上。姉上とサハナは僕が必ず守ってみせます!」
「お兄様。民のことも考えてくださいね」
「ふむ、その心意気やよし。頼もしい限りだ」
「お兄様。顔がにやけてますよ。お父様に褒められて嬉しいのは分かりますが」「……サハナもほどほどにな」
「はい、ではお兄様。行きましょう」
「私たちが心配することではないと思いますが、お父様、どうかお気をつけて」
「良かったのですか?」
「ああ。それに決着を付けに行くというのは本当だからのう」
「……そうですか」
「アルフリーデよ。すまぬがあの子たちのことをよろしく頼む」
「大丈夫です。私にとってもあの子たちは可愛い子供たちですから……」
「……わしのことを恨んでおらぬのか?」
「……どうでしょう? ですがあの子は……アーシャは恨んでいないと思いますから。それに王が苦しんでいたのも知っていますから」
「……そうか」
「それよりも私はあの子たちが心配です。今ではないと駄目なのですか?」
「うむ、今回が最初で最後のチャンスかもしれぬからのう」
「あの異世界人の少年ですか?」
「いや、それだけではない。魔人たちの準備も終わったということだ。なら今度こそは動くべきだと思ってのう」
「……なら私からは何も言いません」
「……では後は頼みましたよ。義姉さん」
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