第334話 最果ての町・7

 あの日。最果ての町に戻る時に、俺はイグニスからある魔道具を渡された。

 それは魔王城に転移出来るという魔道具だった。

 何故イグニスが俺に渡したのか、俺には理解出来なかった。

 イグニスからしたら魔王の意に背く行為だ。魔王第一主義のイグニスからしたら、考えられない行為だと思った。

 真意が分からないが、クリスたちのことを考えると必要になるのかもしれない。



 最果ての町に戻ってからというもの、クリスの元気がない。

 こちらに戻って来た当初は泣き疲れて、伏せってしまったほどだ。

 その後調子を取り戻したが、常に何か考え事をしている時間が増えた。何度か声を掛けたが、「大丈夫です」と、全然大丈夫じゃなさそうな表情で言われた。

 ルリカとセラの表情も暗い。

 そして気になる点が一つ。こちらの町から戻ってきてから、何か町の人たちから見られているような視線を感じる。


「その、前は新しく来た人が珍しいって感じで声を掛けてきて見られているような気がしたけど、今は何か監視されてるような感じがするの」


 ミアの言う通り。まるで監視されてるような感じを受けている。

 俺以外にもそう感じる以上、きっとそうなんだろう。

 エリスはスイレンと連絡をとる術を持っているようだし、エリスから頼まれて俺たちの動きに神経を尖らせているのかもしれない。

 特にクリスが何かの拍子に町を出て、魔王城に来ないかを警戒しているのかもしれない。

 クリスの精霊の力をフルに使えば行けるかもしれないが、実際の魔王城までの距離は遠い。

 俺のMAP機能でも、MPをかなり消費しないと表示されないほどの距離がある。

 一日二日で到達出来る距離じゃないのだ。

 一応魔王城と最果ての町の間にはあまり魔物がいないという話だが、全くいないというわけじゃない。

 実際に町の人たちも狩りをしているからな。

 しかも魔王城に近付くほど強い魔物がいるみたいだし。

 幸い魔王城は特殊な結界に覆われているから、魔物が魔王城を襲撃するということはないという話だったが。もちろんこの最果ての町も同様に。

 そしてこのMAP機能で一つ気付いた点があった。

 本来なら気配察知や魔力察知を使えば反応を拾えるのに、ここからだと魔王城に誰がいるかが分からない。最果ての町も同様に、町の外から調べると反応が拾えなくなる。

 どうやら結界がMAP機能を阻害しているようだ。

 町中にいる時に使えば町の人たちが何処にいるかは分かるんだけどな。


「そう言えば、コトリに聞いたんだがアドニスと会ったって聞いたが、大丈夫だったか?」


 ふと思い出し聞いてみた。

 こうしてミアとゆっくり話すことが出来なかったからな。


「大丈夫だったよ。ヒカリちゃん殺気だって大変だったけど、なんかバツの悪そうな顔をしながら頭を下げてきました」

「そうなのか?」

「はい」


 ミアが突然可笑しそうに笑ったからびっくりした。


「話を聞いたら、何でも凄く怒られたって言ってましたよ。魔人の方々に怒られて、次に魔王様……エリスにも怒られたって言ってたかな」


 涙目のままアドニスの姿を見て、ヒカリも毒気が抜かれたようだったそうだ。


「そうか……けどイグニスたちが襲ってこないで普通に接してきたから忘れてたけど、ミアは一度命を狙われてたんだもんな。もっと一緒にいたりした方が良かったな」


 俺以外が一人で行動するということはなかったけど、やはり聖女という肩書を持っているから微妙な立ち位置だったかもしれない。


「なら、もっと私に構ってくれてもいいですよ?」

「……今の問題が終わってからでお願いします」


 正直そこまで器用に立ち回れるとは思っていない。

 一応何かあっても良いようにスキルを上げているが、最早明日何が起こってもおかしくないほど状況は刻一刻と変わっている。

 久しぶりに顔を出したクリスたちと一緒に食事を済ませ、俺は一人部屋に戻った。

 楽しそうに会話に入っていたが、やはりクリスは無理をしているような気がする。

 けど掛ける言葉がないから、結局何も言えなかった。

 俺はベッドに横になりステータスの確認をした。


名前「藤宮そら」 職業「魔導士」 種族「異世界人」 レベルなし


HP1090/1090 MP1090/1090(+200) SP1090/1090


筋力…1080(+0)   体力…1080(+0) 素早…1080(+0)

魔力…1080(+200) 器用…1080(+0) 幸運…1080(+0)


スキル「ウォーキングLv108」

効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1習得)」

経験値カウンター 11761/1000000


スキルポイント 44


習得スキル

「鑑定LvMAX」「人物鑑定LvMAX」「鑑定阻害Lv9」「並列思考LvMAX」


「ソードマスターLvMAX」「身体強化LvMAX」「気配察知LvMAX」

「魔力察知LvMAX」「自然回復向上LvMAX」「状態異常耐性LvMAX」

「痛覚軽減Lv7」「気配遮断LvMAX」「暗視LvMAX」

投擲とうてき・射撃Lv9」「威圧Lv7」「MP消費軽減Lv7」


「魔力操作LvMAX」「生活魔法LvMAX」「火魔法LvMAX」「水魔法Lv9」

「風魔法Lv9」「土魔法LvMAX」「光魔法Lv7」「闇魔法Lv7」

「空間魔法LvMAX」「神聖魔法Lv8」「錬金術LvMAX」「付与術LvMAX」

「創造LvMAX」「転移Lv9」「重力魔法Lv6」「時空魔法Lv9」「生命付与Lv6」

「複製Lv5」「吸収Lv5」


「料理LvMAX」「造形Lv4」


称号

「限界突破せし者」


 転移と時空魔法があと少しで10になるが、時空魔法はやっと9になったばかりだから、10にするのにはかなりの時間が掛かる。

 そもそもここまで上げるのにどれだけマナポーションを飲んだか……思い出すだけで吐きそうになるな。

 けど9と10の差は大きい。9までは範囲内の俺以外の者の時間を遅くさせる効果だが、10になると時間の完全停止が可能だ。もっとも停めていられる時間は魔力量……MPが続く限りだからそんなに長くないけど。

 しかも発動だけでかなり消費されるから、効果は大きいが使い勝手が悪いかもしれないという可能性もある。


「なかなか上手くいかないな」


 それから二日後。事態は大きく動き出した。

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